◆セシウム厳格検査で「安全」も価格下落したまま
試食コーナーに行列ができた焼きシイタケ=3日、伊豆市修善寺で
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昨年10月に特産の干しシイタケから国の暫定規制値(当時)を上回る放射性セシウムが検出された伊豆市で、深刻な風評被害が続いている。生産者らは国よりも厳しい基準を設けて検査を繰り返し、信頼回復に懸命だが、1年を過ぎた今も価格は大幅に下落したままだ。
同市修善寺の県きのこ総合センターで三日、「きのこ祭」が開かれ、焼きシイタケの試食コーナーには長い行列ができた。「香りが本当にいいので毎年訪れている」と沼津市の主婦(66)。放射性セシウム騒動については「流通しているのは安全なものだから、うちでも買って農家を応援したい」と話した。
伊豆市は一七四一(寛保元)年、日本で最初にシイタケを人工栽培した「発祥の地」とされる。伊豆の栽培指導者たちが全国に生産方法を伝えた。豊かな雨量と温暖な気候が肉厚の良質なシイタケを育んでいる。
だが、福島第一原発事故で状況が一変。昨年十月には市内で収穫、加工された春物の干しシイタケから国の暫定規制値(一キロ当たり五〇〇ベクレル)を超える放射性セシウムが検出され、県から出荷自粛と自主回収を要請された。その後に収穫した分は出荷自粛が取り消されたが、厳しい状況は変わらない。
今年四月から国は新基準値を採用し、一キロ当たり一〇〇ベクレルと厳格化。県のモニタリング調査のほか、伊豆市もシイタケ農家の全戸を検査している。JA伊豆の国は四月以降、新基準値よりも厳しい基準を設定。入札前に全箱検査し、同八五ベクレルを超える干しシイタケは出荷していない。
安全性を確保するため、あえて厳しい検査を導入したが、風評被害はいまだに残る。市農林水産課によると、十月の入札価格は一キロ当たり約千円。採算ラインの同三千五百円を大きく下回った。原発事故前の二〇一〇年までは同四千円弱だったという。
伊豆市の農家は地元の山から伐採した原木でシイタケを育てる。同課は「シイタケは市の特産というだけではない。産業が衰退すれば山も荒れ、防災や有害鳥獣増加の面でも心配」と、影響の広がりに危機感を示す。
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