(平成14年9月30日)
差出人:
不明
前略。 私はこの春まで日本ボルチモアテクノロジーズ株式会社(BaltimoreTechnologies Japan Ltd. 以下BTJ)という会社に勤務していたものです。 (ホームページ http://www.baltimore.co.jp) この会社が扱うソフトウエアは一般的にPKI- Public KeyInfrastructure - ソフトと呼ばれるもので、今話題になっております住民基本台帳ネットワーク等、今後のコンピュータ・ネットワーク社会において、その機密性を維持する“鍵”生成を行うソフトです。 日本ボルチモアテクノロジーズは、このPKIソフトであるUniCERTを中心に販売とそれに関連するネットワークシステム構築を提案する会社です。 既に三重県のネットワークシステムは、NTTコミュニケーションズとこの日本ボルチモアテクノロジーズがそのシステム構築を行い運用がスタートしております。 また今後このシステムを広く一般企業向けに販売すべく、やはりNTTコミュニケーションズと日本ボルチモアテクノロジーズが“ブレイド”というプロジェクト名でのプロジェクトをスタートさせております。 この日本ボルチモアテクノロジーズ株式会社は、今年の三月迄はアイルランドが本社の外資系企業日本法人でありました。 しかしながら現在はシージーアイという中国系商社が日本ボルチモアテクノロジーズ(株)の株式の内40%を取得して子会社化しております。 一般的にIT業界の企業買収というのはIT企業同士で行われるのが一般的であり、HPによるCompaq買収がこの典型的な例です。 しかしながらこのシージーアイはIT関連会社では無く、香港に本社を置くCentury-Gold Internationalという中国系食肉輸入会社です。 (ホームページhttp://www.century-gold.com) この会社、数年前からIT関連に進出を目論んでいたようで、既に日本においてWeb関連検索エンジンの会社等を数社買収していましたが、殆どを立ち上げることが出来ず、事実上の休眠会社となっています。 IT関連エンジニアの採用も行っており、富士通出身のエンジニアの方などが在職しています。 しかしながらこのシージーアイという会社、既に申し上げましたように香港に本社を置く多国籍企業であり、主要取引製品は豚肉や鶏肉など一次産品です。 シージーアイ社長は現在BTJの社長を兼任している東保孝であり、シージーアイ会長には日本語を流暢に話すBTJ副社長のスコット・ヒッチマンという人間です。 何故BTJの様なハイテクベンチャー企業がシージーアイの様な、全く異なる業界の会社に援助を仰がなければならなかったかをお話しします。 BTJはネットワークソリューションジャパンという、ネットワークシステム構築とコンサルティングを行う会社がその母体となっております。(以下NSJ) 当時からセキュリティ関連に注目していたようで、ネットワーク管理ビジネス構築の際には必ずセキュリティが必要であり、将来このビジネスはかなり大きくなると読んでいたようです。 特に当時アイルランドのBaltimore Technologies Ltdには注目していたようで、1998年の米国とアイルランド調印時には、時のクリントン大統領がアイルランド首相との調印にこのBaltimoreTechnologies Ltdのシステムを使用したことが有名です。 その後NSJ社が2000年5月にアイルランドに本拠地を置くBaltimore Technologies Ltd.の資本参加を受け、日本法人として正式に日本ボルチモアテクノロジーズ(株)として発足致しました。 BTJは資本出資を受ける前よりセキュリティ製品の販売にはかなり力を入れていた様で、前社長である春日原森(かすがはら しん)はNSJセキュリティ事業部長を務めておりました。 しかしながらその販売方法は早くから多くのトラブルを抱えておりました。 これはBTJの2000年度売上げが12億円という数字を残しながら、未回収金が8億円あるということに如実に現れております。 彼らの営業方法がどのようなものかと云いますと、簡単に云えばコンサルタントをして営業案件をつける様なことを云って製品を売るのです。 例えば在るシステムインテグレーターにネットワーク時代おけるPKIソフトとシステムの将来性や市場性等、ビジネスチャンスを説明します。 その後コンサルティング会社として、そのシステムインテグレーターに、その市場に向けての組織体制や人員配置をさせるのです。 更にはその市場におけるボルチモア製品の先進性、技術力の高さ等をアピールし、製品購入を迫るのです。 そのときの殺し文句が“直ぐに実際のビジネス案件を紹介します”というものです。 即ち、ボルチモア製品を購入すれば、その製品を使ってのシステム構築の仕事を紹介すると云うわけです。 当然、そうしたシステムインテグレーターは仕事を紹介してもらえると思い、製品を購入するわけですが、実際のところBTJとしても仕事の当てがあって話をしているわけでは在りませんから、売上げ計上後は自然と連絡が途絶えます。 こうした状況になればシステムインテグレーターは、騙されたと思い代金の支払いを行いませんし、払った場合には返金を要求してきます。 先に申し上げた未回収金8億円というのは、こうした販売方法により発生したのです。 こうした中、新たなトラブルが持ち上がります。 