シリア:パレスチナ難民混迷 内戦で互いに戦闘も
毎日新聞 2012年11月09日 22時06分(最終更新 11月09日 23時45分)
【カイロ前田英司】内戦状態に陥ったシリアのパレスチナ難民がアサド政権と反体制派の対立に引き込まれ、混迷に拍車を掛けている。アサド政権はパレスチナ問題を国の最重要課題に掲げており、難民らは民主化闘争から距離を置いてきた。しかし、情勢の悪化で難民キャンプが攻撃され、パレスチナ人同士が戦闘する事態も発生。同胞のいがみ合いが深刻化すれば、他の中東諸国に分散する難民にも不和が波及する恐れがあり、新たな不安定要素となっている。
国連機関によると、シリアにはパレスチナ難民総数の1割に当たる約50万人が滞在。国内少数派のイスラム教アラウィ派が母体のアサド政権は「アラブの大義」であるパレスチナ問題に積極関与することで、政権の存在意義につなげてきた。このため難民は手厚く保護され、反イスラエルのパレスチナ武装勢力の亡命先でもあった。
パレスチナ難民はこうした「恩義」から、これまで民主化闘争を遠巻きにしてきた。
しかし、ロイター通信などによると、政府軍は最近、首都ダマスカスのヤルムーク難民キャンプを反体制派の潜伏先とにらみ、たびたび砲撃。1968年創設のパレスチナ過激派でアサド政権の支援を受ける「パレスチナ解放人民戦線総司令部派」(PFLP・GC)が共闘しているとされる。
一方、反体制派はパレスチナ難民の志願者で武装勢力「嵐旅団」を新設し、ヤルムークの戦闘に投入しているという。
また、アサド政権は5日、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスのダマスカス事務所を封鎖した。ハマスは99年以来、在外指導部を置いていたが、民主化闘争を巡る確執でシリアを去っていた。
アサド政権は国営メディアを通じ「難民保護の姿勢に変わりはない」と訴えている。しかし、ヤルムークに住むパレスチナ難民の女性(31)は毎日新聞の取材に「私はシリアで生まれた。『母国』と思ってきたのに」と不信感をあらわにした。