第二章 やられ役Lは人間教室を開催する
第十一話:我が深謀遠慮(誇張)をご覧あれ!
教室での騒動の後、僕らはアラフ・ケルサス学園長に呼び出された。 ジュリーの正体を一発で見破られたり、あの洞窟が古代文明の研究所を封印したものだと教えられたり、洞窟への立ち入り禁止など様々な注意を受けたり、一時間くらい色々な話をした結果――
ジュリーもこの学園の生徒として通うことになった。
そして僕が、ジュリーの保護者兼管理責任者に任命された。
……何度でも言おう。どうしてこうなった。
「それにしても、ライアがジュリーを守るために土下座までしたのは驚いたぜ」
「『この子はまだ生まれたばかりの赤ん坊と同じなんです! 確かに普通の人間とは違うかもしれません。だけど、それだけを理由に物みたいに扱うのは間違ってるでしょう!? この子が人間らしくないから駄目だというなら、僕がこの子を人間にして見せます!』……いやあ、熱いセリフを聞かせて頂きましたよ。これで次の記事もいいものが書けそうです」
学園長室から帰る途中、廊下を並んで歩きながらレイヴとサーヤがそんなことを言う。
というか、これ本来ならレイヴが言うべきセリフだからね!?
学園長がジュリーの研究所送りをチラつかせてもなにも言わないもんだから、僕が言うしかなかったんじゃないか! 本当にジュリーを研究所送りにされたら、それこそ物語が完全に破綻しちゃうだろ!
「……ふん、色香にでも惑わされただけじゃないのかい」
なぜかフレアはさっきからご機嫌斜めな様子だ。
僕が今朝みたいなラッキースケベ目当てで、ジュリーを引き留めたとか思ってるのかな。今朝のアレだって、本当ならレイヴの役目だったはずなのに…… 本当に、これはどうにかしないと。このまま原作からかけ離れていったりしたら、せっかくの未来知識が無駄になっちゃうじゃないか。
「フレアさんも大変ですねえ? 強力なライバルが登場したようで」
「あんたがそれを言うのかい?」
「私はただ純粋に、取材対象として関心があるだけですから」
おお、レイヴを巡って恋する少女たちが火花を散らしている!
そうだ。なんだか絶望的な気持ちになってたけど、まだ詰んだわけじゃない。最初の契約の相手が僕になっちゃった、それだけのことだ。いくらでも巻き返しようはある!
「だけどこの子を人間にするって、具体的にどうやるんだよ?」
「私の体は、オルガニウム生体合金を主成分として構成されています。人間と同様の機能を発揮することは可能ですが、肉体の構成物質を人間と同様にするのは不可能です」
「お、オルガニウム?」
ジュリーの発した聞いたこともない単語に、レイヴが疑問符を頭上一杯に浮かべる。
オルガニウム生体合金っていうのは簡単に言えば、金属でありながら生物の筋肉や内臓と同じ機能を発揮する、特殊な合金だ。ジュリーを始めとする人型古代兵器はこの合金で作られていて、人間と同じように食べたり飲んだりもできる。
どうして兵器にそんな機能が与えられているかというと、これにも立派な理由がある。
まあこれも原作で教えられた知識だし、追々話そう。すぐに機会は来るんだし。
「体が肉でできてるか金属でできてるかなんて違いは、そんなに重要なことじゃないよ」
「そうですか? 十分に決定的な違いだと思うのですが……」
「こうして言葉を交わし合えるんだから、ジュリーはただの機械なんかじゃない。きっと僕たちと同じ人間みたいに、心が通じ合うと思うんだ」
原作でレイヴが実証してることだしねー。
マスターに従うだけの人形だったジュリーが、心を持った人間なっていく姿は本当に……コホン。僕の感想はこの際どうでもいい。重要なのは、ジュリーが人間と同等の自我を持てるってことだ。それこそが、物語を原作に引き戻す鍵になる。
「それに、学園長室でも言ったでしょ? この子は生まれたての赤ん坊と同じなんだ。人間らしさは、これから学んでいけばいい」
「私の外見は十六歳程度を設定してデザインされていますが、起動からの時間経過を計算すれば、その表現はあながち不適当ではないと判断します」
自分で赤ん坊並みだって認めちゃったよジュリー。
こういう無垢な感じも可愛いなー。今のうちにナデナデさせてもらおう。
「つまりこの子をあたしたちの手で、人間らしく育てようっていうのかい?」
「そういうことになるかな。幸いこの子頭はいいみたいだし、きちんと教育してあげればいい子に育つと思うんだ」
「機械、それも兵器と仲良くするなんて……興味深くはありますけど、本当にできると思うんですか?」
うーん、なんだか皆乗り気じゃないな?
