“六十一日目”
今日は非常に色々な事が起こったので全てを語るのは面倒だ。なので無駄はできるだけ省き、順を追って語ろうと思う。
まず、ホブ・ゴブリンが八ゴブ増えた。しかもその内メイジ適正を持つのが二ゴブに、クレリックになったのは一ゴブもいた。
クレリックになったのは既にクレリックと成っていたゴブ治くんと親しかった個体で、恐らくそれに引っ張られたのだろう。思惑通りクレリックが増えてニヤリと黒く微笑んでみる。
次はゴブ美ちゃんについて。
ゴブ美ちゃんは今日目が覚めると【半吸血鬼・亜種】と呼ばれる種族になっていた。
その姿の変わりようは、ゴブリンからホブ・ゴブリンになった時の比では無い。というか、比べるまでもない。
百八十センチ以上はあるだろう身長、丁度掌からやや零れる大きさの胸に括れた腰と凹凸のハッキリとした魅力的な体型、エルフよりも儚く作り物めいたまるで月のような美貌、白銀に煌めく腰まで伸びた髪にきめ細かい肌、赤い瞳に黄金の瞳孔などが特徴的な姿だ。
しかも本人によると【氷原の神の加護】を獲得したらしく、何も無い場所から大したリスクも無く大量の氷を発生・操作できるようになっていた。【亜神】よりも一つ上の存在である【神】の加護は、ゴブ吉くんのように【亜神】ニ柱の加護持ちよりさらに珍しく強力だ、とは普段通りゴブ爺談。
それにその華奢な見た目からは想像し難い程ある膂力や俊敏性といった肉体面のステータスも、全て以前とは段違いだ。恐らく、素の状態では俺以上になったゴブ吉くんといい勝負だろう。
あと昼間でも【神の加護】持ちな【亜種】であるが故に、日光に弱いという【吸血鬼】系種族を含んだアンデッド族の特性は打ち消されているので弱点ではない。
これまで通り、昼間でも何の制約も無しに外に出る事ができた。
つまり無駄な情報を省いて要約するとだ、ゴブ美ちゃんはすっごい美人になりました。
それだけ理解できれば問題無しだろう。
ただ個人的に気になるのがその容姿で、俺は以前何処かで見たような、いやよく知っている人物を数歳ほど大人にしたような顔のような気がするのだが……。
それが誰だったのかは記憶に靄のようなモノがかかって思い浮かばないので一先ずこの話は置いとくとして、今日一日で変化した事柄をどんどん述べていこう。
今日は本当に多くの事があり過ぎて大変だ。
今度はゴブ江ちゃんについて。
ゴブ江ちゃんが成った種族は【半地雷鬼】と呼ばれる【鬼人】系種族の一つだ。ちなみに亜種では無く、ノーマルだ。
二百四十センチ以上と俺に迫る長身で、筋肉質で骨太なガッチリとした体躯、やや尖った黄色い短髪、側頭部から生えて斜め上に向かって湾曲しながら伸びる二十センチほどの双角、柘榴石のような双眸、やや黒みがある土色の頑丈そうだが女性特有の柔らかさのある肌、西瓜のような大きさだが形の良い胸部、筋肉の形が見て分かる腹部、そして両肘に埋め込まれている直径五センチほどはある二つの黄色い宝珠――ホブ星さんの額にもあったのと同じようなモノで、【鬼人】系種には必ず身体の何処かに埋まっている“鬼珠”と呼ばれるモノだそうな。鬼人系種の本当の能力はこの“鬼珠”によって発揮される、らしい――が特徴的な姿になっている。
種族の能力は主に地形操作関係のモノで固まっているのだが、その中でも特に採掘に関する能力――岩盤の脆いポイントを見抜く【地質看破】などだけでなく、ザクザクと岩盤を掘削して多くの鉱石を採掘するためにだろう、肉体面を強化するモノも多くある――に特化しているようだ。
試しに壁を掘ってもらったが、素手だったと言うのにまるでドリルのように掘り進んだのには流石にちょっと引いた。ピッケル装備な時よりもサクサク掘るとか、流石にどうかと思う。
とは言え、ザクザクと精霊石やその他の鉱石をこれまでにないほどに採掘できたので文句などあるはずもない。
あと若干だが雷光系魔術も操れるそうで、採掘時には鉱石探知などに活用しているのだとか。多様な金属を確保できたのもコレがあったからこそなのだろう。
採掘技能を伸ばしていたゴブ江ちゃんらしいというか、何と言うか。一度嵌った事に向かって突き進むとやがては色々と凄い事が起きるモノなのだ、としておこう。
それに戦闘能力は馬鹿にできないとだけは言っておく。素手で岩を容易く砕けるゴブ江ちゃんの一撃を、柔い生物がもらえばどうなるかなど想像するのは容易い。
岩盤よりも柔い肉の身体など、ミートペーストの様になるに決まってる。
怖いもんだ。
次はホブ里さんについて。
ホブ里さんは以前からソード系武器の扱いが上手かったからか、【鬼人】系種族の一つである【半血剣鬼】になった。こちらもゴブ江ちゃんと同じく亜種では無くノーマルだ。
二メートル程度の身長、筋肉の形がハッキリと分かるが細く女性特有の柔らかさを残した体、少々慎ましい胸、額の中心から伸びる十五センチ程のルビーのような一本角、紅玉髄のような瞳、やや赤みを帯びた肌、血の色のような赤いロングヘアーは紐で縛られてポニーテールになっており、両手の甲にそれぞれ一つ埋まっている直径五センチ程度な紅色の“鬼珠”が特徴的な姿になっている。
新しく加わった能力に魔術は含まれていないそうだが、以前と比べると肉体面が、つまりは直接戦闘能力が飛躍的に上昇していた。どうも【血剣鬼】系種は接近戦に秀でた種族のようだ。
それに“血剣”と種族名にあるように、自他の血液を条件はあるが操れる異能を持っているそうなので、魔術が使えなくても相当強い。
直接戦闘能力だけで言えば俺とゴブ吉くんに次いで三番目か四番目、確実に言えば五番目以内には入るだろう。
身体面では種族的にゴブ吉くんやゴブ美ちゃんにやや負けてはいるようだが、接近戦では役に立つ【見切り】やら【先読み】やら【直感】やらがあるのでいい勝負になると予測している。
それにしても不思議な事なのだが、全員ホブ星さんと同じように、身体の一部に必ず俺と同じようだが微妙に違う黒い刺青が刻まれていた。
ゴブ美ちゃんは背中に、ゴブ江ちゃんとホブ里さんは腕に、ホブ・ゴブリン達は首だったり腕だったり足だったりと。
まあ、そこから何だか力が沸く感じがするそうなので問題はないそうな。
コレについての解明は今後に期待という事で。
ランクアップしたお祝いとして、ホブ・ゴブリンにはそれぞれ二つのマジックアイテムを渡す。
ゴブ美ちゃんには蒼と白の魔鋼糸に黒い魔骸布などで造られたドレスタイプのマジックアイテムと、種族的特徴として獲得した【魅了の魔眼】をむやみやたらに使用しない為に“魔眼封じの眼鏡”を渡し、最後に氷結晶で造られた刀身を持つ芸術品のようなクレイモア型の魔剣【月光の雫】をプレゼント。
ゴブ江ちゃんにはその大きな体躯に適した大きさと種族的能力に見合った能力を有する【大地母神の戦鎚】に、巨大な【大地母神の円匙】をセットで渡し。大きさのあった服が無くなったそうなので灰色のツナギ型マジックアイテムを着替え分も含めて三つと、本人が汗を拭く何かが欲しいと言ったので、俺の糸を編んで更にエンチャントを施したタオルモドキを贈った。
ホブ里さんには対物理・対魔力を有する赤鉄製のフルプレートアーマーと赤いマント型のマジックアイテムをセットで渡し、それに加えて、鬼珠を解放すれば実剣はあまり必要ないそうだが一応保険って事で吸血能力を持つ深紅のロングソード型の魔剣【鮮血皇女】をプレゼントした。
ちなみにホブ・ゴブリン以上の種族になった三名にはゴブ吉くんとホブ星さんにも渡している腕輪型の収納能力があるマジックアイテムをデフォで支給しています。
しかし、うむ。
どこぞの貴族令嬢のようになったゴブ美ちゃんに、ツナギの前側のチャックを閉じることなく解放して、一応胸には灰色の胸帯――サラシのようなモノだ――を巻いて隠しているが臍とか鎖骨とか剥き出しな状態で俺製のタオルを首に巻いているという現場の親方的な格好になっているゴブ江ちゃんに、全身赤に染まった鋼鉄の騎士なホブ里さんという構図は、色々と凄いな。
それにしても。
ココまでランクアップしてもまだゴブ朗とかゴブ吉くんとか、以前のままの名前を使い続けるのも違和感を感じてきた。
だってゴブリンじゃ既に無いし。
そんな訳でゴブ爺に相談してみたら、こうなった。
俺ことゴブ朗→オガ朗
ゴブ吉くん→オガ吉くん
ゴブ美ちゃん→ダム美ちゃん
ゴブ江ちゃん→アス江ちゃん
ホブ星さん→スぺ星さん
ホブ里さん→ブラ里さん
ゴブ治くん→ホブ治くん
ゴブ浮ちゃん→ホブ浮ちゃん
etc.
