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2007-05-01 17:17:40

盛岡讃歌Ⅲ

テーマ:どんど晴れ

岩山と四季園

 

 落ち葉の下に縫いつけられるように流れる、せせらぎのかすかな音のほかは、小鳥のさえずりが時々耳に入るだけで、他の物音は聞こえない。盛岡市市街地の東北にある岩山の中腹。数百㍍登れば観光客でにぎわう山頂の展望台があるとは、とても信じられない静けさである。

標高340・5㍍の山頂の展望台は視界360度。市内一円が見渡せることから「盛岡市の展望台」と言われる。杜と水の都・盛岡のしっとりとした街並みの向こうには、たくましい岩手山、目を右に転ずればたおやかな姫神山、岩手山の反対側には雪白き早池峰山が望める。近くには腕を組んで立つ啄木の像があり、子供の遊園地・岩山パークランド、盛岡市動物園、ゴルフ場(冬はスキー場)などがある市民の憩いの場である。

それだけに、岩山は車で行く場所と思っている市民がほとんどで、歩いて登る酔狂な人なんてまずいない。しかし、岩山は冒頭に書いたように自然がいっぱい。歩いて登ると、新鮮な発見がある。歩いて登る人がいないから、人に会うことはなく、山頂に着いて人が多いのに驚かされる。だから、中腹にある植物散策路・四季(よき)園のことを知る市民は少ない。ある女流詩人はここを「岩山の隠し砦」と名付けた。

車で行くと、中腹にある岩山漆芸美術館(元橋本美術館)の前に車1台がやっと通れる未舗装の道が右手に伸びている。道なりに数百㍍行くと、「四季園」の看板と木の門があり、門の左手に小屋があるが、人はいない。そばに「百円以上のカンパを」という掲示があるだけで、自由に入れる。

道の両側にはさまざまな木や花が植えられ、それぞれに名札が付けてある。約370。小さな山を巡って小道があり、「山野草」「しだれ桂」「槐」「篠懸」など散策路の名前が付けられている。四季の花が1カ所にまとめて植えてあるのではなく、花の時期には園内どこでも楽しめるように散らしてある。

道のところどころに動物舎があり、クマ、サル、チンパンジー、シカ、ヤギ、ポニー、ウサギなど子供の喜びそうな動物のほか、地鶏や小鳥もいる。園内はいつも気持ちよく清掃され、植物も手入れが行き届いている。こんな素晴らしい散策路がまったくのボランティアで造られ、維持されている。

この人は中野崎寅吉さん。戦争中に旧満州の騎兵隊に入隊し、終戦も知らずにソ連軍からの逃避行を続けたあと捕虜となり、シベリアのイルクーツクで収容所生活を送った。帰国後、盛岡で「一心太助」というスーパーを経営。その後、ホテル、サウナ、マンションなどを多角的に経営している。2・3㌶の土地に、初めはホテルを建てようとしたが、都市公園に指定されていて出来ないことが分かり、「いっそ、市民が散策して心がやすまるところにしよう」と1984(昭和59)年4月に開園した。「しき」の響きを嫌い「よきえん」と名付けた。

 中野崎さんは、シベリア抑留の経験から、平和の貴さを身にしみて感じている。園の頂上に自然石で「守平和」の祈念塔を建てた。碑文には「われわれの使命は この平和を守り抜き 絶対に戦争を起こさせないことである 戦場でたおれ 抑留中に力尽きた 多くの亡き友のためにも」と書かれている。

 碑には「杏の花」という詩が刻まれている。この歌は抑留中に抑留中に仲間の1人が作詞、もう1人が作曲し、みんなで歌ったという。「杏の木に 杏の花が咲くように この国に 明るく花を咲かせたい」で始まる歌は「みんなのくらしを 豊かにうるおしたい」と歌い上げている。中野崎さんの平和への願いが、四季園を造らせた。

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