原作だと僕が言い出すまでもなく、そういう流れになったっていうのに。
「できるさ。絶対に相容れないと思われてた僕たち貴族と平民だって、こうして仲良くできただろう? だから、不可能じゃない」
実例をこの目で見てきたから言えるセリフなんだけどね。嘘やハッタリを言ってるわけじゃないし、既にこのグループは仲間となりつつあるから問題ないでしょ。僕はオマケみたいなものだけど。
「……ハハッ、なんかライアさんにそう言われると、出来そうな気がしてきますね」
「まあ、確かにパッと見じゃ兵器になんて全然見えないしな。せっかくだから仲良くやろうっていうのは、俺も賛成だぜ!」
「ライアは昔からよく犬とか小鳥とか拾ってたけど、それが今回は機械の女の子だなんて……しょうがないねえ、全く。あたしも放り出すのは後味がわるいし、手伝うよ。そ、それに、育てるっていうならお父さんとお母さんが必要だしね、うん」
「私はマスターの意向に従うのみだと宣言します」
よし! 僕なんかの言葉で納得してくれるかは微妙なところだったけど、なんとかなったか! やっぱりジュリーの天使っぷりが効いたに違いない!
無事に皆の合意を頂けたことで、ここに『ジュリーちゃんの人間教室』が開催されることとなった。
▽○△
さて、そろそろ説明が必要だろう。
もちろん、僕は別に善意でジュリーに情操教育なんてしようとしてるわけじゃない。
僕と彼女の間に結ばれた契約を解除するには、ジュリーに人間と同等の「自我」に目覚めてもらう必要があるからだ。
実は原作で、前に話したもう一人の雷使いが、レイヴからジュリーとの契約を奪い取るという事件があった。 契約した相手に絶対服従であるジュリーは、命じられるがままレイヴたちに襲いかかった。
だけどジュリーはレイヴとの交流を通して成長した自我、レイヴへの想いで契約という呪縛を破って見せたのだ。愛の力って偉大だよね!
つまりジュリーの自我を成長させ、彼女に自力で契約を破らせて、レイヴに乗り換えてもらおうという作戦だ。 なーに、問題はない。好き嫌いが生まれるぐらいの自我が芽生えればジュリーも、
『こんな地味で無能で性根も腐ってそうな糸目が御主人様とか最悪! こんなヤツはさっさとポイ捨てして、あっちの優秀なイケメンにご主人様になってもらいましょうそうしましょう!』
とか言ってレイヴに鞍替えすること間違いなし!
見た目も中身もイケメンな主人公と、見た目だけはそこそこで中身最悪のわき役。どっちがいいかなんて比べるまでもないからね。
僕は危険に巻き込まれるフラグを回避できてハッピー。 レイヴもヒロインを取り戻せてハッピー。 フレアもライバルの登場で恋愛に張り合いができてハッピー。 物語が本来の道筋に戻って、これで皆がハッピーだ!
上手くいけばレイヴとジュリーの仲を進展させた立役者として、さらに恩を売れるかも……!
さすがは僕! 多少のピンチなんて容易くチャンスに変える男!
ふは、ははは、ハーッハッハッハッハ!
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