猪木正道さん
安全保障問題の論客として知られた文化功労者の政治学者で、元防衛大学校長、京都大名誉教授の猪木正道(いのき・まさみち)さんが、5日午前5時46分、老衰で死去した。98歳だった。葬儀は近親者で行った。喪主は経済学者で前国際日本文化研究センター所長の長男武徳(たけのり)さん。後日、しのぶ会を開く予定。
京都市生まれ。東京帝大で社会思想家の河合栄治郎に師事し、軍国主義やマルクス主義に対抗する自由主義思想に大きな影響を受けた。卒業後、一般企業などを経て、1949年から70年まで京都大法学部教授。70年から8年間、防衛大学校長を務め、日本の防衛問題研究を進めた。
「ロシア革命史」(48年)、「共産主義の系譜」(49年)で、共産主義下の非人間的な独裁制を早くから批判。民主的社会主義者の立場を唱えた。政治権力の正統性や独裁権力を分析する一方、新聞、雑誌に精力的に論評を発表。日独の独裁政治を比較研究した成果は、後に全3巻の「評伝吉田茂」(78〜81年)にも生かされた。
防衛大学校長を辞任後も、平和・安全保障研究所理事長などを歴任。安全保障政策への提言を続けた。「平和憲法の理念を守りつつ、自国の防衛軍を明確に保持できるようにするべきだ」と改憲論を打ち出す一方、リベラリズムの立場から、教育勅語や戦前の軍国主義を批判した。旧民社党の理論的支柱となり、大平正芳首相のブレーンも務めた。
86年、勲一等瑞宝章を受章。2001年に文化功労者。晩年は京都に戻り、ヒトラー独裁の研究に意欲を見せていた。