「正義とは何か」徹底して描く不朽の名作 「009 RE:CYBORG」の神山健治監督インタビュー
──今回の映画「009 RE:CYBORG」は、ストーリーはまったくオリジナル?
そうです。さすがに平成版のアニメから12年も経ってるので。復刻やリメイクってだけではなく、「009」をよく知らない人にも見てみようかなっていう動機付けをしたいなと思いまして。
──舞台設定が現代になっているんですよね。
はい。2013年です。
──「サイボーグ009」ってベトナム戦争や東西冷戦だったり、時代を反映したトピックが盛り込まれていた作品ですけど、今回の映画も現代社会の問題を描くんでしょうか。
そうですね、現実とのリンクを強めた構成になってます。超高層ビルが次々に爆破されてしまう世界同時多発テロがきっかけで、サイボーグたちが招集されるんです。
──ポスタービジュアルが公開されたとき、ジョー(009)が学ランを着ていることがとても話題になりましたが、あれは……。
ああー、先日フライング気味に発表しちゃったんですけど……(笑)。制服を着ているのは、少年性をわかりやすく出したかったというのがまずあります。というのも、サイボーグは歳をとらないわけですが、彼のナイーブな性格を考えると、少年の姿のままで永遠に生き続けることが耐えられないんじゃないかと。
──映画の世界は原作の延長線上にあるんですか?
そうです。40年前にゼロゼロナンバーたちが解散し、自分の国に帰っていったという前提なんだけど、ジョーだけニュートラルな存在として、有事のときいつでも呼び戻せるように高校に通っているんです。あと高校生にした理由としては、原作を知らない若い人にも見てほしいというのがありました。見た目18歳だけど、中身が老成してしまっていては……。
──共感しづらい。
そういう思いもありましたね。若い観客に、これはあなたたちの話でもあるよ、と思ってもらいたいですから。
──ほかのメンバーに関しても、少しだけでも教えていただけますか。
張々湖(006)は積年の思いがついに叶って中華料理店が大ヒット、チェーン展開までしています。これは中国経済の右肩上がりの時勢が反映されてますね。あとハインリヒ(004)はドイツに戻ったけれど、彼ってドイツの合理主義には馴染まないサイボーグだと思うんです。充填する武器も全身オーダーメイドで、指のマシンガンひとつひとつ、弾の口径も違うんだろうし。
──そ、そうなんですか!?
多分(笑)。彼はとにかく手間がかかるということで、兵器としての価値がないとしてまず博物館行きになった。でもハインリヒはガラスケースの中に飾られるのなんてごめんだということで、再びギルモア博士のところに戻ってくる。こんな感じで、それぞれのキャラクターをまんべんなく出していきます。
──サイボーグ戦士のキャラクターデザインは、どれも頭身高めで洗練された感じ。これにも驚きの声がかなり上がっていました。
ジェット(002)の鼻はどこへ!? とかね(笑)。最初はあれっと思うかもしれないけど、観ているうちに、あ、ちゃんと「サイボーグ009」だな、と思ってくれる作りにはなってる自信はありますね。原作へのリスペクトも伝わると思います。
──原作ではキャラクターそれぞれの抱える“サイボーグであることの悲しみ”がひとつのテーマとしてありましたが、設定は違えど今回の映画でもそこは同じでしょうか?
