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東京電力が新たな経営方針を発表し、政府に追加支援の検討を求めた。福島第一原発の事故に伴う除染や廃炉の費用が「一企業の努力では到底対応できない」規模となる見通しだからだ。[記事全文]
オバマ大統領の再選で、国際協調路線の米外交が、さらに4年続くことになった。アジア・太平洋重視を打ち出し、「核なき世界」を訴えるオバマ外交の継続は、日本にとっても歓迎すべ[記事全文]
東京電力が新たな経営方針を発表し、政府に追加支援の検討を求めた。
福島第一原発の事故に伴う除染や廃炉の費用が「一企業の努力では到底対応できない」規模となる見通しだからだ。
現在の計画は、国が必要な資金を出すが、あくまで東電に返済させる建前となっている。国民負担を避けたい政府と、企業存続を願う旧東電経営陣の妥協の産物だった。
経営陣を入れ替え、社外取締役の目で再検討してみたら、やはり無理筋であることが明らかになった、というわけだ。
このままでは、延々と債務の返済に追われるだけの企業となる。利益を確保するため、地域独占の解消や競争環境の整備にも後ろ向きになる。日本経済にとって大きなマイナスだ。賠償や除染も遅れかねない。
そうした新経営陣の危惧は、私たちも共有する。
原子力の推進は国策だった。東電に責任を押しつけて逃げるのではなく、除染や廃炉から放射性廃棄物の処理策まで、国が主導して枠組みを整えなければならない。
費用について、どこまでを東電の責任範囲とするか、早急に議論をし直すべきだ。そのうえで足りない分は国民で広く負担するしかない。
ただし、それはあくまで被害者の支援と電力の安定供給のためだ。
東電経営陣は今後のあるべき姿として「世界とわたりあうダイナミックな電気事業者への変貌(へんぼう)」を掲げたが、国費による支援は「強い東電」を再生するためではない。
むしろ、多様なエネルギー事業者が平等に競える環境づくりへと、東電のもつ機能を分散していく方向で改革を進める必要がある。
東電は経営改革案に、発電部門と送配電部門の分社化を盛り込んだほか、火力発電でまかなう電力のうち3割分は他社からの購入や共同開発に切り替える方針を明らかにした。
政府の電力改革を先取りする形であり、方向性としては評価する。
だが、そこにとどまる限り、東電による東電のための改革にしか映らないだろう。
本来なら、破綻(はたん)処理すべき企業である。その原点に立ち戻って、国と東電は発電部門と送配電部門の完全な分離といった解体的な将来像を示さなければならない。
そうした「けじめ」があってこその国民負担であることを忘れないでほしい。
オバマ大統領の再選で、国際協調路線の米外交が、さらに4年続くことになった。
アジア・太平洋重視を打ち出し、「核なき世界」を訴えるオバマ外交の継続は、日本にとっても歓迎すべきことである。
中国の台頭や北朝鮮の核・ミサイル問題で、東アジアは混迷を深めている。この地域に安定的な秩序をどう築くのか。
次の4年間、日本からも主体的に米国に働きかけ、共同作業で取り組まねばならない。
「米国は核兵器を使ったことがある唯一の核保有国として、行動する道義的責任がある」
3年半前、オバマ氏のプラハ演説は、被爆国日本の心を揺さぶった。大統領が広島訪問に強い関心を寄せていることも、共感を呼んだ。
これを手がかりにして、新たな日米関係のあり方を考えてはどうか。
残念ながら、大国間の力学に阻まれ、「核なき世界」への歩みはきわめて遅い。広島訪問も希望の域を出ていない。2期目はぜひ実現してほしい。
大統領の広島訪問は、新しい安全保障環境づくりを進める力強いメッセージになる。朝鮮半島の非核化や、中国の核軍縮もにらんだ緊張緩和を進めるてこにもなるだろう。
そのためには何が必要か。
領土や歴史をめぐり、日本が中国などと対立する状況が続けば、大統領の広島訪問は逆に近隣国を刺激しかねない。また、日米関係がぎくしゃくしていても、米国の歴史の傷にさわる被爆地を訪れるのは難しい。
となると、日本がなすべきことは明らかだ。
ひとつは、中国や韓国との緊張関係をしずめ、改善の道筋をみつけることだ。
国際社会に日本の主張を訴えることは大切だが、この種の問題はまずは二国間で取り組むのが筋だ。日米安保に頼れば解決するものでもない。いかに困難でも、中韓との直接対話をつないでいくほかはない。
そして、日米関係の懸案である沖縄の基地問題について、首脳同士で仕切り直しをすることである。もはや不可能となった普天間基地の辺野古移設に固執することは、沖縄と本土との溝を深め、結局は日米間の信頼関係をも揺るがすだけだ。
国内・国外をふくめ、新たな移転先を本腰を入れて探るときではないか。
世界の現実も、東アジアの課題も厳しい。であればこそ、理想を掲げる大統領が米国を率いていることを、日本はチャンスとして生かすべきだ。