あらゆるものが民主化される時代に

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2012/11/06


「民主化」というのは、テクノロジーを語る上で重要なキーワードだと感じるので書いてみます。


創作の民主化

例を出すまでもなく、テクノロジーは創作活動を民主化しました。僕は10年以上前からニュースサイトを運営していますし、今や小学生でもアプリを制作していたりします。

工場的な労働が主流だったこれまでの社会は、文章でも絵画でもアプリでも、「みずから何かを生み出し、世にその価値を問う」という態度はそれほど求められませんでした。毎日出勤をして、ボスの言うことを聞いて、その範囲で質の高い仕事をこなせば優秀な人材と認められたのです。


(リュミエール兄弟「Exiting the Factory(工場を出る人たち)」)


しかし、これからの時代はゼロから何かを生み出すような、クリエイティブな仕事こそ価値が求められます。指示を聞くだけで完結する仕事は、僕たち日本人がやらずとも、ロボットや、世界中の安価な労働者がこなしてしまうからです。

これからは「創作力」「表現力」が求められるようになるでしょう。プレゼンスライドの制作ひとつとっても、自分の価値観や問題意識、情熱を反映させ、アーティストのような態度で作品づくりに望むべきです。よくできた工業製品のようなスライドよりは、熱い想いのこもった、自分にしか作れないスライドを生み出しましょう。

そのための道具はもうこの手にあります。皆さんの目の前にあるデバイスを使えば、すぐにでも創作者になることができます。デジタルデバイスを前にして、創作の機会を掴むか否かは、キャリアにおいても大きな違いとなるはずです。僕はブロガーなので、特にブログをおすすめします。


編集の民主化

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「編集」は「創作活動」の中に含まれるものですが、NAVERまとめの隆盛を考えると、切り出して考察する価値はあると思います。

インターネットの力で、世の中に大量の「作品」が溢れ出すことになりました。日々その競争は激化し、多くの創作者は、可処分時間の奪い合いの中に身を投じることになります。

一歩遠い視点から見れば、それは「編集ニーズ」が台頭していることも示しています。作品があまりにも多いので、それを意味付けし、並べ替え、整理するニーズが生まれてきているのです。いわゆる「キュレーション」ですね。

NAVERまとめはウェブにおける編集機能を担う、重要なプラットフォームになっていくでしょう。「インターネット全体の編集部」と呼ぶべき存在です。

が、現時点では、残念ながら「ニュースサイトの転載」の域を出ないまとめも多く掲載されているのが現実です。

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編集の定義は様々ですが、「情熱」「専門性」「組み合わせ」という3つの要素が重要だと考えています。例えば「断片的な物語が一気に収束する!入り組んだ時系列の構成が見事な映画」というまとめなんかは、映画好きじゃないと作れないので、オリジナリティの高い編集物といえるでしょう。


ものづくりの民主化

最後に、3Dプリンタをはじめとするデジタル工作機械によって、ものづくりも民主化されていきます。

いま僕らが目にしているのは、新しい時代の家内工業への回帰だ。新たなテクノロジーは、人々にふたたび生産手段という力を与え、草の根からの企業と分散されたイノベーションを可能にした。

(必読本)クリス・アンダーソン「MAKERS [メイカーズ] 21世紀の産業革命が始まる」 | ihayato.news


L5 3D」など、家庭用の3Dプリンタは着々と開発されているので、10年後には一家に一台3Dプリンタがあってもおかしくはないでしょう。

現時点での「創作活動」は、文章やイラスト、アプリなどデジタルデータによるものが中心ですが、これからはもっと伝統工芸的な、リアルなモノも「創作活動」の範疇に含まれていくようになります。ブログというプラットフォームが「プロブロガー」という職業を生み出したように、デジタル工作機械は新しいプロフェッショナルを続々と生み出していくのでしょう。


「公共」の民主化

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もう少し視野を広げると、カッコ付きの「公共」もまた、僕たち市民の手に引き戻されてはじめています。いわゆる「新しい公共」というムーブメントです。そもそも公共は僕たちのものですから、「公共」の民主化という言葉は意味不明なのですが…。


例えば「遠隔手話通訳」を展開するシュアールなどは、公共を自らの手で引き取りつつ、ビジネスまで生み出している注目すべきプレーヤーです。

元来、聴覚障害者の方向けの「手話通訳」は、行政や自治体が提供してきた公共サービスです。しかしシュアールは、テクノロジーを切り口にして、民間からこの領域に参入しています。これまで「公共」が担っていたものを、民間で代替・リノベーションしているわけですね(シュアールのサービスの詳しい内容はこちらの記事をぜひ)。


いわゆる社会起業家と呼ばれる方々は、公共を自らの手に取り戻そうとしているプレーヤーといえるでしょう。社会的企業は、世界中で大きなビジネストレンドになっていると感じます。国が提供する「公共サービス」では、世の中が回らなくなってきたということなのでしょう。


創作、編集、ものづくり、「公共」、これらが僕が特に注目している「民主化」です。今後のテクノロジーの発展を踏まえると、例えば「生物学」の民主化なども直近には控えているのでしょう。

皆さんはどんな「民主化」に注目し、プレーヤーになろうとしていますか?ぜひ多様な観点を共有してみてください。


関連本。「生物学」の民主化に関しては、書籍「バイオパンク」がおすすめです。何気にMAKERSより面白かった一冊。