ザ コカ・コーラ カンパニー
パブリックアフェアーズ&コミュニケーションズ
パシフィックグループ ディレクター
ジョアンナ・プライス 氏
人口の増加、自然資源への圧迫、問題を抱える地域社会、ますます増大する消費者の期待。そのような世界でサスティナビリティーは、ビジネスの持続・継続の中核となるものである。何十年もの間、誠実な企業は成功と市民権を一体化させるシンプルな方程式を持っていた。すなわち結果を残し、善い行いをし、その過程で害を及ぼさないというもの。以前はそれ以上を望むことはなかったが、今日、世界が求めるものは、ずっと大きくなっている。そして、そうした要求は従来の良い企業という定義をはるかに超え、全く新しい考え方が必要となる。私どもは世界とどのように関わるのか、そして世界はどのように私どもと関わるのか。その核となるのは、ビジネスと社会のニーズを1つのレンズで見つめる能力である。社会の繁栄なくしてビジネスの繁栄はありえない。サスティナビリティーは、ビジネスと社会の前向きな交流を示す一方、今、私どもが実感しているより大きく、より力強いものとなっている。これまでにないほど、ネットワーク化と可視化が進んだためだ。
あらゆるビジネスには共通のメッセージが3つある。まず「世界の中の変化」。これは歴史から生まれ、進化を続けるリスクと機会へとつながる。第2に、こうしたリスクと機会によって、ビジネスと社会の間の力強いつながりが必要となってくる。そして第3に、消費者はそのつながりの本質にこだわる。ブランドに対する愛着は、それを提供する企業を尊敬できるかによって左右される傾向が、ますます強くなってきた。コカ・コーラのビジネスモデルを見れば、なぜ私どもがこうしたメッセージを真剣に取り上げるのか、そして社会とつながることを大切にするのかが明確におわかりいただけるだろう。
企業は人が活動するために必要としている資源を提供する役割を果たしていた。単に最も大金を積んだ企業が最高の評価を受けるという時代からは、ずいぶん進歩したが、まだまだ不十分。企業が持つ独自の資源と、社会の切実なニーズがまだしっかりと結びついていないからだ。
私どもは輸出を行っていない。製品を提供する地域で働き、雇用機会を提供し、パートナーシップを組み、そこで共に暮らす。もしそうした地域が成功しなかったとしたら、社員も販売店も原料メーカーもボトラー社も、そして私どもも成功することはできない。私どもは、すべての答えを持ってはいないが、それでも正しい問いかけはしていると信じている。弊社が提供する機会と、世界に存在するニーズの接点はどこだろうか? どうしたら最適な方法で、私どもの時間、資源、人材を投入し、両者にとって最大のメリットを生み出せるだろう? そして、ビジネスや人生における普遍的な問いかけは、ここからどこへ向かうのか? ということだ。
今日、私どもは社会的・経済的発展を続ける世界の一員として、弊社会長ムーター・ケントが「ゴールデン・トライアングル」と呼ぶものに参加している。そのトライアングルの一員として、まず前向きに永久的な変化を起こす最適な機会がどこなのかを明確に理解する必要がある。
コカ・コーラは4つの分野に注力している。水、パッケージ、気象、そしてビジネスを展開している地域のニーズ全般である。まず水は私どものビジネスの価値と社会にとっての価値が1つになる非常にわかりやすい事柄だ。目標は「ウォーター・ニュートラリティ」、つまり、飲料や製造過程で使用された量と同じ量の水を社会や自然に還元することである。
2005年以来、94か国386地域でパートナーシップを結んでいる。WWF(世界自然保護基金)やUSAID(米国国際開発局)、そして自然保護団体ザ・ネイチャー・コンサーバシーなどがその一例だ。これまでに最終製品で使用されている水の31%が、こうしたパートナーシップを通して還元されていると推定される。目標は2020年までに100%に到達することである。
その取り組みの1つの例が、アフリカの事業を行う地域の水資源保護の一環として立ち上げた「アフリカを潤すためのイニシアティブ(RAIN)」の活動だ。私どもは2015年までに最低200万人のアフリカの人々に清潔な飲料水を提供することを目指している。さらに公衆衛生施設を100万人に、そして衛生教育を500万人に提供する。立派な目標や数字ではなく、家族や個人の生活を変えていくことが何より大きな影響を及ぼすことなのではないかと私どもは考えている。
例えばナイジェリアの農村では、5,000人もの人々がたった1か所の水路から、汚染された水を飲んでいた。予防できる病によって、彼らは経済を、そして彼らの生活を改善する力を奪われていたのだ。RAINの協力で井戸が掘られ、衛生施設が儲けられ、雨水の貯水システムが作られた。そして住民は、病の原因となっている生活習慣を変える努力をした。これにより、その村の生活は一変したのだ。
パッケージにまつわるムダをすべて排除するためには、消費者の意識を変える必要がある。パッケージがムダなものではなく、将来使用可能な資源であるという新たな発想だ。私どもはより軽い原料を使うことで、パッケージの軽量化を推進。リサイクルにも注力し、投資を行っている。そしてリサイクルされた、あるいは再生可能な素材をより多く活用するため、常に技術やシステムの更新に努めている。例えば、新しいプラントボトルの開発。サトウキビを30%原料として使用し、そのぶん石油系の原料が削減された、リサイクルや再生可能な素材で作られており、20か国ですでに100億本ものプラントボトルが販売されている。さらに先を見据え、私どもは2020年までに、すべてのペット容器をプラントボトルに切り替えることを目標としている。
