サンデー・トピックス:アイヌ遺骨訴訟 子孫ら「早く故郷に戻して」 返還進まず北大を提訴 /北海道
毎日新聞 2012年11月04日 地方版
原告の一人、小川隆吉さん(77)は収集の経緯や責任の所在を北大に求め、情報開示も請求。市民グループ「北大開示文書研究会」が08年8月に発足し、支援している。今年2月、北大との話し合いを持とうとしたが、北大が応じなかったため、提訴に踏み切った。
北大は10年度から遺骨の保管状況などの全学調査を始め、今年度末に結果をまとめる。しかし、詳しい調査内容などは一切明らかにしていない。今回の提訴についても、北大総務課の辻邦章課長は「裁判の中で主張を明らかにしたい」とコメントを拒否している。
■他に1500体
全国の大学に遺骨がどれくらい保管されているのか。日本人類学会が10年12月に公表した調査では、少なくとも北大や札幌医大、東京大、京都大など7大学が保管。北大を除く6大学で約1500体あるとしている。文部科学省は全国公立大と私立大の一部計256校を対象に保管の有無などを年内に報告することを求めている。
アイヌ政策を検討する政府のアイヌ政策推進会議は7月、各大学が遺骨の返還に取り組むとした。しかし、明治時代に収集された遺骨も多く、身元の割り出しは難しい。仮に判明しても、子孫の行方が分からないケースも想定される。
政府は白老町に作る「民族共生の象徴空間」で「尊厳ある慰霊」を行う方針で、アイヌ民族の理解が得られれば、人類学などの研究にも利用したいとしている。
■米国では返還
先住民族の遺骨の返還請求権は、国連総会で07年9月に採択された先住民族の権利宣言(12条)に明記されている。米国では既に立法化され返還が始まり、豪州もアボリジニなど先住民族に返還することを決めている。
アイヌ遺骨収集の問題点を書いた本「学問の暴力」の著者、苫小牧駒沢大の植木哲也教授は「欧米では博物館の収蔵品に旧植民地から略奪したものも含まれることから返還に動いている。アイヌの遺骨は倫理上問題のある方法で集められた可能性が高く、それを使った研究は許されない。北大はまず返還に応じるべきだ」と指摘している。
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◇アイヌ遺骨をめぐる動き◇
1865年 英国領事館員が森町など2カ所で遺骨を発掘
88〜89年 小金井良精・帝大医科大(現東京大医学部)教授が道内各地で発掘
1924年 清野謙次・京都帝大(現京都大)医学部教授がサハリンで発掘