“八十一日目”
昨日の戦いから得た経験値は量と質が良かったからか、大量にランクアップ者が現れた。
ホブ・ゴブリンクレリックだったホブ治くんは【半聖光鬼】と呼ばれる種族になった。
身長は百七十センチほどと小さく、手足も引き締まっているというよりは純粋に筋肉が少なくて細い。もやしっ子だ。そしてやけに白い肌と両手の甲に刻まれた例の黒い刺青は目立ち、肩まで適度に伸びた髪はやや銀色で、瞳の色は金色だった。スペ星さんのように額の中心には白い“鬼珠”が埋まっていて、その隣に生えた五センチほどの小さな二本角が特徴的である。
肉体面のスペックはスペ星さんのように他の鬼人種よりも低いそうだが、その分守りと治癒に秀でた種族だそうだ。
試しに奴隷に怪我をさせて治させてみたが、その治療速度は以前の比では無かった。
今度は固有能力の一つである聖力場――薄い光の膜を想像してもらいたい――を展開させてそれを俺が殴ってみたら、アビリティの無い状態では二十撃も耐えられてしまった。
相当頑丈な守りである。ちょっと悔しかった。
名前はホブ治くんからセイ治くんに改名する事になった。
ホブ・ゴブリンメイジで腐肉好きだったホブ浮ちゃんは、【死食鬼】になってしまった。
最近では俺が生成したゾンビの腐肉を美味しそうに喰っていたからな、やっぱり成るだろうとは思っていたので驚きは少なかった。
グールは身体の一部が腐っているなどという事は無く、黒髪に生気の抜けた青白い肌にはやはり黒い刺青があり、パッと見では平凡な人間の女性に見える。が、やはり腐肉を喰らい霊魂を喰えるようになった為か、何処か、ある意味で非常に危険な雰囲気を纏っていた。
とくに最近では俺とオガ吉くん、あるいは俺とセイ治くんを交互に見ては恍惚とした表情を見せ、時には涎を零すのはどういう事だろうか。その度に寒気が走るのでどうにかしてもらいたいのだが、言ってもあまり意味が無い様だ。
名前はホブ浮ちゃんからグル腐ちゃんに改名する事になった。ちなみに浮が腐になっているのは誤字にあらず。
ホブ・ゴブリンの一人であるホブ芽ちゃんは全身各所に無数の目を持つ【百々目鬼】になった。
黒い長髪に百六十センチほどの女性体で、正直全身にある目のせいで美人かどうかは見る人によって変化するだろう。そして、最初から白い着物風の衣服を纏っていたので新しい衣服は必要ないらしい。
ちなみに着ていた白い着物風の衣服は“生体剣”の防具版――“生体防具”の一種だそうだ。
種族的に妖術を扱えるようになったが肉体能力がかなり低いので総合的な戦闘能力は低く、しかしその分情報収集能力が高い種族なんだそうな。
なるほどなるほど。情報戦などで非常に活躍してくれそうなので期待しておこう。
名前はホブ芽ちゃんからドド芽ちゃんに改名する事になった。
それとかつて奴隷だった例の五ゴブを含む七体のホブ・ゴブリンは順当にオーガになっている。
七体のうち二体はメスオーガなのだが、その姿は何と言うか、色々と凄い。何だろう、妙に迫力があるのだ。俺と同じくらいの大きさで、茶色い肌に刻まれた黒い刺青に筋肉隆々の身体。ワハハハと男勝りに豪快な笑いをするその様は、どこぞの戦場の姐さんという雰囲気を撒き散らしていた。
一目見れば迷彩服を着て大型銃器を掲げ、戦場を駆け巡っては屍を量産していくその様を簡単に想像できるに違いない。
それぞれ改名する事になった。
ついでコボルド達だが、足軽が新しく六体増え、最初から足軽だったリーダーは【武士コボルド】になった。
その見かけだが、黒を基調とした着物と朱色の手甲具足を装備し、腰に黒鞘の太刀を佩いた東洋系の顔立ちの三十代後半男性に犬耳と尻尾を取り付けた様な姿である。
足軽時よりも顔や肉体などが明らかに人間よりになっていたが、三十代後半のむさ苦しいおっさんに犬耳尻尾とは、コレは酷い。
俺の感覚からするとどう見てもコスプレのようにしか映らないその姿には、思わず顔を背けても仕方が無いと思うのだ。
それに足軽だった時の犬頭時に『殿、殿』と甲斐甲斐しく色々としてくれていた時はちょっと可愛らしい部分もあったのだが、コスプレ武士の様になってゴツくなったその姿でやられると、色々と唸らされる。
まあ、外見は置いといて。
名前は足軽リーダーと呼んでいたので今後は武士リーダーと呼ぼうと思っていたのだが、どうもこの世界にはある程度以上の存在になると【真名】というモノを世界から授かるらしい。