ランクアップした個体はそれぞれ新しい名を授かりました。
うん、センス云々についてはゴブ爺に期待してなかったが、コレは酷い。
まあ、個人が分かればいいんだし、そもそも名前なんて奴は本人が決めれる事でもないんで諦めた。
あと、聞かれるだろうから先にここで言っておく。
簡単にだが身内の種族を例として、その種族の平均的な強さで順列を造ると、こうなる。
半吸血鬼≧半魔導鬼=半地雷鬼=半血剣鬼≧大鬼≧エルフ>足軽コボルド>コボルド=中鬼=人間>小鬼。
これはあくまでも種族の平均から割り出したモノで、武装や技量を含んだものではない。
オーガは肉体面では半鬼人達よりも基本的に勝っているのだが、如何せん知能が普通は低いので戦法が単純になり、そのためやや劣るのだ。
個人別はまたの機会にという事で。
さて、今度は犬達やエルフ達について。
昨日配下に加わったコボルド達だが、喰わない事に決定した。
いや、今喰ってもアビリティ的にも肉体強化的にも全然美味しくないし、それに忠誠心も裏が無く本物の様だ。あとコボルド種がどんな風にランクアップするのか気になる、等々色々と理由はあるが、自分の意思で自由に動かせる手駒が増えるのは今後を考えればプラスになるだろうってのが一番大きい。
エルフと人間の戦争には、恐らく、というかほぼ間違いなく父親エルフから依頼があるだろう。今はまだないが、そろそろ使者がくるに違いない。
そしてお願いをされると、俺はその依頼を承諾するつもりだ。
大規模な戦乱はそれだけで新しいアビリティの確保と自己強化に繋がるし、この世界の戦力や戦術や戦闘方法などについても多少は知る事ができる。
それに父親エルフとの繋がりを太くすると、あのエルフ酒が手に入りやすくなるってのは大きい。
あの酒は、本当に美味かったなぁ。
ってなわけで、戦争に参加するとなると人間を嵌めるトラップやら陣地構築やら奇襲やらで使える手駒の数が多い方が戦略の幅を広げれる訳で。
そういった理由から殺さずに配下に加えた訳だが、繰り返すが言う事全てをそのまま信じる訳ではない。俺が全幅の信頼を寄せるのは群れの中でも少ないのだ、なのにぽっと出のコボルドを信頼できるわけが無い。
だから保険として、以前配給したカフス型通信機と同じ三つの能力をエンチャントし、それに【隷属化】の能力を新しく付加させた改良版カフスをコボルド達全員に配給、着用させる。
これで、コボルド達は俺に逆らえなくなったので当面の問題は解消された。例えその忠誠心が途切れたとしても、なんら問題なくコボルド達を使役できるようになった。
そして今回のついでとして、現在の性処理兼繁殖要員であるエルフ達にもカフスを配給していく事に。ただしコッチは更に【隠蔽】を付加した優れモノだ。
【隷属】で身も心も俺の配下に下ってもらい、【隠蔽】で他のエルフとの無用な衝突を避ける事が目的である。
しかしどうもエルフ達は耳に装飾を着けたり穴を開けたりするのは重大な禁忌――そんな事をすると、氏族からその名を永遠に除名・領内退去等の重い罰を科せられるそうだ。その為この世界に出回るエルフ種の奴隷はその特徴的な長い耳を半分程で切られるそうだ――だという文化というか風習があるらしく、耳と一体化するカフスを装着するのは最後の抵抗とばかりに拒否する者が殆どだった。
そんなの関係なしに装着させてもよかったのだが、それでは『無理やりだったんだ、仕方なかったんだ』とか本心を隠して言い訳しそうだったので、最後に残ったプライドはべリッと剥ぎ取る事に。
そんな訳で。
男はアス江ちゃんとの関係について以前から密かに相談してきていたオガ吉くんに、本番前の練習がてらやってみーって事で担当――壊れない様に手加減する様には流石に言い含めている――させたり、地位が低過ぎて殆ど機会が無かったゴブリン達に褒美として任せる。男とは言え、エルフは美男子だからな。十分いける。何がとは言わないが。
女エルフは上位のホブ・ゴブリン達が担当して肉体に時間をかけて聞いてみると、最後には自分からお願いしてきました。
生物は素直に生きるのが良いと思うんだ。
その後、今までは逃亡するのを防ぐためにそこそこ大きな牢に入れていたエルフ達全員を外――とは言え洞窟内なのは変わりないが――に出してやり、コボルド達と一緒に俺が担当として執り行う訓練に参加させた。
折角の精鋭エルフなのだ、ただ性処理兼繁殖要員としてだけ費やすのは非常に勿体ないと言えるだろう。それにエルフは種族的に孕み難いようなので、優秀な個体は産めても人間の女を相手にした時より数が少ないと思われる。
そんな訳で、カフスによって反乱される心配はなくなったのだから、今後は性処理兼繁殖要員としてよりも戦闘面で働いてもらった方が効率が良い。人間の女は敵を捕獲すればいいだろうし。
久しぶりに牢から出られたエルフ達は、解放感に満ちた表情を見せている者が多かった。目的の一つでもあった気分転換は、どうやら成功したようだ。
今回の訓練だが、素早く隊列を組ませたり一定時間ずっと走らせたりと、今までにもオガ吉くん達にやらせていた基本的なモノである。コボルド達は兎も角、エルフ達は精鋭が揃っているので基礎をすっ飛ばしてもよかったのだが、最初だったので基礎を行った。
知っているのと知らないのでは、当然知っておいた方が問題が少ないしな。
訓練は疲労で立てなくなるまで続けられました。
そして休憩の後、性格的にも身体能力的にもあまり戦闘に関して適正がないと判断したコボルド達を選び、後方支援部隊の仕事を覚えさせるために監督役なゴブリンを付けて散らばらせる。
残った戦闘要員なコボルド――子供コボルド含む――達とエルフ達には実戦形式の組み手をやらせた。
ただし、相手は俺でもオガ吉くんでも無い。もちろん他のホブ・ゴブリンでもゴブリンでもないし、コボルドやエルフ同士でもない。
この訓練は、とある実験も兼ねていたからだ。
エルフとコボルド達を相手取るのは、【下位アンデッド生成】によって生み出されたスケルトン達である。
スケルトンは俺がほぼ無制限に生成できるのでリスクは無いし、倒せば経験値稼ぎにもなる。その上使う度に俺は経験を積んでアビリティレベルを上げられるし、倒した後に残る骨は錬金術や鍛冶など色々な材料に転用できるってな具合に、一石三鳥だからだ。
昼間だが洞窟なのでやや薄暗い大広間にてアビリティを発動させ、一体のアンデッド種を生み出す。ズブズブと地面から出現するのは黒い影。
俺はそこから白骨体が出てくる様を幻視した。
しかし、この時に予想外な事が起きた。
俺としては普通に骸骨兵士が生まれるとばかり思っていたのだが、しかし生成できたのは半曲刀タイプのサーベルと紅蓮に輝く逆三凧盾を携え、やや刺々しいデザインをした漆黒の全身鎧とマントを装備した二メートル程の背丈がある黒い骸骨だったのだ。
白骨ではなく、黒い骨だ。黒い骨の騎士様。
どう見たって、昨日のスケルトン達よりも上位種だ。グレータースケルトンと同程度かそれ以上の能力はあるだろう。
スケルトン系は個体の能力によって身に纏う“魂魄具”――【上位装具具現化】や【装具具現化】といったアビリティによって発現する武器の事で、装着者を倒したり武具を奪った瞬間には霧のように消失してしまうので本人以外には扱えない――の質が変化する。
それも身体を包む範囲が増えれば増えるほど魂魄具の質が上がっていくので、ほぼ全身を包んだ黒いスケルトンは、今まで見たスケルトン系で一番強いはずだ。
しばしの調査。
