'12/11/7
万里の長城遭難死 ツアー会社の責任重い
中国・北京に近い万里の長城で、日本人のツアー客3人が遭難死した。寒波が襲来し、強風と記録的な大雪で身動きが取れなくなったという。
現地は一般の観光客が少ない「穴場」的なスポット。だが急峻(きゅうしゅん)な山岳地帯ではなく、人里にも程近いため、普段なら遭難は考えにくい。トレッキング感覚の軽装があだとなったようだ。
雪山装備は不要と判断したのは、ツアーを企画した東京の旅行会社アミューズトラベルだという。ところが、肝心の安全対策は現地任せにしていた。客の命を預かっている意識に欠けている。そんな非難が集中するのも当然だろう。
山行きツアーの遭難事故ではいわく付きの会社でもあった。
2009年7月、北海道・トムラウシ山で暴風雨の中、ガイド1人を含む8人が低体温症に見舞われ、犠牲になった。
これもアミューズ社が企画した。天候悪化など危険を避ける判断基準が会社側になかったとされ、業務上過失致死容疑で道警が今も捜査を続ける。
今回も悪天候時にツアーを続行した。日程をこなすことを優先し、引き返す判断ができなかった点で、教訓は生かせなかった。これでは、会社側がどれほど謝罪してもむなしく響く。
アミューズ社は「大雪は想定外だった」とする。たとえそうだとしても晩秋の北京である。この時季、十分な防寒対策を参加者に促すことの方が、旅行会社としては本筋ではないか。
ほかにも問題点はきりがない。自社での下見をしないまま、この場所への初のツアーを送り出した。安全対策は中国人社員が見つけてきた現地の業者に委ねたが、事前の相互連絡が十分だったとは思えない。
毎日5〜6時間ほど、1週間ぶっ通しで約100キロを歩くコース。長城を訪れた人は知っているように、アップダウンは結構きつく、体力を消耗させる。
ところが会社側はツアー募集時に、0〜5の6段階ある体力度について、「特別な技術は必要ない」というレベル3にしていた。
亡くなった3人は山歩き経験が豊富で、海外でトレッキングを楽しんできた人もいる。会社の宣伝文句をうのみにしたのだろうか。
地球上のあちこちで異常気象が頻発する時代である。いつ、どこでも空模様は急変するとの自覚と備えが欠かせまい。
観光庁も責任の一端は免れない。トムラウシ山での事故を受けアミューズ社を一時、業務停止にした。安全面のチェックを怠りなく続けていたら悲劇は防げたのではないか。
業界団体の対応も求められよう。ガイドの合同研修の実施、天候をはじめ安全に関する情報の共有など、再発防止のための抜本策を示してもらいたい。
登山や山歩きはツアーになじまないと警鐘を鳴らす専門家もいる。経験や体力はまちまち。悪天候で引き返すかどうか、初顔合わせの参加者同士で意見が分かれる場合もままあろう。
ましてや海外ともなれば、言葉の壁もあって情報は不足しがち。なのに、はるばる来たのだからと無理をしがちにもなる。
ツアー会社の責任は重い。ただ参加は自己責任を伴う。命を守る最後のとりでは自分自身だとの自覚から始めたい。