それによると武士リーダーの【真名】は【秋風之辻】、と言うそうだ。
ちなみに、本来なら他人に【真名】を語るのは馬鹿がする事だ。
理由として、真名を知られるか知られないかにより、呪いの効力や威力やら、色んな術技の強制力が上下するからである。
それを明かしたのは、生涯をかけて仕える為の簡単な儀式だったからだそうな。なるほど、と頷き。普段使う名前を俺が考える事になった。ほら、普段【真名】は使えないだろって事だ。
そして悩んだ結果、秋風之辻改め【秋田犬】と呼ぶ事になった。いや、以前の顔つきが似ていたので、無意識にそう選択してしまったのかもしれない。
まあ、本人が納得してるんだから問題ないだろう。
それぞれに祝い品を贈った。
さて、今度は元奴隷部隊員についてである。
半数以上はそれぞれの故郷などに帰ると決めたのだが、旅費など先立つ物が何も無い状態である。
その為、洞窟の整地や外部演習場製作などに使う木の伐採などのバイトをしてもらい、働きに見合った分だけ人間軍から略奪した食糧や調理道具、金などを渡す事にした。ちなみに脱走兵であるが故に武器はあるので給料には含まれていない。
皆非力な人間ではないので五、六日もすればある程度旅費は貯まると思われる。コチラとしてもさっさと出て行ってもらいたいと言う思いがあるので、時給は非常に高いのだ。
そんな訳で、帰郷選択組について語る事はあまり多くない。
多いのは、残る事を決めた、つまりは傭兵団≪戦に備えよ≫に入団する事にした五十名についてである。入団理由としては既に帰る場所が無い、自由になったが生まれてずっと奴隷だったのでどうやって生きていけばいいか分からない、これからも血沸き肉踊る戦場で生きたい、恩を返さねば納得がいかん、などなど、様々である。
大まかな種族の分類と数は、
鬼人:3体。
半鬼人:5体。
竜人:4体。
半竜人:6体。
大鬼:10体。
巨鬼:1体。
蜥蜴人:5体。
ドワーフ:5体。
首なし騎士:1体。
猿人:3体。
半吸血鬼:1体。
赤帽子:3体。
虎人:2体。
ケンタウロス:1体。
となっている。
正直、現在の構成員の大部分であるホブ・ゴブリンよりも強い種族ばかりだ。まだ俺達には居ない鬼人や、それと同程度の能力を有する竜人などは特に強力である。
俺個人としては別に入団させるのは問題ないのだが、流石に一度にこれだけの数を入れるには弊害が多い。俺は兎も角、他のは流石に納得しないだろう。
俺達は基本的に強い者こそ正義である。
それ故強い奴には従うし、そういう風になるよう俺が仕向けた。
が、やはり同族だった俺が頂点に成り上がったなどの事例は兎も角、いきなり知りもしない奴等が大量にやってきて、今までの地位を奪われて上に立たれたら、どうしたって不満が溜まる。
俺だったら我慢ならん。
レッドキャップやリザードマン、ケンタウロスやドワーフ辺りはホブ・ゴブリンなら大半のヤツが勝てるだろうが、他のは一部を除いたほぼ全員が勝てない。だから、何も考えずに入れてしまえば現在の上位層が著しく変わってしまい。
最悪内部分裂する可能性は、非常に高いと思われる。というか、ほぼ確実だろう。
ココまで鍛えたのだ、それは些か勿体ない。いや、むしろ将来性を期待するならホブ・ゴブリン達の確保の方こそが必須事項か。
一応強制的に離反させない術は多々あるが、前にも言ったように自主的に動いてくれた方が色々と楽なのだ。
なので、とりあえず、優先順位が低い五十名は体験入団扱いとして、信頼を得るまでの一定の期間は一番下の雑用として扱う事にした。最低位であるゴブリンよりも低い地位、訓練兵のような扱いである。
そうすると、今度は元奴隷部隊員から不満が出た。
当然と言えば当然だが、ごちゃごちゃと語るのは面倒なので工程を省略し結論を出すと、『我等が率いてやる』的な事を言う様になったのである。
そう喚いているのは鬼人の直接戦闘系二名と、半を含む竜人十名。そしてゴリラのように毛深くて筋骨隆々な肉体をした見るからにボス系の猿人一名に、半吸血鬼一名の、総数十四名だ。
虎頭を持つ虎人や、首を小脇に抱えた首なし騎士辺りも言って来るかと思ったのだが、『受けた恩を仇で返すわけにはいかん』そうです。武人気質な性格の様だ。
対応が楽なので、ちょっとだけ優遇しようと思う。訓練兵から二等兵になったぐらいの扱いだけどな。