それによると、どうも【下位アンデッド生成】は自分よりも下のアンデッドなら生み出せるアビリティのようだ。アビリティの扱いは喰った時に大体分かるが、今回のように自分で思っていたのと微妙に違う時があるので、やはり実際に使うのが一番だなと再確認。
そんな訳で、黒いスケルトンは“ブラックスケルトン・ナイト”と率直に命名。
予定通りにミスラル製のショートソードとラウンドシールド装備なエルフ達と戦わせてみたが、結果はブラックスケルトン・ナイトの勝利で終わった。
戦わせて初めて分かったのだがブラックスケルトン・ナイトは熟練の騎士程度の技量を持ち、サーベルが繰り出す怒涛の斬撃とカイトシールドの堅牢な防御は中々に手堅く、見事な動きだったという他ない。
それに疲労や斬撃などに対しての耐性アビリティを持つブラックスケルトン・ナイトは持久戦に適しているので、技量的にはそこまで大きな差が無かったエルフでも、最終的には体力の差で負けてしまったのである。
うん、こいつは使えるな。
ただ、ブラックスケルトン・ナイトでは数がこなせなくて大した経験値――手加減させて倒させてみたが、それだと取得経験値が普通に倒した時よりも大幅に減っていた。何故だか分からないが、そうなっていたのだからそうなのだろう――が入らないのをどうにかしなければ。
この日は夜になっても【下位アンデッド生成】についての実験を繰り返した。
“六十二日目”
【下位アンデッド生成】を用い、昨日は再び全体のレベル上げに勤しんでいた。
それで判明したのだが、生成できるモンスターは俺の意思で変える事は可能だという事だ。ブラックスケルトン・ナイトの派生であるアックスやらランサーやらアーチャーやらメイジやらを生成できたし、手を抜けば普通の白いスケルトン種も生成できた。
それに動く腐乱死体である“ゾンビ”や、弱々しい霊魂の塊である“ゴースト”など他のアンデッド種も生成可能である。
ゴーストを喰ってみようとも思ったのだが、非実体系モンスターだったので流石の俺でも喰えなかった。この世界では特定の条件を満たすとゴーストを喰えるようになるらしいので、持っている奴がいたらぜひその肉を喰わせてもらおうと心に決めて。
話を戻すが、経験値稼ぎには主にゾンビと普通のスケルトン達を生成し、それを倒させる事で済ませた。
他よりも強いブラックスケルトン系な個体はオガ吉くんやダム美ちゃん達の相手役を務めさせたり、それぞれコボルドやエルフ達の訓練の指導役として使ってみた。
カタカタと音をたてるだけで会話はできなかったが、身振り手振りで大体の意思疎通は可能だったからだ。
実力強化は、怖い位に順調である。
ただ、アンデッドの事で問題が全く無かった訳ではない。
アンデッド種に備わっている【陽光脆弱】などが面倒な枷になっているという事が判明したのだ。アンデッド種の一つであるダムピールなダム美ちゃんは【神の加護】持ちの【亜種】だったからこそ問題ないのであって、他はそうはいかなかった。
ブラックスケルトン・ナイトクラスのアンデッドだったら十分程は陽光の下でも全身から煙を上げながらも何とか耐えられたのだが、その総合的な強さは本来のモノと比べるまでもなく激減していた。
コボルド達ですら何とか倒せるほどまで弱体化していたと言えば想像し易いだろうか。
ブラックスケルトン・ナイトクラスのスケルトン種でもそうなのだから、ゾンビやゴーストなどより低位なアンデッド達では数十秒と持たずに浄化されてしまう。
ゾンビだと陽光で浄化されても腐乱死体だけがそこに残るので敵地で疫病を流行らせたり、穴を物量で埋めて足場にしたり、腐肉好きなホブ浮ちゃんの為にリサイクルできるのだが、何も残す事の無いゴーストとかだと太陽のある時には全く使えない。
他にも聖水やら聖光など特定の方法で比較的簡単に浄化されてしまうのはとても痛い。
昼間でも戦える戦力として考えていたので、やや計算が狂ってしまった。
どうすればそれを克服できるのか、と悩みつつ一旦その考えは放置して。今日もエルフとコボルド達の訓練をミッチリと。
エルフは元々精鋭揃いだったのでブラックスケルトン・ナイトやアックス達と一対一で戦わせていれば自然と技術が磨かれて強くなるので指導は楽だった。
そんな訳で、主にコボルド達の指導に熱が入る。
コボルド達は種族的にホブ・ゴブリン達と同等かそれ以上の身体能力があるが、なにぶん現在の構成は
鬼人種:メス3
オーガ:オス2
ダムピール:メス1
ホブ・ゴブリン:オス6、メス4
ホブ・ゴブリンメイジ:オス3、メス2
ホブ・ゴブリンクレリック:オス1、メス1
ゴブリン:オス14、メス16
年寄りゴブリン:オス4、メス4
エルフ:男:10、女:7
人間:女5
足軽コボルド:オス1
コボルド:オス18、メス10、子供4、老人3
総数119体
これにペットを含めて考えると
トリプルホーンホース:5
ハインドベアー:3
ブラックウルフリーダー:1
ブラックウルフ:8
なので総数136体、という大所帯になっている。
住処はこの多さでも元々巨大な採掘場だった事に加えて拡張工事が進んでいるので問題ないが、このままの強さでは食糧や武装面などで大きな差がある。
弱いままだと部隊内の立場も弱いままなのでパシリにされる事が殆どで、食事――食料は皆が狩った獲物を持ちかえらせたモノが主に使用される。果物や山菜なども大量にあるので、姉妹さんや料理担当のゴブリン達が作る料理は美味く、栄養バランスも悪くない――の量が他よりも少なくなる。
いや、最低限は喰えるのだ。
だが、激しい運動の後は腹一杯食いたくなるのが生物な訳で、地位が低いままだと腹半分ほどで喰う事ができなくなる。コレが地味にキツイのだ。
それに一番大きいのは武装面だ。
弱肉強食な自然界にて、強力な武器を持つ事は生き残る可能性を上げる重要な要素だ。別に牙や爪でもいいのかもしれないが、やはり長さや硬度、切れ味等の問題で亜人種――つまりは人間型怪物は武器を持った方が何かと楽になる。
しかし弱いままだと、他よりも粗悪な武器しか配給されない。そうなると他よりも倒し易いと思われて狙われ易くなる可能性が高くなる。ただでさえ弱いというのにだ。
このルールを変えればいいのではないか? と思うかもしれないが、弱いまま優れた武具を渡しても宝の持ち腐れでしかないし、何より不相応の品を持つと破滅を呼びこむ事になる。
自分の実力は把握しておく。
その能力を養うために、今後もこのルールが変更される事はない。
だから血反吐を吐くまで訓練して、死ぬ気で地力を上げるしかないのだ。
まあ、コボルドの中にはそろそろレベルが一〇〇になるモノもいるのでランクアップできさえすれば順列でそこそこ上の立場に食い込むだろう。
それに若くて成長期な子供達には何気に期待している。
種族的に素早さに秀でているので、それを伸ばす方針で訓練を課していく。
“六十三日目”
今日はクマ次郎に跨り、同じくそれぞれの≪使い魔≫に乗ったダム美ちゃんと赤髪ショートとアス江ちゃん、そして後ろから歩いてついてくる足軽コボルドを含む戦闘要員なコボルド十七頭で、コボルド達が暮らしていたという洞窟にやってきている。
目的は洞窟の奥にあるらしいベルベッドのダンジョンに繋がった穴を塞ぐ事と、コボルド達の僅かだがある荷物や蓄え等を取りにだ。
コボルドの洞窟は、四十分程歩いた所にあった。
パパっと荷物を運び出した後、地形の扱いに関しては一番長けているアス江ちゃんに洞窟を完全に崩してもらう。
これで今日の目的の一つは終わった。
