トヨタ自動車が最近放送し始めた中型車「カムリ」のテレビCMの1場面を思い浮かべてみよう。
車を見詰める男性の頭上に「ナビゲーション? オプション、後方カメラ? オプション、むち打ち傷害軽減フロントシート(WILコンセプト シート)? オプション…」という字幕が登場する。画面が変わると「カムリ」のモデルを務める女優のキム・テヒが登場し「オプションは車の値段を引き上げるための手段ではない」と小さくささやく。これらの機能が全て備わっていながらも、価格を以前よりも引き下げることに成功した「カムリ」を宣伝するために、消費者たちが韓国車に対して抱いていた「オプション」に対する不満に露骨に言及したのだ。
トヨタの韓国法人が、国内の独占企業である現代・起亜自に対し「第2の挑発」に乗り出した。韓国国内で米国仕様と異なる旧型エアバッグを採用している現代・起亜自に対し、韓国トヨタは今春「安全はオプションではない」といったCMで宣戦布告した。韓国トヨタ側は「トヨタが韓国で現代・起亜自の対抗馬として定着するためには、力強いメッセージの伝達が必要だった。今後は新車を出すたびに韓国自動車市場を揺さぶる準備をしている」と話した。
■2000万-5000万ウォン台に戦線拡大
自動車メーカー最大手のトヨタが現代・起亜自の奥座敷で戦線を拡大している。韓国トヨタは来月1日、CUV(クロスオーバー・ユーティリティー・ビークル)の「ベンザ」を発売する。高級スポーツタイプ多目的車(SUV)を買いたいが、韓国車の中には好みに合う車種が見つからないと不満をもらす消費者向けに発売される。来年には、トヨタが手掛ける最大級(3500cc)のセダン「アバロン」も投入する。これまで「カムリ」1車種で現代・起亜自の収益モデルである「黄金トリオ(グレンジャー、ジェネシス、エクウス)」に対抗してきたが、やや苦しかったことから、大型クラスの新車の投入に踏み切ったのだ。
日本の本社は、トヨタの欧州工場などで生産する小型車、ハッチバック、ワゴンのようなニッチモデル(限定的な需要を狙ったモデル)を韓国に持ち込む案も積極的に検討しているという。これらの車種は、現代自の「アクセント」や「i30」「i40」といった「iシリーズ」の競合車種になる。こうなれば、2000万ウォン(約147万円)代から5000万ウォン(約367万円)代まで、エクウスを除いた現代・起亜自の全車種に対抗するラインアップが構築される。トヨタ・ブランドは2009年10月、韓国に4車種を投入したが、このラインアップが来年までには最低でも9車種に大幅拡大されるわけだ。
■「現代自の“奥座敷”で価格上昇を阻め」は本社の特命
昨年は北米市場で180万台、日本で120万台、アフリカでも20万台以上を販売したトヨタだが、韓国での販売実績は、わずか1万台にすぎない。これは、高級ブランドであるレクサスの販売台数まで合わせた数値だ。規模で計算した場合、韓国は無視されても仕方がない小さな市場だが、トヨタの本社は韓国を「戦略地域」として分類している。世界の主要地域で同じような仕様、同じような価格帯の車種として事有るごとに競合する現代・起亜自の本拠地であるためだ。トヨタにとっては日本よりも北米がより大きな市場だが、現代・起亜自にとってはまだ韓国が最大の市場となっている。
特に韓国トヨタは、現代・起亜自が国内で車の価格を引き上げられないよう抑制する役目を担っている。現代・起亜自が中型車以上の高価な車を韓国で売り、この収益を原動力として海外での低価格攻勢を展開していると分析しているからだ。今年初めに新型「カムリ」を発売し、利便性に富んだ多くの仕様を加えたにもかかわらず、価格を100万ウォン(約7万3000円)も引き下げたことや、ハイブリッド車である「プリウス」の低価格モデルで、従来よりも660万ウォン(約48万円)も安いモデルを追加で発売したのがいい例だ。これを意識した現代自も、従来より110万ウォン(約8万円)安い普及型の「ソナタ・ハイブリッド」を発売したほか、2013年型の「ソナタ」の価格は従来よりも15万ウォン(約1万円)の値上げに食い止めるなど、価格の上昇幅を制限した。
トヨタにとって、韓国は急成長する現代・起亜自の戦略を目の前で観察できる絶好の場所でもある。韓国トヨタの関係者は「豊田章男社長が昨年6月と今年1月に立て続けに韓国を訪問し、販売状況をチェックしていったのも、韓国車を直接見るためだった」と説明した。