さて、『我等が率いてやる』的な妄言を吐き出した十四名についてだが、取りあえず立場というモノを教える事にした。
まず、鬼人二名は同時に相手取った。
素のスペックが俺を遥かに超えた二名なので出し惜しみはしない。そして今回は鈍鉄騎士のように、エンチャントを施すなどは一切しなかった。
理由としては、【疾風鬼】と【灼熱鬼】である二名の能力の相性が良いから、というのは実はどうでもいい事で、十四名の中で一番調子に乗っていたからである。
同じ【鬼】系統で俺が二名よりも下の種族だからと言って、一番楽しそうに喚いていたので、ちょっとプライドとか色々なモノを潰しておこうかと。
後で聞いた話だが、俺は不気味に嗤っていたそうだ。
そして結果だが、二名はギリギリ生きている、といったラインで転がっている。
時間としては大体五分くらいだろうか。二分が経過した辺りから鬼珠の力を解放し、疾風鬼はエメラルド色の装甲を持つ風を纏ったロングブーツを、灼熱鬼はルビー色の炎が噴き出すフランベルジュをそれぞれ装備した。
だが、俺もそれに合わせて使っていなかった糸や毒などを使用する事で動きを封じ、最終的には銀腕の能力の一つである【武装殺し】でそれぞれの武装を砕いてやったので、碌なダメージも受ける事なく終了した。
それと今回の事で判明したのが、鬼珠の力を解放して出現させた武装を壊すと、本体である鬼珠に亀裂が入ってしばらくの間能力を使用できなくなる。あと、その反動でしばらくの間は動けなくなる事も判明。時間が経過すればどちらも自然と治るそうなので心配はしていない。
とりあえず早速仕事ができたセイ治くんに治療させる事にした。
ついで、竜人の四名である。
半は自分よりも実力が上な鬼人二名がボロクソになった様を見て、心変わりしてくれたのだ。楽な事である。ちなみに竜人と蜥蜴人の簡単な見分け方は、外見が人間よりか爬虫類よりかどうかである。
なんて事は置いといて。
四名とも正確な種族分類では【雷竜人】だそうだ。
雷を纏い雷速で動ける、訳ではないが雷を発生させられるし、竜人特有の高い身体能力に加え、竜種が扱う【息吹き】の一種である【雷の息吹き】を使えたりと、十分強力な種族であるのには変わりない。
が、全く問題ないので四名同時に相手した。
こちらは鬼人二名よりも容易かった。
理由として、既に【雷電攻撃無効化】を得ていたが故に、攻撃の一切を俺が受け付けなかったからだ。雷の息吹きを撃ち込まれようが、雷槍を撃ち込まれようが、俺はその全てを無効化した。雷は俺の体表に触れるか触れないかの内に、消滅してしまったのである。
【雷】という最大の能力は無効化した。したが、優れた肉体能力が無くなった訳ではない。マトモな戦闘技能があれば俺を殺す可能性はあっただろうが、今までは持って生まれた力を考えもせずに振ってきただけなのだろう。
四名の技術は総じて拙く、数多のアビリティで強化し、竜人の肉体能力そのモノを凌駕した俺の敵ではなかった。
鬼人の“鬼珠”のように、竜人には“竜玉”と呼ばれるモノがあり、同じような能力を有していたが、脆弱すぎて、あまり意味は無かったと追記しておく。
コチラもセイ治くんに、とも思ったが、他の医療部隊員に実戦経験を積ませる為に其方に振った。
さて、今度はボス猿についてだが、コチラは竜人戦が終わり、セイ治くん達に指示し終えたその瞬間を見計らって、普通は死角である背後から奇襲を仕掛けてきた。
それは【直感】などで悟っていたので避けても良かったのだが、奇襲、という事ではこの攻撃はほぼ完璧だったので俺はあえてそれを受ける事にした。気配の殺し方、機の見切り、足さばき、殴る際に用いた身体の効率的な運用法など、それ等の総合的な行為だけで、ボス猿の実力のほどが窺える。
種族的能力では鬼人などよりも劣るのだろうが、劣っているが故に培われたのだろう戦闘技術により、ボス猿はこの入団希望者五十名の中でかなり高い水準を誇っていると思われる。
岩さえ砕くだろう一撃が俺の脇腹に入り、俺の身体は岩壁に向かって飛んで、めり込んだ。
それを見てドラミングをし始めたボス猿。周囲にはその音だけがしばらくの間響いた。何事も無く復活してもいいのだが、奇襲されたので、コチラも奇襲してやろうと悪戯心を発揮し、しばらく様子を見る事にした。
