アメリカ大統領選でのオバマ大統領の再選勝利についてこんな記事を書きました。
産経新聞の紙面では「米国の分断は続く」という見出しになっています。
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〔ワシントン=古森義久〕
「二つのアメリカ」の戦いがひとまず終わった。国家のあり方、政府と国民との関係、経済での官と民の区分、倫理や信仰、そして対外姿勢まで米国の近年の歴史でも2012年の大統領選ほど対照的な思考や価値観の違いが交錯した対決は稀だった。オバマ大統領に託された再信任の重みは明白だが、二期目の統治は国政のさらに険しい分裂をも思わせる。
前回の大統領選では「団結するアメリカ」や「超党派」の主張を前面に出して圧勝したオバマ氏は実際の施策ではリベラルの「大きな政府」を推進した。景気刺激策への巨額の公費の投入、そしてオバマケアと呼ばれる画期的な医療保険改革がその象徴だった。その結果、財政赤字半減の公約は吹き飛び、オバマケアは共和党だけでなく国民多数派から反発され、凍結に近い状態となった。
オバマ大統領はさらに少数民族や弱者、貧者の福祉を優先させる、富の再分配の効用を唱えた。市場経済の放任部分を官の力で抑える方途をも進めた。社会主義カラーさえにじむこの種の政策はその恩恵を直接に受ける層や民主党リベラル派からは歓迎されたが、保守志向の側からは「アメリカらしさの否定」として猛反発された。就任当初には68%だった支持率が今回の選挙戦では40%台に終始したことがその経緯を物語る。
共和党のロムニー候補はオバマ政権のこのリベラル施策に焦点をしぼり、戦いを挑んだ。「奪われた米国を取り戻す」というまでの過激な標語を打ち出した。民間経済での活躍や州知事としての実績に加え、自己の理念を明快に語る才能は多数の有権者にアピールし、現職大統領へのチャレンジではきわめて善戦したといえよう。
だがオバマ陣営はロムニー候補が唱える自由競争重視の保守主義の弱肉強食とみえる側面を標的にして反撃した。富裕層への攻撃も強めた。その一方、オバマ大統領が本来、信奉するとみられる政府の力で国民を世話するリベラリズムを正面から語ることは少なく、むしろ中道の路線を示唆し続けた。任期中に最大の精力を注いだオバマケアを選挙キャンペーンでほとんど論題にしなかったのが象徴的だった。
オバマ氏のこの柔軟姿勢が共和党側からの「米国社会を変容させてしまう過激なリベラル指導者」という批判を薄めた。その結果、無党派や中間の層の離反をかなり食い止めたといえる。同氏を政策的に中道や穏健だとみなした有権者も明らかに少なくなかった。
再選の要因としてはもちろんオバマ氏の政治リーダーとしての天性の資質も大きい。とくに社会の主舞台からはずれがちな層には救世主のような魅力を発揮する。民主主義政治では決して軽視できない要素である。民主党の固定の選挙組織の強力さも顕著だった。
しかしオバマ大統領が二期目では本来のリベラル路線をより大胆に進むことは確実だろう。政府こそが国民を救い、導く責務を持つという哲学がいつも背景に浮かぶ路線である。だが米国民の多数派は無党派層も含めて、まだまだ民間の活力や個人の自助努力を優先させる保守志向なのだ。オバマケアへの反対が67%などという世論調査結果が出るのはそのためである。
共和党側はそんな背景を踏まえ、オバマ大統領への対決姿勢をますます鋭くするだろう。だから「二つのアメリカ」の戦いはなお激しく続くのだといえよう。(ワシントン駐在編集特別委員)
by dpal451
憲法が日本を亡ぼす