その後、コボルド達に狩りをさせる。
ヨロイタヌキ等を殺して今後の食糧として持ち帰るってのもあるが、今回の狩りの標的の本命は、ブラックウルフである。
≪使い魔≫の数を増やしたいってのもあるが、群れを成すブラックウルフ達に対してコチラも一つの集団として衝突する事で連係の経験を積みたい、ってのが大きい。
訓練も重要だが、やはり命を賭けた実戦を積んだ方が色々と早い。
一応基礎の基礎はこの二日間で教えているので、それを多少なりとも生かせるかどうかが重要だ。まあ、無茶ぶりだとは自覚しているが、カフスの補助もあるし、やらなきゃ何も始まらん。
死なない程度に頑張ってもらうか。
そう思って期待はあまりしていなかったのだが、コボルド達は頑張った。
俺が言うとおりに動き、十二頭のブラックウルフの群れを罠を敷いた区画に追い込んだのだ。
ブラックウルフを殺してはならないという条件を課したので皆無茶をして大なり小なりの怪我をしていたが、カフスに付加された持続再生がその程度の傷は容易く治癒するので大した問題では無い。
今回の事で思ったが、案外良い拾い物かもしれんな、コボルド達は。
捕まえたブラックウルフは脳を弄って速攻≪使い魔≫にした。
その後、再び発見した新しいブラックウルフの群れを同じように追い込む事に成功し、今日≪使い魔≫にできたのはブラックウルフ二十頭だ。ただ今回捕獲した二つの群れのトップがどちらも“リーダー”と呼べる程の能力を有してない、他と同じ程度の個体だったのは残念である。
とは言え十分な数が確保できたのだから、一先ずは良しとしておこう。
今日の功績に意気揚々と帰っていると、その帰り道にアイロンのような形をした巨大な岩鼻が特徴的な“スタンプボア(仮称)”を見つけた。
力試しに丁度いいッ! とやる気を漲らせながらアス江ちゃんが愛馬から降りて真正面から突撃。真正面からその巨大な岩鼻で敵対対象を押し潰して喰らうという習性を持つスタンプボアも、当然逃げることなく突き進む。
そして右から左に振り抜かれた【大地母神の戦鎚】はスタンプボアに触れると同時にその身を粉砕した。
岩と同じぐらい頑丈なスタンプボアの肉体は、アス江ちゃんの一撃に耐えきれずに前半分が吹き飛んでしまったのだ。
これでも加減したつもりだったそうだが、まあ、そうなるだろうな――岩と同じぐらい頑丈だという事は、岩を素手で砕けるアス江ちゃんにとっては非常に殺し易い相手だという訳で――とは思っていたので、特に何も言わず返り血がこびり付いた顔を水球で洗ってあげる。
死体は貴重な食料になるのでアイテムボックスに収納し、洞窟に戻って鍋にして喰いました。
夜、自分の工房で色々と作業していたら鍛冶師さんが近づいてきて、鍛冶場に来てほしいとの事。
なんだなんだと思いついて行ってみると、そこにあったのは真新しくなったハルバードの姿が。
以前レッドベアーとの死闘の際に用いたハルバードは酷使してしまった結果使い物にならなくなってしまったのだが、それを鍛冶師さんに直す様に頼んだのを覚えているだろうか。
つまりは、修理が完了した訳である。
しかも所々に鍛冶師さんが手を加えているらしく、鍛冶師さんが自慢げに語ってくれた。
まずハルバードの特徴とも言える斧頭だが、水精石と錬鉄とミスラルを混ぜ合わせて造られた合金製になっている。水精石を混ぜているので、精霊石ナイフを振った時と同じように振ると水が噴出される。
ただ振っただけでは大袈裟な水芸でしかないが、一定以上の速度で振ると水が水刃になるのは既に判明している事実だ。それを利用して、ただでさえ三メートルもあるハルバードの攻撃範囲を拡張できるらしい。
切れ味もほぼ鈍器と言ってよかったナイフの時より改善されているので、例え水が出なくても普通の刃物として扱えるようだ。
ついで穂先だが、穂先も斧頭と同じように精霊石と錬鉄とミスラルの合金製になっている。配合された精霊石は雷を放つ雷精石。高速で突きを放てば穂先から雷の槍が迸り、遠く離れた敵に雷速の攻撃を叩きこむ事ができるそうだ。
もしかしてと思いながら【三連突き】を発動させてみると、不可視の穂先からも雷撃が放たれ、一度で三つの雷槍が的を消し飛ばした。
何と便利な事か。
斧頭の反対側にあるピックも同じく合金製になっていて、配合されたのは火精石だ。試しにピックをアイテムボックスから取り出した丸太に突き刺してみたが、突き刺した箇所から轟々と炎が噴き出すという素敵仕様である。
刃と逆の先端部分である石突きには三角錐状に鋭く研磨された土精石そのモノが嵌めこまれていて、それで敵を突く事も、俺が持つ地形操作系アビリティの補助具としても使いやすい様になっている。
それになにより、配合されている精霊石が発揮する効果が普通のよりも強力だった。以前俺がエンチャントしたナイフと同等かそれ以上はありそうで、何故だろうかと思っていると鍛冶師さんが教えてくれた。
なんと、新しい職業を得ていたそうだ。驚かそうと、ハルバードが完成するまで誰にも話さず秘密にしていたらしい。
これを知っているのは今の所俺だけらしく、ちょっと嬉しかった。
職業名は【精霊鍛冶師】というもので、多様な精霊石を一定期間扱う、その扱いに長ける、など幾つか面倒な条件をクリアすると得られるレアジョブの一つだそうな。
これがハルバードに使われた精霊石の能力上昇の要因らしい。
嬉しかったのでハグしました。最近では色々あって力加減も無意識の内にできるようになっている。
腕の中の鍛冶師さんが向けてくる笑顔はとても可愛かったです。
色々と燃えた。
“六十四日目”
今日もホブ・ゴブリンが三ゴブ増えた。今回はメイジやクレリックはいなかったのは少々残念ではある。
まあ、普通メイジは一つの群れに一ゴブか二ゴブ程度らしいので、現状が異常なのだが。
それぞれに何時も通り祝いの品を贈る。
今日は訓練の後、バディーを組ませてコボルド達を実戦兼食料調達に行かせた。スケルトンと戦うばかりでは経験値取得効率がいいとは言えマンネリ化するし、多種多様な種族と闘った方が応用力が養えるからだ。
俺はいつかはこの森を出て行くつもりなので、今後の事を見据えるのならば、やはり今の内に色んなモンスターと対峙して経験を積んだ方が死に難くなる。
という事で今日の俺は暇ができ、一人でハンティングに出かける為の準備をした。
この前喰ったスタンプボアの肉の美味さが忘れられないってのもあるが、新しいアビリティを得られそうな雰囲気があったし、そろそろ行っていない区画に生息するモンスターを喰いたくなってきたからだ。
スタンプボアは既に生息区域の調べはできているし、気配はこの前知ったので直ぐに見つけられるだろう。
さて出発……しようとして、オガ吉くんに止められた。
人気のない所で話がしたい、という事で洞窟の外に出てしばらく歩き、周囲に誰も居ないのを確認してから相談された。
それによるとどうも、ようやく、またはやっと、アス江ちゃんに告白する決心がついたそうだ。ランクアップして更に想いが強くなって、もうイクしかないと思ったそうだ。
しかし何と言えばいいのか分からない。だから、教えて欲しいと言われました。
そんなのはお安い御用、とは言わないまでも、既にオガ吉くんは俺の心友である。
俺の事のように相談に乗るのは、まあ、当然だろう。
今日はスタンプボア狩りして再び猪鍋にしようと思っていたのを断念し、昼から夕方になるまで作戦会議に費やしたのであった。
そしてオガ吉くんの告白作戦は、この夜決行される事に決定。