そしてボス猿が『俺が今日からココのボスだ―』と言い始めたくらいで、事も無げに岩壁から抜け出し。そのままボス猿の背後から、全く同じ奇襲を返す。
それを察知できなかったのだろう、無防備だった脇腹に拳がめり込み、骨が砕ける音を響かせながらボス猿は吹っ飛び、俺と同じく岩にめり込んだ。生きているか確認して見ると、ギリギリ生きていた。ふむ、案外頑丈である。
ボス猿の治療は流石に時間が限られていたので、セイ治くんに任せた。
残る半吸血鬼だが、コイツは待ち時間の間ダム美ちゃんを口説こうとしていたので手加減はしなかった。吸血鬼系は総じて生命力が高いからな。よほどの事をしなければ大丈夫だろうし。という事だ。
開始早々【魅了の魔眼】を仕掛けてきたが、同性である事で威力が半減、それにそもそもコイツレベルの魅了では俺に効果は無かった。
【装具具現化】で造ったナイフで四肢を縫い付け、内臓を幾つか破裂する寸前まで殴る程度で終わらせました。
血を飲めば大抵の怪我は治るそうなので、俺の血を飲ましてやる。
俺個人としては分体を体内に入れる、その程度の考えだったのだが、どうやら俺の血は相当美味しいらしい。血を一滴飲んだ瞬間から恍惚とした表情を見せ、赤い瞳が爛々と輝く。
恐らく【秘薬の血潮】とかが関係しているのだろう。
飲んだ血の量はちょこ一杯分程度だったのだが、飲み終えた瞬間『おお、我が愛しの君よ』とか言い出して手の甲にキスしようとしたのには、本気で引いた。反射的に殴り飛ばしたとしても正常な反応だと思う。殴られて喜んでいる風に見えたのは、きっと気のせいだと思っておこう。
気持ちが悪いだけなので、深く関わらない様にしようと今決めた。
そんな訳で、下っ端として働く事になった新入り全員に作り置きしていたカフスを装着させ、恒例の訓練を行う事にした。
皆それなりのレベルはあるので、今までにない位にハードなモノにしてみました。
そして午後、ドワーフ五名は鍛冶師さん達の所で働かせる事にした。
ドワーフは鍛冶の腕に置いて一、二を争う種族だそうだ。腕力があるので兵士として前線でも十分使えるが、俺としてはやはり鍛冶に集中してもらった方が都合がいい。
鍛冶師さん達の方が鍛冶の腕が低いのでドワーフ達に教わるように指示し、最も腕の良いドワーフを鍛冶長に任命する。鍛冶師さん達は職人気質の頑固親父のようなドワーフ達がちょっと苦手そうだったが、それは時間が解決してくれるだろう。
ドワーフがミスラルでどんな作品を造ってくれるのか、今から楽しみである。
午後の訓練だが、まだ文句を垂れる新入りにオガ吉くんが毎日行っている訓練をさせてみる事にした。
戦闘中毒であるオガ吉くんの訓練は、ブラックスケルトン十体を一度に相手取る事から始まる。それをクリアできるまで休憩は一切無く、そしてクリアできたとしても今度は数が十体ずつ増えていく仕様なので、相当厳しいだろう。
とりあえず死なない様に、かつ足腰が立たなくなるまでやるように言っておく。
そしてできた時間を使い、俺は【合成】を使ってみる事にした。
最初からアビリティ同士を合成するのは怖かったので、先日の決戦時に死んだ鬼人と竜人達から分体を使って回収していたオーブとスフィアを、俺の身体と【合成】させてみる事にした。
俺は死体から全てのオーブとスフィアを回収しようと思えばできたが、回収したのは十個だけである。
その理由として、人間軍が被った損害を少しでも軽減する為だ。流石に損害ばかり多くては、引くに引けない状態になる恐れがあった。
オーブとスフィアは非常に高額で取引されるし、強力なマジックアイテムになる。アレだけあれば、被害は多少軽減できるに違いない。今までも死んだら回収されていたそうなので、今更な話しかもしれないが、無いよりある方がいいに決まっている。
まあ、取りあえず俺はエメラルドのような二個のオーブを、自身の両膝と合成した。
結果、成功した。
疾風鬼のオーブであるそれの能力を解放すると、先ほど見たロングブーツの豪華版、のようなモノが発現した。肉体との合成に、大きな問題はなかった。能力も問題なく使用できる。
これ幸いとして、俺は色々な【合成】に勤しんだ。
“八十二日目”
昨日の合成をして判明した事などを述べる。
合成は非常に疲れると言う事だ。体力的にではなく、精神的に。