もう1つ技術にまつわる重要なテーマが地球温暖化防止である。私どもは製造過程の二酸化炭素量を増やすことなくビジネス成長を実現することを目指し、ハイブリッドトラックの導入や冷蔵機器の温室効果ガス削減にも注力。よりエネルギー効率の良い機材の導入に加え、従来の冷媒よりも地球温暖化係数の小さい、天然成分が基本の薬剤を使用する方法を開発した。コカ・コーラシステム全体で、2015年までには、新たに導入する冷蔵機器を100%ノンフロン化する。
自分たちが身を置き、暮らしている地域社会は、すべての活動の拠点となっており、そこで製造し、雇用も提供し、物を買い、生活することが大きな経済上昇効果につながる。平均すると、コカ・コーラの仕事が1つあると10の間接的仕事を生むのだ。
共有された価値が、会社と地域社会の両方に利益をもたらす例を挙げたい。世界中で女性の台頭が見られるが、女性が社会の中で力強い柱となっていることは特に驚くべきことではない。適切なサポートさえ得られれば、彼女たちは類まれな経済中枢となる。女性はすでに世界の資質の3分の2を支配している。さらに女性は、世界で必要とされる仕事の実に66%を担い、労働力としても不可欠な存在だ。それにも関わらず、彼女たちが稼いでいる金額は世界の収入の10%にすぎない。
私どもはまた、女性への投資に対するリターンの大きさにも気づいた。女性は最高で収入の90%を家族や地域に還元する傾向がある。商品やサービス、そして子どもたちの教育などに対して振り分けられる。ビジネスとして見たとき、特に私どものように、グローバルな会社でありながら、ローカルなビジネスを運営している企業にとっては、これは大きな力である。だからこそ、地域社会に対して価値を提供することに個人的にもビジネス的にも、高い関心を持っている。
女性が持つ潜在的可能性を解き放つ機会を、私どものビジネスと結びつけた形で見つけたい。そんな思いから、既存の小売店舗での取り組みをスタートさせた。市場によっては、そうした小規模店舗を運営するビジネスパートナーの70%以上が女性である。例えば、フィリピンで取引のある小売店の86%は女性がオーナーか管理者だ。一方、エジプトなどでは、その数字がわずか10%にすぎない。ヨーロッパや北米は30%程度だといわれている。
私どもには、2020年までに弊社のグローバル全体で、女性実業家500万人に経済権限を与えるという非常に野心的な目標がある。その結果、女性、地域、そして、私どものビジネスシステムの経済価値やビジネス能力が向上する。すでに行われている包括的なビジネス構築プログラム、「five by twentyプログラム」についてお話ししたい。
南アフリカでは都心部と半農業地帯で、女性が経営する店舗を対象として試験的に実施されている。プレトリア大学と共同開発されたこのプログラムは、女性がより積極的に社会と関わり、有意義な存在になれるように設計されており、ビジネススキルを身に付けるための研修を提供する。初期の段階での結果は、女性の収入は以前と比べ、3倍から9倍に増加した。
フィリピンでは、小規模店舗の86%が女性によって運営されており、そのビジネスを維持、成長させるため、プログラムの試験導入の準備が進められている。私どもは、政府機関などと提携し、店舗での陳列方法やマーチャンダイジング、顧客へのサービスなど実業家としてのスキルを身に付けるための支援を行う。
ブラジルでは3つのプログラムが用意されている。女性たちは、コカ・コーラのパッケージからリサイクルされた素材を使い、工芸品の作り方を学ぶ。現地企業と提携し、消費者が価値を感じて購入したいと思うような商品の作り方を教え、さらに転売ルートを提供する。初期のテスト結果によると、彼女たちの収入は30%アップ。コカ・コーラにとって、この活動はパッケージ原料の再利用というサスティナビリティーの役割とも合致している。
インドでは、ソーラークーラーという太陽光発電ができる冷却器の試験導入調査が行われている。電力が断続的にしか、あるいは全く供給されない地方で複数のメリットを提供できる可能性がある。ある小売店でこれを採用したところ、携帯電話のバッテリーをチャージするためにお客様が数多く来店し、収入が大きく変わった。停電の際にはチャージしたランタンを使用し、子どもたちも、夜、宿題をやるためにその電気を活用している。これらをはじめとするプロジェクトは有意義なものであり、地域や人生をも変えているのだ。
顧客の関心は高く、常に我々はインターネットを通して観察されている。消費者はちゃんと理解しており、大半の人達は選択する製品を通して、より持続可能な生活を実践したいと思っている。プラントボトルがその好例であり、この製品を選ぶだけで変化を生み出せることを消費者はよく知っている。高い品質やおいしさあふれるリフレッシュメント以上のものを期待しているのだ。それは選択する飲料、私どもの方針や手法、そして世界をより良い場所にするための活動を通じて実現されるだろう。
一橋大学大学院
国際企業戦略研究科教授
楠木 建 氏
各メディアなどで紹介され話題となった『ストーリーとしての競争戦略―優れた戦略の条件』の著者である一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授、楠木建氏を講師に迎えた基調講演。
ザ コカ・コーラ カンパニー
パブリックアフェアーズ&
コミュニケーションズ
パシフィックグループ
ディレクター
ジョアンナ・プライス 氏
日本コカ・コーラ
バイスプレジデント
広報・パブリックアフェアーズ本部長
後藤 由美 氏
ザ コカ・コーラ カンパニーの世界共通の事業指針である「Live Positively(リブ・ポジティブリー)」の考え方と、グローバルに展開するサスティナビリティー戦略の事例を語る。
コカ・コーラのジョアンナ・プライス氏と後藤由美氏、(独)国立健康・栄養研究所 健康増進研究部 部長、運動ガイドライン研究室長の宮地元彦氏、(株)イー・ウーマン、(株)ユニカルインターナショナル 代表取締役社長の佐々木かをり氏を迎え討論。