緩和ケア医・岡部健さんインタビュー全文(1)自身もがんで余命宣告

 宮城県を中心に在宅ホスピスに取り組み、年間300人以上を看取っている医療グループ「爽秋会(そうしゅうかい)」理事長で医師、岡部(たけし)さん(62)は、自身もがんで一時は「余命10か月」と宣告された。死や看取りについて聞いた。(藤田勝)

岡部健(おかべ・たけし)
 1950年、栃木県生まれ。東北大医学部卒。静岡県立総合病院呼吸器外科医長、宮城県立成人病センター呼吸器科医長など経て、1997年、岡部医院開業。99年、医療グループ「爽秋会」設立。2011年4月から東北大医学部臨床教授。

 ――どのように、がんが見つかったのですか。

 「2010年1月末ごろ、自分では分からなかったのですが、看護師に『顔が青白い』と言われて貧血に気づきました。それで友人の医師に検査してもらい、胃がんだと分かりました。すでに私は同世代の人も看取っていますから、自分がそうなっても不思議じゃありません。ばくちみたいなもので、『当たってしまったかな』という感じでした。それからは、患者の方も医者なので、やれるところまでは一気に治療が進みました」

 ――現在の体調はいかがですか。

 「腹の具合が悪く、便が出ないとつらいです。出たら食べます。エネルギーの蓄えがきかないので、おにぎりなどを少しずつでも食べていないと低血糖になってしまいます。診療は、若い医師にどうしてもと頼まれた患者を数人だけ診ています。会議や講演にも行きますが、長時間の仕事は無理です。登山が好きだったので、今でも仲間が近郊の山に誘ってくれるのですが、体力に自信がありません」

 「私たちの法人は、宮城県に5拠点、福島県に1拠点あり、毎年約400人の在宅患者を診て、340人ぐらい看取っています。地域の在宅での看取りのかなりの部分を受け持っています。この組織をなくす訳にはいかないので、以前は自分ひとりで決めていたことを担当者に振り分けるようにしていますが、なかなか大変です」

2010年に胃がんと分かる…肝臓などにも転移

 ――胃がんの開腹手術の際、肝臓などにも転移が見つかり、全部は取り切れず、10年6月には「余命10か月」と宣告されたそうですが、その通りにはなりませんでした。

 「がんを抑えられる確率は1%もないでしょう。いつ、どうなるか分かりません。抗がん剤治療を受ける体力もなくなってからは、一切の検査を受けていないので、がんは大きくなっているかもしれません。検査データを刻一刻と見ていたら、こんな取材を受ける余裕もないでしょう。人間はすべてを知る必要はないのです。もう治療は難しいと思いますが、症状を抑える薬なら何か使えるかもしれません。いずれ医院の緩和ケアチームに世話になります。自分のために作った訳じゃないのですが」(続く)

2012年6月28日 読売新聞)

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