サンデー・トピックス:アイヌ遺骨訴訟 子孫ら「早く故郷に戻して」 返還進まず北大を提訴 /北海道
毎日新聞 2012年11月04日 地方版
北海道大が戦前から戦後にかけて研究目的でアイヌ民族の墓から持ち出した遺骨。アイヌの子孫3人がイチャルパ(先祖供養)の妨害で、憲法で保障された信教の自由の侵害に当たるとして、北大に遺骨の返還と慰謝料900万円の支払いを求めて提訴し、第1回口頭弁論が今月30日に、札幌地裁で開かれる。政府は大学が身元の分かる遺骨を返還し、それ以外は白老町にできる施設で慰霊する方針を打ち出している。北大が過去に行った遺骨の収集に対し、司法がどのような判断するのか。【千々部一好】
◇「墓掘り返し1000体収集」
軽種馬放牧地の外れにある浦河町の杵臼墓地。立派な墓石が目立つ和人墓地の隣で、雑草が生い茂る場所にアイヌの先祖が眠る墓が点在する。「アイヌの墓は水はけが悪く大雨で地面がぬかるみ、和人の墓とは違う。死後の世界でも差別されている」。原告の一人、城野口(じょうのぐち)ユリさん(79)=同町=は、周囲に迫る山が色づく墓地で怒りをぶつけた。
ここで墓が荒らされ、遺骨や副葬品がたびたび持ち去られた。城野口さんは20代のころ、機械で地下1・5メートルまで掘り下げられ、穴だらけになった無残な姿を今も鮮明に覚えている。85年に亡くなった母親、マツさんは「あの世に行って先祖になんとわびてよいか。ご先祖様からお前らは何をしていたのかとしかられる」と言い残した。そんな遺言を胸に、城野口さんは「ここから持ち去られた遺骨を一日も早く故郷に戻してほしい。その一心で裁判を起こした」と話す。
城野口さんら3人が提訴したのは9月14日。訴状によると、北大医学部の児玉作左衛門教授らが1931(昭和6)年から55(昭和30)年にかけて、杵臼墓地で、アイヌの同意もなく、遺骨を発掘。浦河町以外の道内各地でも繰り返し、約1000体の遺骨が収集され、アイヌのルーツや人類学の研究に利用されたと主張している。
■交渉に応じず
道ウタリ協会(現在の道アイヌ協会)は82年に先祖供養のため、北大に遺骨の返還を要請。北大は翌年、納骨堂を作り、動物実験室などに保管されていた遺骨を移して安置した。84年から毎年、イチャルパを行うが、これまでに返還した遺骨はわずか35体だけ。