その結果は、明日になれば分かるだろう。
“六十五日目”
成功した。何が? 当然オガ吉くんの告白が、である。
今日起きて訓練前の日課になっているオガ吉くんとの組み手をする前に、やや赤面しながら報告してくれたのだ。
まあ、成功するとは思っていたので驚きはない。オガ吉くんは気が付いていなかったかもしれないが、アス江ちゃんは前々からオガ吉くんの事が好きだったからだ。
アス江ちゃんはダム美ちゃんに相談していて、その情報が俺に流れて来ていたのでこの情報に間違いはない。
だから振られるとかの心配はあまりしていなかった。昨日の作戦会議も、裏話をぶちまけてしまえばカフス型通信機を密かに使ってダム美ちゃんと密談し、二人の仲をおぜん立てするための時間稼ぎをする為でもあったからだ。
だから、この結果は当然と言えば当然だ。
ただ気になるのは、昨日の夜さっそく盛り上がってやり過ぎてアス江ちゃんが壊れなかったかどうか。
いや、以前オガ吉くんに事前練習でエルフ男を担当させてみたってのは既に語ったが、オガ吉くんが初体験だった事と一メートル近い体格の差もあって色々と壊してしまった前例――身長は二メートル程とエルフ内で一番デカイ奴をあてがったのだが、今は練習がてらホブ治くんに治療させて寝かせている――があるので、心配なのだ。
アス江ちゃんは今現在、ベルベットのダンジョンの影響でココ等一帯に群生している精霊石と希少金属の採掘関連のトップなので、動けなかったりしたら作業効率が段違いなのだ。
ほら、今のアス江ちゃんって掘削機みたいな存在だし。
返答によっては色々と予定を調節しなければならないか。
と思っていたが、報告を聞く限り大丈夫なようだ。
オガ吉くんが初めてでは無かった事と、アス江ちゃんがタフだった事、それと昨日の作戦会議で教え込んでいた約束を守って、どうにか加減できたのが要因だろう。
微笑ましい事である。
それにしても、今日の組み手はオガ吉くんの元気が良過ぎて良いのを何発か喰らってしまった。
ガクガクと膝が笑っている。
元気過ぎて鬱陶しいので、ブラックスケルトン系を幾体か宛がって気分の高ぶりを発散させた方がいいかもしれん。
即実行に移した。
昼になって訓練が終わり、オガ吉くんと共にハインドベアーでも捕獲しに行こうとして、ダム美ちゃんとアス江ちゃんがついて行きたいと言ってきた。
アス江ちゃんに採掘作業は予定通りに進んでいるのか聞いたら、午前中に頑張ってノルマはクリアしているそうなので、久々に四人でハンティングに行った。
残念ながら目的のハインドベアーは見かけなかったが、スタンプボアを五頭、一メートル大と巨大な体躯と毒々しい紫色の液体が滴る鎌が特徴的な“ポイズンマンティス(仮称)”を六体、一メートルはあるだろう巨大な角と黒光りする鉄のような外骨格が特徴的な“兜虫(仮称)”を四体、コガネグモを五体、オニグモを四体、灰色の甲殻が特徴的な六十センチ大のバッタ“飛脚飛蝗(仮称)”を三体、黄色い体毛と異様に発達した尻尾が特徴的な“イエローモンキー(仮称)”を十一体狩る事に成功した。
いや、流石に俺自身はまだきた事の無かったエリアなだけあって、喰った事のないモンスターが多い。ただ残念ながらポイズンマンティスや兜虫など甲殻虫系は俺以外が喰うには毒が心配なので、土産としてはイマイチだ。
残念なことに。そう、残念な事に。
という訳でそれぞれの使えそうな部位は剥ぎ取ってアイテムボックスに収納し、残りはボリボリと喰いました。俺だけ喰うのも気が引けるので、他の三人はイエローモンキーを二体ずつ喰ってもらう。
【能力名【脱皮】のラーニング完了】
【能力名【鞘翅生成】のラーニング完了】
【能力名【致死の毒刃】のラーニング完了】
【能力名【無音暗殺】のラーニング完了】
【能力名【正面突破】のラーニング完了】
【能力名【不協和音】のラーニング完了】
【能力名【寄生】のラーニング完了】
【能力名【跳躍力強化】のラーニング完了】
【能力名【強靭なる生命】のラーニング完了】
【能力名【外骨格着装】のラーニング完了】
【能力名【錬鉄の外殻鎧】のラーニング完了】
【能力名【湧き上がる戦闘本能】のラーニング完了】
【能力名【寒冷脆弱】のラーニング完了】
俺は変身ヒーローになった。
いや、兜虫を喰って得た【外骨格着装】を早速発動させると俺が今着ているレッドベアーから造った防具は一瞬で取り込まれ、それを元にしたのか、赤く独特の光沢を持つ甲殻を持った二メートル五十センチ以上のヒト型クワガタ、のような全身鎧を装着した状態になったのだ。
何故兜虫を喰ってクワガタに、と一瞬疑問に思ったが、きっと俺の双角が原因だろう。
やや湾曲しながら伸びる刀剣のような双角に意識を向けると、ガチンガチンと動かす事ができた。試しに木を挟んでみると、ジョギン、と切断できてしまった。しかもさしたる抵抗も感じ無かった、凄まじい切れ味である。
面白いな、コレ。
しばらく外骨格について調査をする。
それで分かったのだがこの外骨格、凄く動きやすいくせに非常に頑丈なようだ。試しにオガ吉くんに殴ってもらったのだが、殴られた部分が多少凹みはしたが俺に殆ど痛みは無かった。どうも衝撃を全身に分散してダメージを軽減する機構が外骨格に組み込まれているらしい。
それに転生前の職場で配備されていた生体金属製のパワードスーツを着ているように、鎧を着ている気が全くしないこの一体感。動きをほんの少しも阻害される感覚が無く、身体によく馴染む。
それにどうも外骨格はパワーアシストまでしてくれるようで、デメリットが見当たらない。いや、目立ち過ぎるってのはデメリットか。
うん、まあ、これは非常にいいアビリティだ。
ただ、一通り調査してから【外骨格着装】を解除すると素っ裸になったのは勘弁してもらいたい。以前造ったズボンがあったからまだ良かったモノの、俺にストリップ趣味はないのだ。
それにレッドベアーとの戦いの思いでが詰まった防具が無くなったのも痛い。
まあ、意識すると脳内に
【アビリティ【外骨格着装】
登録“1”[赤熊獣王の威光]の登録完了
登録“2”[ ]空き
登録“3”[ ]空き
登録“4”[ ]空き
登録“5”[ ]空き
残り“4”までフォームの登録が可能です。
何番を装着しますか?】
と表示されるので、完全に無くなった訳ではないのはありがたいと言えばありがたい。
それとフォームは戦況に応じて選ぶ事ができるようだ。結構応用力がありそうで、便利なアビリティである。
あと空を飛ぶ為の器官である鞘翅が造れるようになったのは良いが、空を飛ぶのは思ったよりコントロールが難しかった。
帰ったら練習する事にしよう。
非常に満足いく結果だったので、お土産を引っ提げて帰って喰いました。
スタンプボアの肉はウマかとです。
【能力名【猪突猛進】のラーニング完了】
【能力名【尻尾強撃】のラーニング完了】
その後帰って飛行の練習をし、作業場で色々と作品を造ったりして夜になるとぐっすりと眠った。
うむ、有意義な一日だった。
“六十六日目”
久しぶりの雨だったので、今日は赤髪ショートや鍛冶師さん、姉妹さんに錬金術師さん達と戯れる事に決めた。
夜は皆で一緒に寝ているのだが、朝や昼は色々と用事があるので構っていなかったからだ。
【魔喰の戦士】を獲得してからというモノ、赤髪ショートの快進撃は凄まじいモノがある。今までは技量が同等程度でも肉体面で負けていたのを巻き返した結果だ、と言えばそこまでだが、着実にその力を伸ばしているのは事実だ。
