意図的? それとも偶然? 福島・モニタリングポストの怪

 〈3.11〉直後の原発事故で、「スピーディ(注:放射能拡散の予測プログラム)」によるデータが伝えられず、結果として多くの人々が何の情報も無いまま高濃度汚染地域に“避難”し、「しなくてもよい被ばく」「避けられた被ばく」をしてしまったことは記憶に新しい。霞ヶ関の官僚らは、現地の災害に無頓着(むとんちゃく)で、人々の健康や命がいとも簡単に切り捨てられることを私たちは、いまだ収束していない原発事故から学んだ。

〔写真1〕 福島県内に並んで立てられる2台のモニタリングポスト。左がアルファ通信社のもの。右がアルファ通信社との契約を破棄して、新たに文部科学省(文科省)が契約し直した富士電機社製のもの。一部で文科省の“乗り換え”は、アルファ通信社の機器だと「正確な放射線量が出てしまうから」との噂も聞かれるところだが、「正確な値(あたい)」が出てどうしていけないのか、理解に苦しむ。一方的な契約の解除に納得できないアルファ通信社は、今年6月、文部科学省を相手取り3億7000万円の損害賠償訴訟を東京地裁に起こしている。(撮影・三上英次 以下同じ)

 ――では、改めて尋ねたい。

 スピーディの情報隠しをきっかけに、文科省職員らは心を改めて、いまは人命最優先で仕事をしているのだろうか。それはたとえば、いま福島県内に文科省によって数多く設置されている放射線量測定器(モニタリングポスト)のデータが、正確さという点で信用するに足りるか……という問いでもある。

 原発事故後も依然として「年間20ミリシーベルト」というきわめて危険な“安全”基準で、福島の子どもたちが放射線汚染地域に放置されていることを考えると、いったい何のためのモニタリングポストなのか、その数値は本当に信頼できるものなのか――について考えてみる必要性を感じる。

10月1日、被ばくし続ける子どもたちの「集団疎開」を求めて仙台市内をデモ行進する矢ヶ崎氏ら。デモの起点となった勾当台公園では、通りすがりの一般市民の参加もあり、〈被ばく〉や〈健康被害〉に対する関心が福島だけにとどまらないことが実感できた。

 10月1日、宮城県仙台市内で行われた講演会(題目:「文科省の線量計のウソと真実!」)では、以下の【1】~【3】が報告され、会場はおおきなどよめきに包まれた。

【1】福島県内のモニタリングポスト測定値が実際よりも低くなるように設定されている可能性があり、正確な放射線量を知るには、モニタリングポストの数値を1.5~2倍しないといけないこと

【2】モニタリングポストの周囲が除染(=移染)されていたり、地面に鉄板が敷かれていたりして、モニタリングポストが汚染の実態を正しく測定していない可能性があること

【3】それらの“操作”が広い範囲にわたって〈系統的に〉行われている可能性があること

 このことを報告したのは、琉球大学名誉教授で、今は《市民と科学者の内部被曝問題研究会》のメンバーとして、内部被ばくの問題に警鐘を鳴らしている矢ヶ崎克馬氏だ。

 矢ヶ崎氏は、現在、福島県浜通り51ケ所、郡山市72ケ所他で設置されているモニタリングの測定値について検証を進めている。具体的には、(1)設置されているモニタリングポストに、他の放射線測定器を10㎝以内まで近接させて放射線量を測る、(2)設置されているモニタリングポストから2mと5mの地点の放射線量を測る(3)設置されているモニタリングポストに近接した「除染されていない場所」数ケ所の放射線量を測る等によって、「設置されたモニタリングポスト」の正確さを検証する等の試みである。

〔写真1〕とは別の場所にあるモニタリングポスト。こちらは、アルファ通信社製のモニタリングポストは隣接して立っていない。何も事情を知らなければ、「自治体は、住民のために放射線量などを日々正確に測って情報収集している」と思うだろう。そこで立ち止まって、「このモニタリングポストの数値は、本当に正しい値を示しているか?」と疑問に思うことが、実は大切であることを矢ヶ崎氏らの検証は証明している。

 特に矢ヶ崎氏からの報告で興味深いのは、次の事実だ。

 矢ヶ崎氏らの検証は、福島県内100ケ所を超える場所で、別の測定器で放射線量を測り直すものだが、「設置されているモニタリングポストの数値を、別の測定器の数値で、割ってみた」結果が講演会では紹介された。

