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米大統領選で民主党のバラク・オバマ氏が再選された。
グローバル経済の荒波のなか、退場を迫られる現職の指導者は少なくない。オバマ氏に与えられた、さらに4年の任期は貴重だ。大胆に指導力を発揮してほしい。
現職有利とされる2期目の選挙だが、共和党のミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事に激しく追い上げられた。
社会保障を手厚くし、政府主導で景気回復を図る「大きな政府」のオバマ氏か、自由な経済競争を重視する「小さな政府」のロムニー氏か、という理念のぶつかり合いだった。
米国の閉塞状況を打破するのはどちらか。米国民は迷いつつも、社会の連帯に重きを置くオバマ氏の路線の継続を支持したということだろう。
この接戦が象徴する「分断」された米国社会を修復することこそが、オバマ氏にとって急務である。
■「分断」修復急げ
選挙には両陣営がこれまでにない巨額の資金をつぎ込み、大量のテレビ広告で中傷合戦を繰り広げた。社会に残した傷痕は深いが、歩み寄るときだ。
米国では来年初め、政府の支出が大きく減らされ、ほぼ同時に増税される「財政の崖」が待ち受ける。
こうした事態に至れば、国内総生産(GDP)を5%近く押し下げるとされる。世界経済に与える影響も大きい。
まずは共和党との間で回避策を探り、協調の足がかりを得る必要がある。
オバマ氏は1期目、大型の景気対策や、国民皆保険に近い医療保険改革を導入して、財政負担の増加を嫌う保守層の猛反発を招いた。
厳しい財政削減を求める保守運動「ティーパーティー(茶会)」が勢いづき、2年前の中間選挙では共和党が下院で大勝した。同党は徹底して政権に非妥協的な姿勢を貫き、政治が動かなくなっていた。
大統領選と同時に行われた連邦議会選では、上院では民主党が過半数を確実にしたが、下院は共和党が多数を占めた。「ねじれ」は続くことになり、超党派での協力が不可欠だ。
共和党も大統領選で示された民意を受けとめるべきだ。「茶会」のような急進的な主張は、国民的な支持を得ていないことがはっきりした。協調すべきは協調しなければならない。
ロムニー氏は、オバマ氏の医療保険改革の撤廃を訴えた。だが、しっかりしたセーフティーネットの存在は、経済にも好影響をもたらす。共和党も改革を受け入れるべきだ。
■カギ握る中間層
選挙戦終盤、オバマ、ロムニー両氏がともに強調したのは中間層への配慮だった。中間層が活気を取り戻してこそ、米国の再生につながる。
また、それが分断修復のカギとなるのではないか。
オバマ氏が苦戦した最大の原因は、経済の低迷だった。
失業率は8%を超える高い水準で推移し、就任時に約10兆ドル(800兆円)だった財政赤字の累積は、約16兆ドルに増えた。
希望の兆しもある。
選挙の直前になって、失業率は2カ月続けて7%台に下がり、9月の住宅着工件数も4年2カ月ぶりの高い水準だった。回復の軌道に乗りつつある、との見方が強い。
この流れが続けば、政権基盤が安定し、社会のぎすぎすした空気も和らぐだろう。
■対中関係どう築く
財政的な制約もあり、世界に軍事力を振り向ける余力が少なくなるなか、米国が外交・安全保障でどういう役割を果たすのかも問われている。
4年前、アフガニスタンとイラクの二つの戦争で、米国の威信は大きく傷ついていた。
そこに、オバマ氏は全く違う米国の姿を示した。
「核なき世界」を唱え、米国とイスラム世界の新たな関係を求める力強い言葉に、世界は喝采を送った。
だが、いずれも道半ばだ。
中東は「アラブの春」後の秩序作りで揺れている。内戦状態のシリアでは多数の死者が出て、暴力がやむ気配はない。イラン核問題も緊迫している。
紛争の拡大を防ぎつつ、どう解決に導くのか。国際社会をまとめる指導力も試されている。
アジア太平洋重視を打ち出しているオバマ政権にとって、習近平(シーチンピン)・新体制の中国とどう向き合うかは最大の2国間問題だ。
経済面の相互依存が増すなか、実利的な関係を進めると見られるが、大国化した中国が周辺国と摩擦を起こす場面が増え、米国は警戒を強めている。
尖閣諸島をめぐって中国との緊張が続く日本としても、オバマ政権の対中政策を見極め、連携を深める必要がある。
外交、内政両面で、理念を開花させることができるか。オバマ政権の真価が問われる4年間になる。