うーん……サイボーグとしての悲しみって、連載が進んでいくにつれて醸成されたものだとも思うんです。新しい人に観てもらうとすると、そこを描いても映画の尺の中でついてきてもらうのは難しいのかなと。それよりはもうひとつ石ノ森先生がテーマにされていた、ヒーローの持つ正義とは、というところですかね。そこを考え抜いたからこそ、のちの天使編や神々との闘い編のような哲学的な作風に先生はいかれたんだなと、脚本を書いていて先生の思考を追体験した気がした。
──石ノ森先生が創作する中でたどった道を。
マンガの中でいくら悪を倒しても、現実には戦争はなくならないし、ヒーローがいくら正義をなしても、悪いことをする人間はいなくならない。だとしたら、正義とはなんなんだとか、そもそも人間を作った神が存在するなら、いったいどういう考えで人間を作ったのかと、そういうところに先生もたどり着いたんじゃないかなあ。おそらくですけど。
──ヨミ編の最後、002と009は身を挺してブラック・ゴーストを倒しますが、結局「ブラック・ゴーストは人間たちの心から生まれたもの。滅ぼすには、地球上の人間全部を殺さねばならない」という、あまりにも悲しい描かれ方をしていますよね。
悪は人々の心の中にあるという、そういうことを突き詰めて考えていくと、モノを作れないところへといってしまう可能性もある。石ノ森先生が当時そこまで考えてマンガを描いていたのかと思うと、愕然とします。
──40年以上前にそこまで考え抜いて執筆していたのかと。
はい。先生がどう思考されてたかって、僕も「009」の世界に潜ってみて、手触りとして理解できた気がした。
──先生と同じところにたどり着いた?
うーん……どうかな。ただたどり着いただけ、という敗北感もありますね。
──敗北感、ですか。映画の制作が佳境に入った現時点でも。
うん、敗北感ですね。でも先生が終わらせなかった部分を、本当に僭越ながら、僕なりの“こうではないか”を描きたいと思っています。「終わらせなければ、始まらない。」というキャッチコピーにしたのは、そういう意味もあります。
──そうなんですか。あのコピーは、行き詰まりつつある時代を“終わらせなければ”という、世に向けたメッセージなのかと思っていました。
もちろんそういう意味も込めています。世界中で人間が生命活動を続けていく行為そのものが行き詰まってる。そういうところも含めて、トリプルミーニングくらいの意味が込められてますね。
──“始める”ということは、今後も続編を予定していたりするんでしょうか。
とりあえず今はすべてをこの作品に注ぎ込んでいるので、次のこととかは具体的に考えてませんが……。ここで1回「サイボーグ009」という作品がリセットされるきっかけになればいいなという思いです。それが、僕が今回映画を作っている最大の動機。
──リセットというのは?
再び「009」ブームがくればいいなと。自分がどのくらい「009」が好きだったかって、あまり自覚的ではなかったけど、今回改めて原作を読んだときに、いかにこの作品が基礎になって今の自分ができあがってるかということを痛感した。そう思うと、「009」への世間の熱が終わってしまうのではなく、始まってほしいなという気持ちなんです。
1938年1月25日宮城県登米郡生まれ。本名は小野寺章太郎(おのでらしょうたろう)。1954年、漫画少年(学童社)にて「二級天使」でデビュー。1964年に週刊少年キング(少年画報社)にて「サイボーグ009」を連載開始。繰り返しアニメ・映画化され、長期にわたる大ヒット作となる。1971年に週刊ぼくらマガジン(講談社)で 「仮面ライダー」、翌年週刊少年サンデー(小学館)で「人造人間キカイダー」を連載。ともに短期連載だが高い評価を得た。1988年「HOTEL」にて第33回小学館漫画賞を受賞。1986年にはデビュー30周年を記念して、ペンネーム石森章太郎を石ノ森章太郎へと改名した。1998年、東京お茶の水順天堂病院で逝去。生前の業績に対し、勲四等旭日小綬章、日本漫画家協会賞、手塚治虫文化賞および特別賞を授与された。
1966年生まれ。埼玉県出身。高校卒業後、アニメの自主制作に関わった後、背景美術スタッフとしてキャリアをスタート。美術出身の演出家として注目を集める。「ミニパト」で初監督。「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」シリーズでは、国内外に熱狂的なファンを獲得。続く「精霊の守り人」では一般層・高年齢層にも大きな評価を得る。「東のエデン」では、初の完全オリジナル作品として高視聴率をマーク。「攻殻機動隊S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D」は“誰も観たことがない3D立体視”をテーマに、興行収入2億円を超える大ヒットを記録。「009 RE:CYBORG」を2012年秋に公開予定。