社説:オバマ大統領再選 チェンジの約束実現を
毎日新聞 2012年11月08日 02時30分
「史上まれな激戦」が予想された米大統領選は民主党のオバマ大統領の圧勝に終わった。州別に割り当てられた選挙人(計538人)を取りあう独特の選挙制度で、オバマ大統領の獲得選挙人は300人を超えた。しかし、全米の総得票数では共和党のロムニー候補(前マサチューセッツ州知事)とほぼ互角で、オバマ陣営には手放しで喜べない結果ともいえよう。
◇国際的な課題は山積
勝因の一つには選挙直前に米国を襲ったハリケーン「サンディ」への迅速な対応が挙げられる。選挙戦を中断して現地入りしたオバマ大統領が被災者を抱擁する写真は米国民の胸を打った。軍最高司令官の革ジャンを着た大統領が、持論の「一つの米国」論を踏まえ「災害には民主党も共和党もない。ただ、あるのは米国人だけだ」と演説する姿も好感を広げた。心憎いほどの演出だった。
オバマ大統領の再選を祝福したい。ブッシュ前政権(共和)からアフガニスタンとイラクの軍事作戦、リーマン・ショックに始まる経済危機を「負の遺産」として引き継いだ苦労は並大抵ではなかったはずだ。
米国では「経済優先」のクリントン政権(民主)が巨額の財政黒字を実現したが、次の「強い米国」を掲げるブッシュ政権は「政府の剰余金は国民のお金だ」と減税に動き、さらに01年の米同時多発テロ後に二つの戦争を始めて財政が悪化した経緯がある。今回、クリントン元大統領が選挙応援に引っ張りだこだったのに対し、ブッシュ前大統領がほとんど表に出なかったのは、米国内の空気を反映していよう。
経済再建は道半ばとはいえ、オバマ政権が世界を恐慌から救ったという見方もある。第二次大戦後、失業率が7%を超える中、再選された大統領はレーガン氏だけだ。8%近い失業率にもかかわらずオバマ氏が再選されたのは、その努力を国民がある程度認めているからだろう。
だが、米国は来年早々、減税打ち切りと歳出の強制的削減による「財政の崖」に直面して景気が悪化しかねない。オバマ政権が国民皆保険をめざして導入した医療保険制度改革も、共和党は廃止に追い込むことを狙っている。年間1兆ドルに上る財政赤字の削減や債務圧縮を迫られるオバマ政権にとって、共和党との融和は必須の課題である。貧富の差や人種、性別を超えた国民和解が必要だ。
こうした状況下、オバマ大統領の目が内政に向きがちなのはやむを得ないが、2期目はもっと世界に目を向けてほしい。大統領は09年4月のプラハ演説で「核兵器のない世界」をうたい、同年6月のカイロ演説で中東和平への強い意欲を表明し、同年11月の東京演説でアジア太平洋の時代の到来を強調した。