社説:「不認可」騒動 文科相の資質問われる
毎日新聞 2012年11月09日 02時31分
田中真紀子文部科学相が大学設置・学校法人審議会の答申を覆し、3大学の来春開学を「不認可」とした問題は、文科相が一転「撤回」し、1週間足らずで一応収束した。
だが、その責任は看過できない。
唐突な不認可表明と後に二転、三転する発言は混乱に拍車をかけた。さらには「官僚が私の真意をくみ取れなかった」などという釈明は、責任転嫁といわれても仕方ない。
また、突然の不認可表明で受験生や関係者が動揺、困惑しきった3大学について「良い宣伝。4、5年間はブームになるかもしれない」と言う無配慮はどうしたことか。文教行政トップとしての資質さえ問われるところである。
その「発信力」に期待したという野田佳彦首相の見識、任命責任も無関係ではすまされない。
また今回の問題は文科相個人のみの言動に帰するものではない。当初、官邸や民主党にただちに是正する動きは見られなかった。
この個人プレーともいうべき「政治主導」に文科省官僚は対策に追われた。文科相が主張を転じるのに合わせるように「不認可の通知は未発送なので、新設を認めた審議会答申は今も効力がある」という理屈で苦肉の説明をする一幕もあった。
残ったのは後味の悪さである。
文科相は今回いきなり不認可方針を表明するに至った背景として「大学の数が多すぎ、教育の質が落ちている」ことを挙げた。そのため、幅広い分野の識者で検討会議をつくり、審議会の大学設置可否の審査方法や基準を見直したいという。
それを論じることと、今回の答申覆し発言の変転はかみ合わない。
ただ大学教育の「質」や再構築をめぐっては、長く重ねられてきた論議がある。90年代から大学設置基準は大幅に緩和され、「事前規制」よりも「事後チェック」を厳しくという考え方がとられた。第三者機関による認証評価制度などである。
だが、事後チェックが必ずしも十分効いているとは言い難い。入りはやすく出るは難い、という大学の運営も容易ではない。またこれは小、中、高校教育とも密接にからんでいる。こうしたことを総合的に絡めた視点で骨太な論議が必要だ。
今回、文科相の意を受けるかたちで設けられる検討会議は、従来の審査基準に新設大が地域に必要とされているか、学生は集まるか−−などを加えることを検討するという。
公開された熟議で、これまで積み重ねられた大学教育改革論議もしっかり踏まえたものであってほしい。 また一般の関心が薄かった設置審議会のあり方や構成についても、広く考えるきっかけにしたい。