最近特に『訓練してよ、私とちょっと組み手してよ』と迫ってくるので、とても可愛いです。その分加減が難しいが。
なんだろう。可愛らしい顔と相まって、子犬がじゃれてくる感じだろうか? それもミニチュアダックスとかの小さい犬が、尻尾をブンブン振っている感じで。
他から見たら赤髪ショートはドーベルマンのような存在になってきているのかもしれないが、俺からすると赤髪ショートは子犬のように可愛らしくて、グッとくる。
朝の時間は赤髪ショートと戯れました。
次は鍛冶師さんの所に行く。
最近はエルフのキルエとアルエ――以前馬鹿を護衛していた女性エルフ二名の事だ。今後は面倒なので護衛エルフさんと纏めて扱おう――が造れるミスラルを用いた合金を造る事に熱中しているらしく、その試験品だろうナイフやショートソードが工房ではアチコチに転がっている。
ミスラルは捉えたエルフの中では護衛エルフさん達しか作る技術を持っていなかったので、二人はアッチ方面の仕事は他よりも少なくしている。貴重な技術持ちは、適材適所で活用するべきだ。
どうもこの二人、結構血統の良い家の娘なようだ。
ミスラルの製造法はエルフ全員が知っている事ではなく、鍛冶を担う限定された家系に伝わるモノで、一般のエルフでは製法を知らないので作れない。この二人は精鋭として訓練を受ける傍ら、生家がミスラルの製造法を継承する家系だったので教え込まれていたが故に造れるのだ。
まあ、二人では量が作れないのが難点ではあるが、それは仕方ない。造れるだけで上等だ。
鍛冶師さんと護衛エルフさん達が新しい作品についての意見を出し合っている所に加わり、以前お願いして作ってもらっていた連射式クロスボウ――つまり連弩――の開発は成功したか、と聞いてみる。
連弩は従来のよりも威力と飛距離が劣るのだが、手数を増やしたくて作ってもらっているので関係無し。
そして鍛冶師さんによると、無事成功したらしい。試作品が完成したので、訓練しているゴブリン達の所まで持って行き、早速練習させる。
結果、成果は上々だ。十分使えるモノにできあがっている。
連弩の量産をお願いし、ついでに護衛エルフさん達が作っていたミスラルを取り込み、銀腕からインゴットとして抽出。銀腕の成分を取り込んでミスラルとは似て非なる金属となったそれを渡し、これでまた俺専用の作品を造って、と頼んでおく。
分かった、まっかせなさい、と胸をはる鍛冶師さんは可愛らしかったです。思わず唇を塞いだとしても仕方あるまい。
その後色々と意見を交換した。
夕方になって姉妹さん達の所に行く。
最近姉妹さん達も新しい職業【料理長】を獲得したらしく、せっせと調理に勤しむゴブリン達の指揮を担当していた。
飯を喰う数が数だけに、早めに調理を開始しなければ間に合わない。幸い調理用具は略奪品や鍛冶師さん作があるので足りているので回せているが、それでも調理場は戦場と化していた。
それに俺も加わり、食材を刻んでいく。こう見えても俺、料理はそこそこできるのだ。
料理ができるようになった切っ掛けが、勉強や運動はできるくせに料理だけはド下手なアオイの料理を喰いたく無いって情けない事情があるんだが。
アオイのヤツ、俺刺した後どうなってんだろうなぁ。
なんて黄昏ながらも俺は仕事をこなし、飯の仕度が終わった後、二人と共に料理の研究を開始した。
目標は転生前の料理の再現だ。今の所ポテトチップスとかは似た様なモノができている。食材が転生前と全然違うので非常に難航しているが、料理人な二人に相談すれば比較的早く完成しそうなので心配はしていない。
食の探求は面白いです。
飯の後、錬金術師さんの所に向かった。
錬金術師さんは最近スケルトンの骨を使ってオリジナルのマジックアイテムの製作に専念しているのだが、その結果はまだ教えてもらえていなかった。
なので今回はそれを聞きだそうと思っていた。のだが、様子を見に行って会話しながら問いかけてみると、サラッと包み隠さずに教えてくれたのは拍子抜けだった。
が、サプライズはその後だ。
差し出されたのはブラックスケルトンの骨を削って造ったのだろう無骨で黒い杭。数は十本で、その能力は“突き刺した者を一定時間その場から動けなくする”と言うモノだ。
へー凄いじゃん、と感心していると、【魔道具製作師】を得て初めて造った思い出の品だから私だと思って大事にしてね、と言われました。
どうやら錬金術師さんも新しい【職業】を獲得したけど黙っていたらしい。
それにしても可愛らしい言い方と笑顔付きは反則だと思う。普段クールな彼女が見せる茶目っ気とか、ギャップでやられました。
隠れてイチャイチャしてたら以前のように乱入者が。
その後はあえて言うまい。
“六十七日目”
昼をやや過ぎたころ、父親エルフから使者――六名のエルフ――が来た。アポ無し訪問だったが、高圧的な言動ではなく礼儀を弁えていたので話を聞く為に中に通す。
その時は入ってすぐに広がる大広間で精鋭エルフ達も訓練に参加していたのだが、使者エルフ達はその事について何も言わなかった。
ただ、侮蔑の視線を一瞬向けただけだ。
今の精鋭エルフ達はカフスに付加した【隠蔽】によって浅黒い肌を持つエルフ――所謂ダークエルフと呼ばれる種族に見えているはずなので、使者エルフのようにチラッと見ただけでは同郷のエルフだと気付けなかっただろう。
使者エルフが侮蔑の視線を向けたのは、ファンタジーによくある話でエルフとダークエルフは仲が悪い、とかそんな所に違いない。好都合な事だ。
精鋭エルフが訓練しながら数名ほど何か言いたげに使者エルフを見ていたが、結局何も言う事はなかった。今更戻れないしな。
その後、使者エルフ達は俺の作業場兼私室である一画に通し、以前父親エルフから貰った茶を出す。生憎ソファなんてモノはないが、俺の糸製のイスはあるのでそれに座らせた。
六名の内イスに座ったのは一名だけだったが、どうもその一名が交渉役で、他は護衛なようだ。
そして話を切り出したのはアッチ側だった。
最初から分かっていた事だが、ついに人間軍が来たようだ。それも俺が以前教えたルートから、結構な規模の軍隊らしい。
人間軍と相手取るには現在のエルフ軍は俺が提供したマジックアイテムを含めても戦力に不安がある。現在は俺配下な精鋭エルフ達が抜けた穴が結構大きく、その為俺達の所に援助依頼にきたそうだ。
素知らぬ顔で精鋭エルフ達はどうしたんだと聞いてみたら、馬鹿が目的も言わずに配下な精鋭エルフを動かして、その結果行方不明になったからだそうな。
消息は今もって不明。捜索を行おうにも状況が状況だし、時間も余裕も無いので死んだモノとして半ば諦めているそうだ。
どうせ父親エルフがそういう風に情報操作したんだろうが、素直にありがたい。
軽く情報交換した後、仕事についての話をした。
仕事は早い話が人間軍の撃退か、あるいは撃滅。できれば撃滅してもらえるとありがたいが、できる範囲で良いとの事。ただし戦略的撤退はありでも、敵前逃亡は許さないとの事。大して意味は変わらないと思うんだがな。
報酬はミスラル製のショートソードとラウンドシールドとチェインメイルが四十にインゴットが十、矢が三千本に光源を発生させる一般的なマジックアイテムなどエトセトラ。
功績によっては更に上乗せしてくれるそうだとか。あと略奪した品はそのまま納めてもいいそうだ。
受けるか否かを聞かれ、もちろん二つ返事で依頼を受けました。
ただ条件として俺達は自由に動かせてもらうってのは組み込ませる。俺は正面から戦うよりもゲリラ戦法の方が得意だからな。正面から戦うのは、最終手段です。
