まあ表に出せない部分もたくさんある。
この男、凄いと思うのが地元では顔が売れたやり手社長であるのに、代行の後乗り なんぞををよくやったことである。
このホテルは地元法人会の総会や部会もよくあったし、ロータリーにも所属して いたから会合もよく開かれていた。 地元有力者、財界人、政界人にはよく知られた男である。 飲食店組合の理事もつとめていたから、代行でアチコチの店にもいけば、 たちまちにして、誰かがわかってしまう。
私の連れている後乗りがY元社長だとわかるとある信金の頭取は、財布の札を 全部私に渡してきて、これをY元社長に、という人もいたし、顔をみないように して多額のチップをはずむ銀行の部長もいた。
あるヤクザの組の幹部は、それまで横柄だったが、突然態度が変わった。 この街の大半はオレのモンだ、と威張っていたが、Y元社長に気がついて 途中で言葉を飲み込んでしまった。 (この男ものちにほとんどの店を失い自宅も取られてしまった)
ある金融屋は私の背景を不思議がった。何故に私が連れているかを探りまくった。 (やはり金融屋、時給はいくら、ヤツは少しでも返せるか、と聞いてきた。w)
個人の債権者の数人は私を避けるようになった。その話には触れぬ、という暗黙の 了解ができあがり、時々様子見に私を使う、という感じになった。
地元市議のある人は驚嘆の声を車中であげていた。後ろを振り返りながら、 あの人がY元社長?と何度も聞いてきた。
財界人の人達は一言二言言うだけで見るのも避けていた。 次は我が身かもしれぬ、という思いがそうさせるのだろう。
地元でも有名な金融不動産屋は、話題にすることすら避けていた。 私がキワモノだと感じたのだろう。
いずれにせよこの男、たいしたものである。普通なら自殺してもおかしくない。 いや、普通なら自殺しているだろう。
いつも死神を背負っていた。しかし彼は自殺せず頑強に生きていた。
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