第二章 やられ役Lは人間教室を開催する
第十二話:レッスン①絵本を読みましょう
子供の情操教育といえば、まずは絵本!
「むかーしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ日課のロッククライミングに、おばあさんは川へ日課の寒中水泳に出かけました」
「一般のご老人ならば確実に死亡するとデータが計算しましたが、それを日課でこなしているということは、一般からは逸脱した身体能力の持ち主なのですね。おそらく長年に渡る鍛錬により、常人の肉体を超越した仙人の類ではないかと推測します」
「すると川の向こうから、どぶらこっこと大きな赤ん坊が流されてきました」
「川に流されながらも生命活動が正常とは、赤子にあるまじき生命力ですね。人と似て非なる、新種の生命体ではないでしょうか」
ということで、学園の図書室から借りてきた絵本をジュリーに読み聞かせ中。
なんとも子供らしくない、やや焦点のズレた感想だけど、ジュリーは絵本から目を離すことなく僕の話に耳を傾けている。 こうしていると本当に大きな子供みたいで、思わず頭をナデナデした。
うっわー、もうサラサラのツヤツヤ。どうして男と女でこんなに違うんだろ。 昔触れたフレアの髪も凄くいいさわり心地だったけど、ジュリーも全然負けてない。
「……なにこれ、俺の知ってる昔話と違う」
「そうですか? 誰でも一度は読み聞かされたことのある、割とメジャーなお話ですよ。まあ、地域によって多少は違う部分があるでしょうけど」
「いや、なんかもう地域差とかそれ以前の問題のような気が……」
「そんなことより、あたしとしてはもっと気になることがあるんだけどね」
ちょ、そんなこととか言っちゃ駄目だよフレア!
今のセリフ、後々で物語の重大な謎が解き明かされる伏線なんだから!
「ん? どうかしたの? フレア」
「現在、特にこれといった異常は見受けられませんと報告します」
「へえ。あんたたちの、その体勢は異常じゃないと?」
あー……それか。なるほど、言いたいことはよくわかりますよ親分。
現在、僕は胡坐の上にジュリーを乗せて、抱きしめるように手を回した状態で読み聞かせをしているのだ。 親子ならごく普通の光景だけど、(少なくとも外見上は)同年代の男女でやっていると色々とまずい。
なにがって、その……実にグッドなお尻の弾力とか、ね。
「親が子供に読み聞かせをする際は、これがベストな体勢だというデータが算出されました。事実、これならば二人で一緒に同じ絵本を読めるため、情操教育の上でも非常に効果的だと判断します」
「だ、だだだだからってそんな密着する必要はないんじゃないかい!? そもそもライアじゃなくたって、あたしやサーヤがやればいいだろ!」
「それもそうだよね。じゃあジュリー、レイヴとかどうだい? イケメンのお膝だよ?」
「なんでそこで俺に振るんだよ!? あとイケメンってお前――」
「私の記録にある、女性の美男子基準を元に計算すれば三十七点。中の下だと報告します」
「…………」
ちょっと照れ臭そうにしていたレイヴの顔が、一瞬で凍りつく。
部屋の隅っこで体育座りすると、床にのの字を書き始めた。
これは酷い。蔑みも嫌悪もない、ただ客観的事実を述べただけみたいな口調だったから余計に深く心を抉ったことだろう。
あっれー? 原作じゃこんな言い方しなかったはずだけどな……
「ちなみにマスターは九十七点。上の上だと報告します」
「いやそれはおかしい」
いくらなんでも贔屓過ぎるでしょそれは!?
原作だと、
『顔の造形そのものは美形に分類されますが、性根の腐り具合が滲み出て第三者の受ける印象の良さが十一割減しています』
なんてマイナス通告したくせに!
ここまでマスターを絶対視するとは、恐るべし刷り込み機能……!
「おかしいですか? 貴族の方々は大抵そうですけど、ライアさんだって整った顔してるじゃないですか」
「いや、顔はともかく目つきが悪くてね。糸目にしてないと犯罪者っぽいんだこれが」
不思議そうに尋ねるサーヤに、僕は苦笑いを浮かべつつ答える。
イケメンって顔だけじゃ務まらないことを、僕は原作で君らに教わったのさ……
「ああ、それでライアさんって糸目だったんですか」
「ま、あたしは目を開いたライアの顔も知ってるけどね」
なぜかフレアが得意げにそう言う。
あれか、『あたしは上っ面だけのイケメンになんか惑わされないぜ!』っていうレイヴへのアピール? でも肝心のレイヴは隅っこでキノコ生やしちゃって聞いてなさそうなんだけど。
「…………」
「ん? どうかしたジュリー? 急にこっちを振り向いて――」
ブス。
あれ、なんか視界が真っ黒というか真っ赤に……っ!
「ぎょああああああああ!?」
痛い痛い痛い痛い!
目に、目に突然強烈な痛みが! 一体なにが起きたのさ!?
「な、なにやってるんですかジュリーさん!? ライアさんに目潰しっていうか、現在進行形で目に指をぶっ刺しちゃってますよ!?」
「私は、目を開いたマスターの顔をまだ見ていません。剣であり盾であり、奴隷にして愛玩道具である私にはマスターの全てを知る義務があると主張します」
「まさか、力ずくで無理やり目をこじ開けようとしてるのかい!?」
「取れちゃう!? 眼球が抉りだされちゃうぅぅぅぅ!」
ああ……やっぱり、一刻も早くジュリーをレイヴに押しつけないと。わき役の僕じゃ身が持たない。
全てが赤に染まっていく意識の中で、僕は改めてそう思った。
うーん、なんか今回の更新はどちらも短い気がしますが……区切りがいいので、どうかこれでご容赦を。
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