NSJ創業時代の社長であった宮腰という人間が、未公開株であるBTJ株を担保に大金を借りて会社を興しましたが、その会社が潰れてしまったのです。 借り入れ金額が30億円という金額もさることながら、その債権が街金からその筋に流れてしまったのです。 宮腰氏はその後行方不明となり、そうしますと当然その筋の方はBTJ連絡を入れてくるわけです。 先方の要求は担保株の買い戻しでした。 当時の社長の春日原とNSJオリジナルのメンバーはこの対応に追われておりましたが、連日朝からその筋の方から電話が掛かってくることとなり、社内でもこれはおかしいとの噂が流れ始めました。 未回収金に未公開株を担保とした借金とその取り立て。 こうした事実はアイルランドのBaltimore Technologies Ltd.の耳に入ることとなったのです。 事実確認を受けたBaltimore Technologies Ltd. CEOのBijanKezriはBTJの解散を決めます。 ところがその解散を逆手に取ってBTJは会社のMBOを申し入れます。 この話に当時株価急落で苦しい立場に追い込まれていたBijanKezriも賛同します。 日本で投資家を見つけBaltimore Technologies Ltd. の持ち分である株式をBTJで買い取り、BTJをBaltimore TechnologiesLtd. の連結対象から外すことが出来るなら会社解散は行わない、ということになったのです。 但し12月末までに目処が立たない場合には、解散を宣言するという条件付きです。 早速投資家探しが始まりましたが、既に累損40億を超え、またその筋とのトラブルが噂になっているBTJに資金を提供するという投資家は当然見つからず、会社は2001年12月初旬には解散の噂が流れ始めます。 そこで救世主として現れたのがシージーアイです。 2001年12月末、当時BTJオフィスの在ったニューオータニガーデンコート会議室に、現在BTJの常務取締役となっている水島氏に付き添われて現れたのがシージーアイ社長の東氏です。 東氏はBaltimore Technologiesの技術は高く評価している、是非支援したいという話を始めます。 そこから話はとんとん拍子に進みます。 BTJサイドとしてはBaltimore Technologies Ltd.の持ち分を買い取らない限り解散ということになりますし、何しろ時間がありません。 結局、Baltimore Technologies Ltd.の保有する株式60%の内、40%をシージーアイが買い取り筆頭株主に躍り出るのです。 その後は三月末に開催された株主総会で、シージーアイから社長や副社長をはじめとする役員が送り込まれ完全なシージーアイの支配下に入ります。 新聞紙上にはマネージメントバイアウトとの記事が載りましたが、BTJからは春日原前社長と大友氏、北村氏の三名だけが役員として残り、その実態は中国系商社による買収でした。 先に書きました様にこのBTJという会社はインターネットセキュリティソフトを売る会社であり、実際にその構築まで手掛けております。 三重県ではBTJが関係して構築されたネットワークシステムを中心に、今話題になっている住民基本台帳ネットワークを含むLGWAN – Local Government Wide Area Network -を運用しております。 三重県白川知事などはこのシステムとBTJという会社を気に入り、各地でその名前をお話になっているばかりか、販促用パンフレットにも登場されております。 更にBTJはこれからNTTコミュニケーションズとアライアンスを組み、そのセキュリティシステムを“ブレイド”という名称で広く地方自治体や大企業向けに販売展開していこうとしているのです。 既に岐阜県へは相当のアプローチをしている様で、受注も間近と聞いております。 一つ噂があります。 これは親しくしている投資家の方から聞いた話ですが、今回のBTJ買収の資金は神戸にあるバーニングという会社から出ているというのです。 バーニングは少し前に脱税で新聞紙上に名前が出た、ナガタタイコウという人の会社だそうで、これもやはり新聞をにぎわせたリキッドオーディオジャパンに出資していた会社とのことです。 真偽のほどは定かでは在りませんが、ナガタタイコウの資金は日本にある北朝鮮系の団体から出たものであるとのこと。 そしてそのバーニングに出資しているのがBTJ常務取締役にシージーアイから入った水島氏であり、その水島氏の要請によりBTJ買収資金をバーニングが負担しているというのです。 さらにBTJとしては年度内にはその株式の上場を予定しております。 これにより今までの累損を一掃し、また今後地方自治体へのLGWAN導入や大手企業への食い込みのために信用を獲得するのが目的とのことです。 この上場計画は私が在職中に正式に役員会議で決定され、その担当は水島常務です。 住民基本台帳ネットワークは、国による国民監視とそのプライバシー保護という観点から議論されております。 しかしそれ以前にこうした人間や組織がこの住基ネット構築を行っているのです。 即ち住民基本台帳ネットワークの危険性は、その運用だけでないということをお知らせしたかったのです。 また国が導入するシステムですから、一般企業もそれに準じた形で導入する可能性が大きいと思いますが、その際にもリスクが在ると云うことなのです。 私もかつては自身が勤めていた会社ですので、この様な話をするのは正直気が引けるのですが、やはり国民として日本の将来を考えますと危険と感じ、今回連絡させて頂いた次第です。
以上。
|