十個あるオーブとスフィアを全て肉体と合成させた後、無くなっても問題の無いアビリティである【陽光脆弱】と【光ダメージ脆弱】を合成したら、精神的な疲れのせいでコレ以上合成しようという気持ちが湧かなかった。
やろうと思えばできない事もなかったが、集中力を欠いた状態でコレ以上やると何か取り返しのつかない失敗をしそうだったので、できるギリギリのラインで止めた。その為限界突破した後に合成するとどうなるかは不明なままだ。が、これは知らないでいた方がいいと思うので知ろうとは思わない。
ちなみに合成させた結果できたアビリティは、【陽光ダメージ激弱】である。試しに発動させた状態で指先を外の光に晒してみたが、まさか燃えるとは思わなかった。
うん、人体発火は洒落にならん。封印決定だ。
そして合成させた二つのアビリティであるが、消えずに残ってはいる。が、能力を発動させようとしても効果を発揮しなかった。コレで合成に使用したアビリティを再び獲得できない、という事の確認が取れた。
これからは慎重に合成していく必要性がありそうだ。
今日も新入りの訓練をオガ吉くんに任せる事にして。
俺はアス江ちゃん達と共に温泉や訓練所など、住処の更なる快適化に努力する事にした。
幸い休み不要のスケルトン達に加えて六十二名の男の奴隷にバイト達が居るので、一度に幾つもの作業を並行で終わらせる事ができた。
今回の作業で居住区の充実化、簡易ベッドなどの生成、衣服の充実、外部訓練所の整地、住処周囲に外敵の侵入を阻む木製の壁の製作、エルフ達から金を巻き上げる為の温泉施設の充実などである。
エルフ達も以前の俺達同様、水浴びなどしか経験した事が無いそうだし、エルフ達の反応を見る限り、温泉は結構イケると思っている。
今度父親エルフでも呼んで、噂を広めようか、と宣伝について考えていたりする。
本日の合成結果。
【竜鱗精製】+【鎧鱗精製】=【竜鎧鱗精製】
【見切り】+【視野拡張】=【刹那の瞳】
【血流操作】+【山の主の強靭な筋肉】+【腕力強化】+【脚力強化】+【跳躍力強化】=【黒鬼の強靭なる肉体】
【威嚇咆哮】+【鱗馬の嘶き】=【黒鬼の咆哮】
【蛇の魔眼】+【威圧する眼光】=【黒鬼の魔眼】
【下位ダメージ軽減】+【下位魔法ダメージ軽減】=【下位物魔ダメージ軽減】
【再生阻害】+【呪刻の傷】=【治癒せぬ呪刻の傷】
合成は疲れるので、今日はここまでだ。
“八十三日目”
午前訓練時、早速合成アビリティを使用してみる事にした。
手っ取り早く効果を確認する為、俺一人対新入り二十三名で組み手を行う事に。ちなみにこのメンバーを選んだのは、事故があったとしても代えが効く為である。
新入り達の種族と人数は、
鬼人:2体。
半鬼人:5体。
竜人:4体。
半竜人:6体。
巨鬼:1体。
首なし騎士:1体。
猿人:1体。
半吸血鬼:1体。
虎人:2体。
である。
同じ戦場にいた為か、新入り達の連携はそこそこ良かった。とは言え、やはり技術の拙さが目立つ。動きに速さはあるが、単調で無駄が多過ぎるし、何より全体の流れが読み易かった。それでもノーダメージとはいかなかったが、回復系アビリティの使用で即座に回復できる程度のモノだった。
昼飯まで、休むことなく組み手をしました。かなり良い訓練になった。
ただ、五つのアビリティを掛け合わせてできた【黒鬼の強靭なる肉体】は取り扱いが面倒だと言う事が判明した。単純に強過ぎるたのだ。訓練に使うには、余りにも危険過ぎたのである。
まさか、最もタフで防御力の高かった巨鬼が一撃で沈むとは思ってもいなかった。
そして午後、今日も住処の改善作業を行った。
温泉の準備も着々と進んでいる。エルフと人間の戦争も徐々に終結に向かっているそうなので、終わったら今度は人間の奴隷達を使った作戦に移行する予定である。
“八十四日目”
朝、俺は俺を呼ぶ声に反応して起きた。
生まれたままの姿でベッドから起き上がり、皆が眠る部屋の外に出ると、そこにはミスラルと精霊石と鋼鉄などを混ぜ合わせて精製された、精巧な細工を施されていながら十分実戦で使えるだろう一本のウォーハンマーを掲げた、ドワーフ達が居た。
そして、ドワーフ長からウォーハンマーを渡される。
え、何これ。と小首を傾げながら聞いてみると、ドワーフは感謝や友好の印として、自作のウォーハンマーを贈る風習があるそうだ。そして贈るウォーハンマーの質が良ければ良いほど、より良い思いが込められているとの事。