情報交換を円滑にするために通信機能だけを搭載した腕輪を使者エルフに渡し、父親エルフに届けてもらう事に。
帰っていく使者エルフを見送った後、斥候として俺の分体を走らせる。戦況の確認と情報収集は大事だからな。
何はともあれ、傭兵団≪戦に備えよ≫の初仕事だ。
“六十八日目”
午前三時。まだ闇に包まれた森の中を俺達は疾走していた。
機動力重視で選んだのでメンバーは少なく、クマ次郎に跨る俺を先頭に、≪使い魔≫に乗った三十六名だけだ。他は洞窟にて待機中である。
今回こんな時間に移動しているその理由は簡単で、斥候に出した分体が発見した人間軍の駐留地点に奇襲を仕掛ける為である。
奇襲する部隊の規模は八百人程と俺達とは桁が違い過ぎる。コチラは≪使い魔≫を含めて七十三だ。普通に当たれば数の暴力で殺されるのがオチだ。
それに流石の俺も、数が多い上に一人一人の戦闘能力がハッキリと分かっていない敵を襲うのは早計だとは自覚している。
が、夜という状況が俺達に――特に俺に力を貸してくれる。
ブラックスケルトンやゾンビを生成し続ければ物量で負けないだろうし、闇に沈殿する魔力を吸収する事で魔力切れは起きないので、魔力不足でアンデッドを生成できなくなる、なんて事態にもならない。
もしヤバかったら即逃げればいい。暗視を持たない人間が暗視を持つ俺達を追走する事は難しく、その為の機動力重視なのだから。
そんな訳で仕掛けた奇襲であるが、逃げるまでもなかった。一時間も経った頃には殲滅完了である。
流れとしては、
密かに近づく。
→周囲に張られた半透明の結界とその内部を歩いている見張りを発見。
→周囲を囲むように散らばらせる。
→配置についたのを確認し、半透明の結界を俺が終焉系魔術の投げ槍で粉砕するのと同時にアス江ちゃんが周囲を四メートル程の高さがある土壁で囲む。
→それを合図にダム美ちゃんやスペ星さん等を筆頭としたメイジ部隊の魔術が敵陣中に炸裂、一瞬で数百名単位の人間を殺害する事に成功。
→俺は俺で一秒で十体程のアンデッドを生成しつつ、終焉系魔術の投げ槍を左腕を変化させて造った巨大弩で撃ちまくる。
→たった十数秒ほどで雑兵を大雑把に削り殺した後、中心の方にあった一際大きなテントから登場した白銀の女騎士や白色の聖職者(男)や紅の女剣士に漆黒の魔術師(男)など精鋭だろう一部にゾンビや普通のスケルトンがやられる。
→ブラックスケルトン種でその一団を集中的に攻撃させて足止めをする。
→その間に周囲を殲滅、ただし女は殺さず捕虜に。でもあまりに醜悪だった場合はその限りではない。
→最後に残った精鋭部隊にクマ次郎に跨りクロ三郎を従えるハルバード装備な俺、ハインドベアーを従える重武装なオガ吉くん、ハインドベアーの上で詠唱するスペ星さん、氷の刀身を持つクレイモア【月光の雫】を片手で軽々と扱い【魅了の魔眼】を振りまくダム美ちゃん、巨大なウォーピックを持って微笑むアス江ちゃん、紅の騎士と化して周囲に血の刃を三十程漂わせるブラ里さんが一斉に押し掛ける。
→蹂躙無双。
→戦闘終了。
改めて振り返っても、酷い戦いだった。いや、あれは一方的な凌辱だったかもしれん。
まあ、さて置き。
被害は全てアンデッドが肩代わりしてくれてコチラに死者は出ず、アチラは女と一部優秀そうな個体を除いて全滅させた。恐らく取りこぼしも殆どいないだろうが、一応って事でブラックスケルトンを周囲に散らばらせる。
陽光で浄化されるまでがタイムリミットだが、消えたとしても一応の保険なので問題なし。
今回の奇襲の戦果は繁殖要員となる捕虜、その他多量の武装に兵糧だ。特に女とマジックアイテムの獲得は大きいと言える。
それに鮮度が落ちてはアビリティ確保の確率が下がるので、優秀な個体を選別してその場で喰いました。
【能力名【勇ましき心】のラーニング完了】
【能力名【足払い】のラーニング完了】
【能力名【軍勢統括】のラーニング完了】
【能力名【職業・部隊長】のラーニング完了】
【能力名【職業・重剣士】のラーニング完了】
【能力名【職業・吟遊詩人】のラーニング完了】
【能力名【速読】のラーニング完了】
【能力名【職業・軍師】のラーニング完了】
【能力名【鍛冶】のラーニング完了】
【能力名【回避率上昇】のラーニング完了】
【能力名【大回転斬り】のラーニング完了】
【能力名【十字斬り】のラーニング完了】
【能力名【硬気功】のラーニング完了】
【能力名【軽気功】のラーニング完了】
【能力名【職業・槍士】のラーニング完了】
【能力名【職業・奴隷】のラーニング完了】
【能力名【職業・農夫】のラーニング完了】
【能力名【職業・修道士】のラーニング完了】
【能力名【一方的な正義感】のラーニング完了】
【能力名【無垢なる信仰】のラーニング完了】
【能力名【愚かな妄信】のラーニング完了】
【能力名【繋がれる魂魄】のラーニング完了】
【能力名【職業・重戦士】のラーニング完了】
【能力名【職業・軽戦士】のラーニング完了】
ホクホクである。
大変満足いく結果である。
その後毒で眠らせた捕虜や戦利品を持ちかえり、以前のエルフのように薬を盛って牢屋に入れる。
ただ流石に男エルフのように容姿端麗ではない人間の男に薬は盛らなかった。こいつ等は情報源兼奴隷として働いてもらう予定だ。
なので、女と違って男達には隷属の首輪を即座に嵌めた。
今回の情けも“殺さない事”である。“死ぬまで”働いてもらおうか。
さて、女は何日快楽に耐えられるかなと思いつつ、今回の戦果を父親エルフに報告。
昼前に報告した時は大層驚いていたが、それが事実だと調べがついたのか、午後三時くらいには護衛を引き連れてエルフ酒を樽五つも持参して直接コッチに来た。おいおい、来ていいのかよとも思ったが、俺達があの一軍を壊滅させた事が人間軍にも伝わったらしく、進撃は停滞しているそうだ。
なるほど、乾杯。
軽く酒会を開いた後で父親エルフは帰っていった。
さて、捕虜の様子はどうかねぇ。と思って行ってみると、既に我慢の限界に達していた。勇猛果敢に戦っていた女騎士さんが触れただけで反応するなど、乱れっぷりが凄かったです。
え、大貴族の令嬢だって? へー、あっそ。今の俺には大した事ではありません。
だって俺、人間じゃなくてオーガだし、今。
人間の事情なんて、モンスターにとってはどうでもいい事である。としておこう。
あと、捕虜(男)達の反応は面白かったので、ゴブリンとコボルドのメスで自分で申請してきた奴には貸し出してやりました。
女騎士さん達の最初の相手は無論俺だったけど。
“六十九日目”
寝ていると胸に微かな痛みが走った。
起きあがってみると、どうやらナイフで心臓を刺されたらしい。犯人はまだカフスを付けていない、生まれたままの姿で所々を濡らした例の女騎士である。
昨日あれだけ乱れたというのに、正気に戻ってせめて俺だけでも、と思ったのだろうか。幸い近くに食材を刻んでいた錬鉄製のナイフ(鍛冶師さん作)が転がっていたしな。
なんて暢気に考えながら、胸に生えたナイフの柄を摘まんで引き抜く。オーガという種族の生命力を舐めては困る。アビリティを発動させるまでも無く、たかが錬鉄製のナイフで浅く心臓を刺された程度で死にはしない。ただ痛くて、治癒する間は動けなくなるだけだ。
でも痛いのは嫌なので【高速治癒】を発動。目に見える速さで傷口は塞がった。
さて、と顔を上げる。そこには全裸状態だが静かな怒りを宿したダム美ちゃん、に髪の毛を掴まれて組み伏せられている女騎士の姿が。人外の膂力に抗える筈も無く、女騎士は恨めしそうにコチラを見上げてくる。