 もし、2つの測定器が両方とも正確なものであれば、その「割った値」は、ほぼ「1」もしくは「1前後」、つまりある場所では、設置してあるモニタリングポストが高めに放射線量を測定し、またある場所では、別の測定器のほうが、少し高めに測定値を測定するということになってよい。それならば、2つの測定器のズレは、「誤差」として許容できる。ところが、矢ヶ崎氏によれば、文科省が福島県内各地に設置しているモニタリングポストの中には「汚染の少ない地域では、別の測定器の90%程度、高い汚染地域では別の測定器のおよそ70%」の値しか示さず、「程度の差こそあれ、全体的に文科省の設置したモニタリングポストが別の測定器よりも低い数値しか示さないこと」がわかったという。矢ヶ崎氏は、これらの現象を「系統的な値の低減化」と表現し、「設置者の意図が働いている可能性」についても示唆した。

 このことで思い出すのは、福島県郡山市で見られた放射線量の“人為的操作”と、同市小学校での“鉄板プール”だ。

 まず、郡山市は、以前、空間の放射線量を、建物の屋上、つまり線量が低目になる場所で計測し、その値を公式データとして公表し市民を安心させようとしていたことがある。また、夏のプールを強行する際、そのままではあまりに放射線量が高いので、いくつかの小学校ではプールサイドに工事用鉄板を敷いて放射線の遮蔽物とし、さらにその異様な鉄板プールの光景を少しでもやわらげるために、鉄板の上に、緑の人工芝を敷いて子どもたちをプールに入らせていたことも知られている。

 他にも、見せかけの「安全宣言」や、何とか人々を高い放射線地域に留(とど)まらせようとする諸々の自治体の取り組みを考え併(あわ)せると、今回の矢ヶ崎氏らの指摘は、簡単には見過ごすことはできないものだ。

仙台市のアーケード街を進むデモ隊

 ――矢ヶ崎氏は言う。

 「住民の居住地域は、常に除染されているとは限りません。ですから、モニタリングポストで放射線量を計測する場合も、除染せずに計測するのが望ましいはずです。ある地域では、除染して放射線量を測っているために、近くの除染していない場所の値の65%しか示さないところもあります。さらに放射線量の高いところでは、除染後のモニタリングポストの数値が、近くの除染していない場所の半分程度しか示さないケースもありました。」

 「もっと住民の命が守られるようなモニタリングポストの設置・運用の仕方にしないといけないでしょう。一部で言われているように、業者に対して文科省からの、何らかの無言の圧力に類するようなことがあれば、それは〈国家的な犯罪〉であり、断じて許すわけにはいきません。」

 「歴史的に見ても、ICRP(注:国際放射線防護委員会)は、公益のためには、健康面の犠牲が出てもやむを得ないという方針のもとに、これまで各種の基準を決めて来ました。それは、ものすごい〈いのちの切り捨て〉であり、徹頭徹尾〈内部被ばく〉について研究させないようにして来たのです。」

 「いま仙台高裁で進められている〈集団疎開裁判〉でも、この内部被ばくの危険性、福島でのモニタリングポストの実態等を今後とも明らかにしていく必要があります。」

 講演会場で、矢ヶ崎氏は《市民と科学者の内部被曝問題研究会》の〈モニタリングポスト検証チーム〉のメンバーらに起立を促して会場で紹介し、地道な作業を続ける一人ひとりの労をねぎらった。そして、一つずつのモニタリングポストを検証していく作業について「かなり大変な仕事だが、引き続き取り組んでいく」と決意を語った。

 矢ヶ崎氏は5日にも下記の通り都内で記者会見を開く。〈真実〉を明らかにするための、矢ヶ崎氏らの地道な努力に対して、熱いエールを送りたい。

(了)

写真の右手の女性は自転車を引いての参加。デモや講演会には、東京からの参加者らも見られたが、地元の主婦や東北大学・学生らの姿もあった。

  《矢ヶ崎氏による記者会見》

 今回のデータの検証結果を受けて、矢ヶ崎氏はあらためて都内で記者会見を行う。

〔日時〕2012年10月5日(金)15時~

〔場所〕自由報道協会(東京都千代田区、地下鉄半蔵門駅1a出口から徒歩2分)

※同協会の記者会見は、誰にでも門戸が開かれている。記者会見への参加については同協会ウェブサイト参照のこと。

    

  《関連サイト》

◎「ふくしま集団疎開裁判」
 http://fukusima-sokai.blogspot.jp/

◎「市民と科学者の内部被曝問題研究会」
 http://www.acsir.org/

    

  《関連記事》

◎甲状腺検査結果を受けて緊急記者会見ひらかれる
 http://www.janjanblog.com/archives/81274

◎95歳 肥田医師の語る「原発」「被ばく」そして「いのち」

 ※肥田氏も「市民と科学者の内部被曝問題研究会」の発足メンバーである。 

 http://www.janjanblog.com/archives/81777

   

   

   
 
※本記事についてのご意見・お問い合わせは

pen5362@yahoo.co.jp (三上英次/現代報道フォーラム)

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