なるほどと頷き、俺が扱うのは基本的に長物なのだがと思いつつ、結構な業物っぽいので有り難く貰っておく事にした。
それにしても、会話はできるがドワーフなど言語系アビリティの無い種族相手だと、理解できない方言が所々あってちょっと面倒だ。
本日は午前訓練の後、単身で森の中を放浪中。
既に敵となる存在が居ない森は、何故か俺の心に寂しさを感じさせた。
生まれた頃は常に周囲に気を配らなくてはならなかったのに、現在では気配を隠さなければ俺の周囲からは生物が逃げてしまうようになった。そんなに月日が経過した訳でもないのに、あの危険に満ちていた日々が懐かしく、俺は黄昏る。
そして歩く事数十分。以前出逢ったドライアドさんの所に到着した。分体を使って以前から会話をしていたのだが、今日は用事があったので、直接来たのである。
相変わらずドライアドさんは美人だった。早速魅力全開で誘われたが、一先ず用事を済ませ、その後は二人だけの時間を過ごしました。
その後、ドライアドさんから色々と教えてもらった素材を回収しながら住処に戻り、夜は夜で色々と燃えた。
人間の中にはお腹が膨れはじめた者もいるので、さて、誰の子が一番最初に生まれるのだろうか。
楽しみである。
“八十五日目”
食糧自給率を上げるため、畑を造る事にした。
種はドライアドさんが魔法で作ってくれたモノや、森から回収したモノを使用する。ドライアドさん製の種は自然物よりも色々高性能らしいのだが、それに加えて俺は精霊石などを用いて成長力とか、効能とか、美味さとかのさらなる向上を図ってみる事にした。
という訳で、今日の訓練は簡単な基礎だけとし、皆で住処の整地やらの為に動きました。
畑関係は赤髪ショートや元補給部隊員の一部に農業関係の【職業】持ちが居たので、その指示にしたがって動くようにした。
今日は良い汗を流した。
健全な労働も、悪くは無い。
本日の合成結果。
【鱗鎧駆動】+【竜鎧鱗精製】=【堅牢なる竜鱗鎧】
【斬撃力強化】+【貫通力強化】=【斬貫強化】
【高速思考】+【並列思考】=【並速思考】
“八十六日目”
朝、目的地がココからあまり遠くない為、十分な旅費が貯まった帰郷組の一部が旅立った。
既に情報の漏洩を防ぐための対策はしているし、一応口止めしているから、彼・彼女らが無事に暮らせるかどうかは、個人の誠意の問題だ。
そしてそれを見送った後、男の奴隷の中から貴族である三十六名を選出し、それぞれの家に帰す事にした。別に良心とかで帰してやる訳ではない。平原まで引き返していた人間軍が本格的に撤収するらしく、この機会に乗じ、分体とダム美ちゃんの【魅了の魔眼】で洗脳済みである彼等を帰す事により、帝国と王国内部の情報を収集する為の“草”、つまり潜入工作員として運用する為である。
俺は別に両国と敵対したい訳ではないが、何せ俺はこの世界についての知識が乏しく、他者との繋がりも限定的だ。既に進行している本命が失敗した時の為にも、使える手段はできる限りやっておくほうが、無難だろう。
朝のそんなイベントを終え、普段通り午前訓練を行い。
昼になって人間軍が完全に撤退し、草が無事合流できたのを確認した後、父親エルフと通信機で連絡を取り合う。
契約の終了や報酬などについて最終的な確認をし終え、雑談をした後、今夜エルフの里で開かれるという【想魂の宴】に参加する事になった。
【想魂の宴】はエルフ族が行う、死者が家族や友、恋人などの事が心残りとなって現世に留まりゴーストなどのアンデッドにならないよう、皆で送り出す為の、ある種の儀式である。
そして夕方、新入り達と分体に留守を任せ、俺達は差し入れ品を持ってエルフの里に向かった。
今回、十三名に減ったエルフ達を連れて来ている。知り合いの追悼に参加させてやらない程、酷くは無いつもりだ。外見は【隠蔽】を使って変化させているので、正体を看破させる心配が少ないからでもあるが。
エルフの里に到着すると、宴は既に始まっていた。
会場に入る前から注がれていた様々な感情が混合した視線を無視し、出迎えてくれた父親エルフに狩ってきたバイコーン数頭分の肉を渡す。
そのついでに、俺の傍らに居て興味深そうに周囲を見回していた赤髪ショート達の安全を保証してもらった。人間を連れてくるのはどうだろ、とは思っていたが、本人たちの強い希望により、連れてきたのである。
