東京ゾウ会議奮闘記〜ゾウたちの未来〜


  去る10月20日と21日、東京都恩賜上野動物園にて開催された第19回全国ゾウ会議に出席してきました。

今年のゾウ会議の会場となった上野動物園
今年のゾウ会議の会場となった上野動物園

 これは主にゾウによる人身事故を防ぐ目的で日本動物園水族館協会により開催され(詳しくはネット版なきごえ【2008年:Vol.44-11】を参照下さい。手抜きとか言わないの)、毎年場所を変えて開催されています。天王寺動物園からは担当飼育係の私と担当獣医師である高見係長の2名が出席しました。ゾウ担当飼育係は4名いるため毎年一人ずつ交代で出席しています。4年に一度順番が回ってくるオリンピックのような行事でもあります。私自身、ゾウ担当になって二度目の出席となるゾウ会議。毎日命をかけてゾウと接する動物園関係者が全国から集まるのです。そこには他の動物園関係会議にはない「重み」があるのです。

全国のゾウ関係者が集う
 今回の会場である上野動物園の動物園ホールに日本全国の動物園など50施設より90名あまりのゾウ関係者が集まりました。初めて会う人、よく知っている人、ゾウ業界で有名な大ベテランの人までたくさんの方々が参加されていました。
 まずは研究発表です。全国の各ゾウ関係施設がこれまで取り組んできたことを発表する場です。天王寺動物園からも私と高見係長がそれぞれ発表を行いました。

私も天王寺動物園でのゾウたちの足の手入れについて発表を行いました
私も天王寺動物園でのゾウたちの足の手入れについて発表を行いました

 ゾウ会議は毎年テーマが決められているのですが今年のテーマは「足の手入れ」ということで、これに関する報告が私の発表も含めて7題あった他、ゾウの健康管理や治療に関する内容や行動観察、繁殖や引越しに関する内容など合計17題の研究発表がありました。特に足の手入れはゾウを健康に飼育していく上では欠かせないものであり、それと同時に危険な作業でもあるため、どこの園でも苦労しています。ゾウは意外にもツメや足の裏などがデリケートで、これらをきちんと手入れができないとゾウの命に関わる大きな病気にもつながるのです。手入れをするための調教はゾウ自身の能力や限界など個性をうまく利用し、何よりゾウとの信頼関係を築くことが大切なのです。どこの動物園でも素晴らしい技術と調教でゾウの足の手入れをされていました。しかし改めて当園のゾウたちもよくやっているなと感じたのも事実でした。

数十年後にゾウがいなくなる
 今会議に先立ち上野動物園の方からあいさつがあり、その中で「アメリカではゾウの飼育をやめる動物園が増えている」という報告がありました。野生のゾウを捕まえて動物園に連れてくるのではなく、飼育下でゾウを殖やしていくためには本来の生活スタイルである群れを作らせることが重要視されています。たくさんの動物園でゾウを数頭ずつ飼育していても繁殖もしないまま年老いて死んでいくだけ。それより今のうちに散らばっているゾウたちを集めて群れを作り、 繁殖させようという取り組みが始まっているそうなのです。
 今、日本で暮らしている高齢ゾウたちが来日した頃は、動物を海外から輸入することが当たり前の時代でした。特にゾウのように大型で寿命も長く、雄の管理が危険で繁殖の難しい動物は、わざわざ繁殖させるよりも輸入する方がはるかに手っ取り早い時代だったのです。しかし現在はゾウをはじめ貴重な野生動物を安易に捕らえて消費する時代ではありません。日本でも既に国内の動物園に散らばっていたゴリラを繁殖のために数カ所に集めて群れを作る計画を実行していますが、ゾウにおいても同じことが必要になりそうです。当園の高見係長からは、専用ソフトを用いて計算した結果、このままでは50年後には国内からゾウがいなくなると仮定した発表があり、岐阜大学の楠田哲士先生の特別講演でも飼育下でのゾウの繁殖が困難な理由についてのお話がありました。やはりゾウをペアや少数での飼育した場合、繁殖にたくさんの弊害が生じるとのことです。日本のゾウたちでも群れを作り、繁殖を考える必要性が迫っています。しかしゾウはどこの動物園でも園を代表する看板動物で、手放したくないのが本音でしょう。また、群れを作るといっても相手は巨大なゾウです。実現には莫大な予算に広大で巨大な施設も必要でしょう。実現にはたくさんの問題があります。しかし、このままではゾウたちがいなくなるのも事実です。

 これまで様々なテーマについて話し合われたゾウ会議ですが、今後はこれからのゾウたちの未来を考える場にもなっていくことでしょう。
2日目のグループ討議では少人数のグループに分かれ、足の手入れについて   情報交換を行いました

2日目のグループ討議では少人数のグループに分かれ、
足の手入れについて情報交換を行いました



施設見学会では最年少の雌のゾウであるウタイの足の手入れの実演が行われました
施設見学会では最年少の雌のゾウである
ウタイの足の手入れの実演が行われました

(文:西村 慶太)