VOL.342 STORY チンパンジーと言葉を交わす男 日本一のカリスマ飼育員 (バラエティ/情報)
時代に逆行するかのように、37年の長きに渡ってチンパンジーのショーを続けてきた男がいる。堤秀世は新人の頃、厳しい状況に反発を感じた彼は、叱るより褒める調教方法を貫いてきた。
堤秀世は30年以上に渡ってチンパンジーの世話をしている。そんな堤が行うチンパンジーショーは世界でも類をみないほどハイレベルなもので、一番の目玉は竹馬を使った演技。できる限り自由に演技させたいそんな思いを込めて堤はショーのタイトルを学習発表会としている。堤は「チンパンジーと私は本当の相棒」と語った。
堤が飼育員になりたいと思ったのは大学生の頃だ。学校の近くで行われていた移動動物園を見たことがきっかけだった。堤は大学を中退し移動動物園に就職した。3年目にチンパンジーの調教を始めたことで、いつかチンパンジーだけのショーがやりたいという新たな夢が芽生えた。堤の夢に理解を示してくれた伊豆シャボテン公園に転職したが、この頃日本では動物愛護観点から動物ショー自体が問題視されていた。暴力で教えこむ調教方法があったからだ。そんな時代と逆行するように始めたチンパンジーショーでは、堤は自分の調教方法に「動物と心を通じて動物のショーが出来る」という強い信念を持っていた。
毎日行われる舞台では、チンパンジーが舞台上で暴れ始めることもあるが、そんなときでも堤は動じることはない。堤は「怖いと思ったらおしまい 相手を信頼して初めて信頼してもらえる」と語る。堤はチンパンジーと心を通わせるため調教に1年以上の時間をかけた。そして1988年には優れた大衆芸に贈られる蘆原英了賞を受賞した。
堤の出勤時間は毎朝7時30分で、到着してすぐ向かったのはチンパンジーの飼育舎だ。便の状態や表情など1頭1頭時間をかけてチェックする。これが堤の日課のため休むことはなかなか出来ない。
VOL.342 STORY チンパンジーと言葉を交わす男 日本一のカリスマ飼育員 (バラエティ/情報)
ロンドンオリンピック2012 男子やり投げ決勝の告知。
堤は来年の1月をもって引退することを決めた。だがタカと名付けられたチンパンジーの事が気がかりだった。タカは大人のチンパンジーに対し、攻撃的な態度を取ってしまうため、群れの中で暮らすことが出来ない。タカは母親から育児放棄をされ、集団で生きる術を学べずにいた。
堤がタカを引き取ってから9日目に、餌を食べるときに堤の肩にタカが手を乗せた。堤は「ほんの少しだが進歩はあった」と語る。堤は焦らずじっくりと向きあった。堤はタカを「自分にとっては最後の孫」と語る。
タカを引き取って11日目に、タカは堤の背中に乗った。堤は「安心しているとき チンパンジーはおんぶが一番好き」と語る。これはタカにとってチンパンジーの群れに帰る第一歩を踏み出した瞬間だった。