流石に鈍鉄騎士と女騎士は置いてきたがな。
挨拶を済ませると、皆に交流でもして来いと言って解散させた。とは言え、本当にエルフ達と会話しようとしたのは極一部で、一ヶ所に集まって料理を摘まむ程度だった。
俺は俺で、娘エルフさんがエルフ酒を注いでくれたので、気分が良かったです。
そして宴の最後には、会場の中心に設置された巨大なかがり火の周囲を白い球のようなモノが無数に飛び交い、天に昇っていくという光景が発生した。
父親エルフによると、これで現世に留まっていた死者の魂が天に還ったのだという。ホブ・ゴブリンシャーマンも、霊が居なくなったと言っているので本当なのだろう。
俺はしばらくの間、再び黙祷を捧げるのであった。
“八十七日目”
アス江ちゃんが中心となっていた採掘作業だが、二つの巨大な精霊石の採掘と共に、終了を迎えた。
精霊石が枯渇してしまったのである。元々、ここでこんなにも様々な種類の精霊石を大量に採れたのは、精霊に好かれていた(らしい)ベルベッドのダンジョンがあったからこそだ。そしてベルベット亡き後はダンジョンの管理者であるリターナが生存していたので精霊達も集まって、その余波として様々な種類の精霊石が発生していた。
が、リターナは既に逝ってしまっている。
その為、精霊がダンジョンに立ち寄る理由が消失し、既にある精霊石を採りつくしてしまえばもう精霊石は精製されないのだから、当然そこで終わりである。
ただ、俺達は既に十分過ぎる程の量を確保しているので、あまり欲を出し過ぎるのは止めておこう。
俺達がベルベッドの恩恵によって得た利益は凄まじいモノであり、感謝の念と共に、二つの巨大な精霊石に祈りを捧げた。
その後、もちろん精霊石を喰った。今まで喰った事の無かった精霊石だったからだ。
【能力名【光子操作能力】のラーニング完了】
【能力名【極光耐性】のラーニング完了】
【能力名【重力操作能力】のラーニング完了】
【能力名【暗黒耐性】のラーニング完了】
喰った二つの精霊石――光精石と闇精石は、純度と大きさと美しさ、あらゆる点に置いて今まで採掘して得た精霊石を凌ぐ、最高品質のモノだった。闇精石を喰って重力操作とは些か首を傾げるが、ブラックホールなどを思えば、あながち間違いでもないだろう。それに【闇】という漠然としたモノより、【重力】と言われた方が扱いやすいので文句は無い。応用も効くしな。
午前訓練の後、住処の改築の進行具合の視察を行う。
その後俺は外に出る準備を進める事にした。赤髪ショート達とは街に連れていくと約束していたので、俺の所に残るかどうかはさて置き、馬車などの乗り物の確保は必須である。
別にペットを使ってもいいのだろうが、折角休み無用の手駒があるのだ。それを使う。
まず、【下位アンデット生成】でブラックスケルトンを量産。
→その骨を掻き集め、その骨と【骨結合】を使って乗り物の製作開始。
→完成したそれの外見だが、背中に荷台のようなモノを乗せた骨のムカデである。
→そして大量に生まれている分体を使って全体をコーティングしていく。
→完成だ。
完成した時には、既に夜になっていた。
晩飯を喰った後、赤髪ショートと鍛冶師さんと姉妹さんと錬金術師さんを呼んで三日後にココを出発する事に対しての打ち合わせをする事に。
追い出すの? と聞かれたが、外に出るのは最初の約束を守る為であり、また仕事の宣伝とかの為であると説明。俺についてくるかどうかは、またその時に決めればいいと伝える。
今日は夜遅くまで話し合いである。
“八十八日目”
客人用の温泉が完成した。洞窟の内装が一段落した。
そして帰郷組は今日全員出立した。
一気に数が減ったが、元に戻ったと思えば大した問題ではない。
外に行く為に自前の保存食を造るとか、訓練とか、様々な雑務をこなす。
うむ、今日はイベントはあまりない平和な一日だった。
“八十九日目”
明日、俺達は五つのグループを造って外に出る事になっている。
理由としては経験を積むとか、情報の収集などが多々ある。しかし最大の理由として、この森では経験値取得効率が悪くなったからだ。
無論居残り組は居るので、住処が他種族に乗っ取られるなどの心配をする必要性は無い。
グループはどれも十人ピッタリで、ペットは含まれていないのでペット持ちの数によっては数が微妙に違うとは言っておく。
そしてそれぞれのメンバーは以下の通りだ。
