また、「強軍戦略」と題した報告書の中では、ミクロネシア連邦以西の太平洋とインド洋の海域で支配力の拡大を図ると海軍の目標が明記されたとあるが、これは将来的に中国の言う防御的戦略の中で、中東・アフリカからの資源・エネルギーを独占するとともに、米国の影響力を東太平洋に封じ込め、結果、繁栄と覇権を握ることを意味している。
中国に国境の概念はなく、力の及ぶ範囲が国土、領海であることから中国にとっては他国を侵略することにもならないし、防御的と言うのだろう。
ミクロの目で見たもう1つの防御的軍事戦略
中国海軍の潜水艦〔AFPBB News〕
核心的利益が拡大しているという議論の中で、一番よく分かったのが中国の近海防御戦略である。
近海防御戦略では、海軍は主に黄海、東シナ海、南シナ海を含む第1列島線の「外縁」(CCTVではしっかりと日本の上に赤線が引かれている)で作戦し経済力と技術水準が強化され海軍力が強大になれば、作戦海域は段階的に太平洋北部からグアムを含む第2列島線に拡大するとしたもので、すでに中国は第1と第2列島線と称する中間の沖ノ鳥島付近まで作戦海域を広げたものと考えられる。
これは海軍戦略を基本としているが、今は各種ミサイル、空軍、陸軍(民兵を含む)まで含んだ「統合作戦構想」として捉えるべきである。さて議論における注目点は次の3つである。
(1)第1列島線はともすれば列島線だけを注目しがちだが、今回、中国の「核心的な地域」であり中国経済のエンジンであるとして3つの地域を明示した。
その1つは、北京、天津、河北という地域であり、さらに上海などを含む長江デルタ、そして広州、香港を含む珠江デルタである。
「近海の沿岸地域は中国の経済の核心的地域であり防御しなければならない」と述べたが、守るべき中国の核心的地域を示した意味は大きい。これがあって初めて第1列島線の内側は戦時には絶対敵を入れない聖域だと宣言したに等しい。
これを守るように北海、東海、南海艦隊は配置してある。米国の言うA2(接近阻止)/AD(領域拒否)のADに相当するものの目玉である。同時に中国の弱点を自ら言ったことになる。
(2)黄海を含めて東シナ海、南シナ海が聖域でなければならない理由は、中国本土の要を守らなければならないだけでなく、軍事力の力の出所、「策源」として平時も有事も絶対に安定している必要があるからである。
すなわち、マクロの目で見た大戦略を実現するためには、第1列島線の内側に米軍を含む「敵」の侵入を拒絶することが絶対条件である。
東シナ海は西太平洋に覇権を拡げるために、南シナ海は核反撃の要として核弾頭発射の潜水艦を配置する軍事的意味は将来極めて大きい。
このため中国は、海の聖域化をより確実にするために、南シナ海に南沙、西沙、東沙を統合して三沙市として実質南シナ海を内海化することを狙い、尖閣を中国の領土とすることにより東シナ海の内海化を狙っている。
これらの島は小さくても、海という本来、自由航行を止めることが困難な海面を、動かない、そしてそこから軍事力を投射できる拠点を保持することにより、確実に自らのものとしようとしている。これが南シナ海、尖閣を核心的利益と言う意味である。
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