ふむ、どうもまだ足りないらしい。なので直接俺の成分調節した薬を注入。ダム美ちゃんと一緒に責めました。
午後、そこにはカフスを自ら装着する女騎士の姿が! と大袈裟に言いつつそれは置いといて。
奴隷(男)達を集めて知っている情報を全て吐き出させる。【隷属】の効果によって虚偽も隠蔽もされる事の無い情報を得、それを父親エルフに流してやる。
俺達が手柄を上げるばかりではエルフ達の士気に関わるので、エルフ酒を樽十個で情報の売買を昨日父親エルフから取り付けられたのだ。強かである。
あと、ホブ・ゴブリンが四体増えていた。今回はクレリックが一体混じりである。
普段通りに祝いの品を送る。
“七十日目”
今日は人間軍の侵攻ルート上にトラップを張り、待ち伏せである。
どうやら人間軍は数の多さを良い事に、多方向からエルフ軍を攻撃する作戦らしいので、こうやって個別のルートで待ち伏せして各個撃破が望ましい。
現在待ち構えている場所も幾つかあるルートの一つで、ココを通るのは主力部隊の一つなのだそうだ。これは良い経験値稼ぎになりそうだと思いつつ、アス江ちゃんと共に狩り場の作成に勤しむ。
獣道のような道を周囲よりもやや低くし、先に進むにつれてやや坂になるように地形を弄る。
そして左右に生い茂る木々の根元には落とし穴を、ある程度離れた木々の根元には隠れる為の塹壕を掘る。塹壕近くの茂みにはパッと見では分からないようさり気無く木の板で造った盾を組み込むことでコチラの安全性を高め、鍛冶師さん達が頑張って造った連弩を装備した遠距離攻撃部隊≪ティラール≫を塹壕の中に配置。
保険として塹壕の中には軽武装部隊≪レッドシャルジュ≫も入っているので、落とし穴を飛び越え、矢の雨を掻い潜って近づいたとしても時間を稼ぐ、あるいは殺す事は容易いだろう。
もっとも、その前にある落とし穴に潜むコボルド達で殺されるはずだが。
一通り準備が整い、しばらくすると斥候としていた俺の分体から敵についての情報が入ってきた。
敵の行進スピードだと凡そ三十分後には到着すると言う事で、皆息を潜めてその時を待つ。
そして、来た。
鈍鉄色の全身鎧を着て軍馬に跨り、周囲に注意を向けながら進む鈍鉄騎士に率いられ、隊列を乱す事無く歩み進める軍団が。確かに個々の戦闘能力は比較的高そうで、その数は七百前後。
その内魔法使い――魔術師を代表とする、魔力を用いて奇跡を成す【職業】持ちな存在の総称。【召喚術師】や【秘術使い】や【妖術士】などがある――の数は恐らく百名前後だろう。
魔術が齎す殲滅力を考えれば、数は七百とはいえ凄まじい戦力だ。
ただしその分、俺にとっては美味しい敵に見える訳で。
カフスを介し、まずは敵の退路を断つべく木を切り倒す。けたたましい音を響かせて倒れた巨木は一人たりとも圧殺する事はなかったが、敵の注意がそっちに逸れた隙に次の指令を飛ばす。
退路を断ち、最初の攻撃となるそれは、敵の進行上となる坂の上から丸く削った岩を複数転げ落とす事だった。左右よりも窪んでいる足場が災いして逃げ遅れたモノは引き潰され、もしくは必死で逃げようとする仲間に踏み殺された。
中には武器を手にし、あるいは魔術を行使して丸岩を砕こうとする者も居たが、生憎丸岩には俺がエンチャントを施しているので早々砕けるモノではないし、勢いと回転力がある。無駄な抵抗を試みた者から丸岩の餌食となった。
丸岩によって七百いた敵の内、二百から三百以上は圧死、あるいは戦闘不能となる。他にも余波で怪我をした者は多数で、即座に大勢を立て直すのは難しいだろう。
そして敵を休めるつもりが俺には毛頭なく、ココでようやく連弩の毒矢を敵に撃ち込ませる。
退路は防がれ、丸岩の奇襲で仲間が惨たらしく潰されて、そこに飛来する矢の雨の追撃。しかも連弩であるが故にその数は多く、威力もそこそこ高いと嫌らしい仕様だ。
しかも鏃には俺製の毒を塗っているので更にタチが悪くしたそれは、敵の数を一気に減らしていく。
何人かは反撃しようと塹壕に向けて駆けだしたが、巧妙に隠されている落とし穴に嵌り、そこに隠れていたコボルド達に袋叩きにされて死ぬという哀れな結果に。
しかし流石にこれだけで殲滅するまでには至らなかった。鈍鉄騎士の指揮力は中々侮れるものではなかったのだ。
生き残った少数を掻き集め、仲間の死体などを盾に毒矢を防ぐ陣形を組んでみせたのだ。丸岩を転がしてみたが、殻のような陣形の隙間から放たれる魔術の連射を受けて砕かれた。毒矢も死体などで造られた盾に阻まれ、数が減らせられなくなった。
しばしの膠着状態に突入。
残り百名足らずで良くやるよ、と思いつつ、鈍鉄騎士に興味が湧いた。
手駒にしたいと思ったので魔術による殲滅は一先ず取り止め、オガ吉くん率いる重武装部隊≪ラーヴエロジオン≫を坂の上から進撃させる。
誤射を防ぐために左右からの毒矢攻撃は止めさせ、タワーシールドを構えて先頭を進むオガ吉くん達の様子を見守る事に。
敵陣からオガ吉くんに向けて魔術が迸るが、全てはマジックアイテムであるタワーシールドに阻まれて虚しく散っていく。敵もその様子からオガ吉くんを狙うのは無駄と判断したのか他を狙いはしたが、その大半はオガ吉くんが防いでしまった。
守り硬過ぎるぞ、と言いたくなる光景だ。
その後両者の距離が無くなり、一か八かとばかりに囲いから飛び出す敵は、しかし部隊員の重装甲な守りを突破できず、逆に連携して攻めて行く部隊員に一人また一人とその数を減らしていく。
オガ吉くんと闘っている鈍鉄騎士は奮闘しているが、ここ最近ブラックスケルトン種との手合わせで更に技術が向上したオガ吉くんの敵ではなかった。奮闘できているのも、俺が捕える事を指示した為に遊んでいるからに他ならない。
そして三十分後、存分に戦いを堪能したオガ吉くんによって鈍鉄騎士は気絶させられ、捕獲、そして奴隷という流れに。
そして肉は選別してバリバリと。
【能力名【職業・妖術士】のラーニング完了】
【能力名【職業・盾戦士】のラーニング完了】
【能力名【職業・歩哨】のラーニング完了】
【能力名【盾打】のラーニング完了】
【能力名【戦技早熟】のラーニング完了】
【能力名【刀剣の心得】のラーニング完了】
【能力名【守り手の心得】のラーニング完了】
【能力名【職業・射手】のラーニング完了】
【能力名【職業・狩人】のラーニング完了】
【能力名【職業・魔道具製作師】のラーニング完了】
【能力名【盾壁】のラーニング完了】
【能力名【道具上位鑑定】のラーニング完了】
今回の戦果も上々と言えるだろう。
使えそうな武装は回収し、兵糧や捕獲した使えそうな人員を以前と同じように運んで行く。
捉えた女は薬を盛って牢屋に入れ、男は即座に奴隷の首輪を嵌めていく。
その後、父親エルフに今回の事を報告。
今回捕虜とした女達が我慢できずに求めてきたら、その時は活躍していた個体に褒美としてくれてやろう。
無理やりはしない、ってのはどうなったんだとか聞かれそうだから言っておくが、薬を盛らずに無理やり犯さないのは何の関係ない人物だけですと言っておく。
敵だったんだから薬盛るくらいは許容範囲内だろうよ。
さて、鈍鉄騎士とかに対して色々と尋問するか。と思っていたら、気恥ずかしそうに頬を染めたダム美ちゃんに裾を引っ張られた。
え? 子供が欲しいな……だって?
色々と燃えた。
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