第一グループは、俺、ダム美ちゃん、赤髪ショート達五名、鬼人三名。
第二グループは、オガ吉くん、アス江ちゃん、ホブ・ゴブリンクレリック一名、人間三名、足軽コボルド四名。
第三グループは、ブラ里さん、スペ星さん、エルフ三名、人間一名、ホブ・ゴブリン三名、ホブ・ゴブリンクレリック一名。
第四グループは、オーガが二名、ホブ・ゴブリンメイジが1名に、虎人が二名、竜人が二名、人間三名。
第五グループは、ドド芽ちゃん、オーガ五名、人間二名、下忍コボルド一名、ケンタウロス一名。
人間がどのグループにも入っているのは、無駄な衝突の回避要員としてや雑用の為である。あと、新入りを何名か入れているのは、大した理由は無い。しいて言うのならば、気紛れだ。
しかし指名した本人たちは正式な入団試験である、などと勝手に勘違いしているようだが、真面目に取り組みそうなので敢えて訂正はしなかった。
セイ治くんやグル腐ちゃん、鈍鉄騎士や女騎士などは居残り組なので、手早く仕事を取り付けて外に連れ出そうかと思っている。
まあ、その前に新しい世代が生まれるかもしれないが。
さて、それは置いといて。出立前日である今日、俺は父親エルフ一行を温泉に招待した。
客人用の温泉は洞窟内部にはなく、少々離れた場所にある。防衛の観点に加え、外からも入り易くする為だ。
父親エルフ達の反応だが、上々だった。気持ち良さそうにしていたので、宣伝を頼んでおく。
無論ルールとか、料金制であるとかの説明も添え、軽く料理を振舞ってみる。姉妹さん達のお陰で、ゴブリンコックとも言えるゴブリンが居るので、結構美味い、と思う一品だ。
一行は満足げに笑っていたし、エルフ酒を樽でもってきてくれたので、そのまま宴会となった。幸い外部演習場があるので、キャンプファイヤーを囲んで好き勝手に踊ったり――音楽は無論俺が担当した――と、盛り上がりを見せた。
新入り達も日が経つにつれて少しずつではあるが、馴染んできているようで、メンバーに混じって一緒に踊っている姿も見受けられる。良い傾向だ。
俺はその光景を見ながら、父親エルフと杯を交える。
いや、飲み友っていいよな。
“九十日目”
遂に出立の日である。
加工済みのブラックスケルトン達はストックも含めて多数いるので防衛面の問題はないし、俺が不在の間にも色々と改築作業は進めていく予定だ。
エルフ達からは温泉などで親睦を深めると同時に利益を得る予定である。まあ、温泉運営は退屈しのぎというか趣味の部分は多いのだが、十分だろう。
住処の細かい事は置いとくとして。既に準備は万全である。
俺達は今日初めて、森の外に本格的に進出する。
森を抜けた先にある風吹く草原が、俺達を迎えた。
未知なる外界に思いを馳せて。
目指すは、取りあえず防衛都市≪トリエント≫なり。
第一章 生誕の森 黒き獣編 終了。
閑話の後、
第二章 傾国の宴 腹黒王女編 に続く。
【一章終了時の戦力一覧】
正式と仮も表示。
【鬼系種族】 正式メンバー
半鬼人種:【4】
オーガ:【7】
オーガ・メイジ:【2】
ダムピール:【1】
グール:【1】
ドドメキ:【1】
ホブ・ゴブリン:【10】
ホブ・ゴブリンメイジ:【3】
ホブ・ゴブリンクレリック:【3】
ホブ・ゴブリンシャーマン:【1】
ゴブリン:【10】
年寄り:【8】
【鬼系種族】 元奴隷部隊メンバー
鬼人種:【3】仮
半鬼人:【5】仮
ダムピール:【1】仮
オーガ:【10】仮
トロル:【1】仮
レッドキャップ:【3】仮
【人間】
人間:女【7】、男【1】正式。
捕虜人間:【90】正式
【コボルド種】
武士コボルド:【1】正式
足軽コボルド:【11】正式
下忍コボルド:【1】正式
コボルド:【14】正式
老人コボルド:【3】正式
【竜系統種】
竜人種:【4】仮
半竜人種:【6】仮
リザードマン:【5】仮
【亜人系種・妖精】
ドワーフ:【5】仮
エルフ:【13】正式
【アンデッド系種】
デュラハン:【1】仮
【亜人系種・獣】
猿人:【3】仮
ワータイガー:【2】仮
ケンタウロス:【1】仮
【ペット・使い魔】
トリプルホーンホース:【5】正式
ハインドベアー:【2】正式
鬼熊:【1】正式
オルトロス:【1】正式
ブラックウルフ:【28】正式
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