第二章 やられ役Lは人間教室を開催する
第十話:ちなみに校舎の壁を何枚もぶち抜いての登場
人型古代兵器ジュリーは、この物語に置けるもう一人のメインヒロインだ。
ひよこで言うところの刷り込み機能で契約したマスターに絶対服従し、敵の殲滅からマスターへの奉仕までこなす機械人形。 世の男どもが思わず舌なめずりする肢体の内に、単体で国一つさえ滅ぼせる兵器をいくつも搭載している。
ただ命令に従うだけの人形だった彼女は、レイヴとの交流を通してやがて人間と同じ心に目覚め、唯一無二のパートナーとして、レイヴと共に世界の命運をかけた戦いへと身を投じる。
…………はず、だったのに。
もう一度言おう。どうしてこうなった!?
▽○△
「――古代兵器が人間を襲うようになった原因には諸説あり、最も有力とされているのは、古代兵器を生産する《工場》の暴走である。本来なら敵国の人間だけを狙うロックオン機能が、全ての人類を殲滅対象に設定してしまったわけだ。さらに設定が書き換えられた原因についても、コンピューターの誤作動から何者かによる陰謀まで多数の説が――」
「はあ……」
先生の話もほとんどがすり抜けていく頭を抱えて、僕は何度目、否何十度目かのため息を吐く。成績優秀な僕にかかれば授業の内容なんて暗記済みだし、なにより授業どころじゃない。
なんの間違いか、レイヴのパートナーとなるはずのジュリーと僕が《契約》してしまった。 最悪の事態だ。ヒロインがわき役のパートナーなんて、物語が破綻するじゃないか!
この先に待ち構える世界の危機を救うには、レイヴとジュリーの絆が必要不可欠なんだ! それにフレアが成長するためにも、レイヴ、ジュリーとの三角関係は必須! なんとかして、話の流れを原作に引き戻さないと……!
「ぬううう……」
「随分悩んでるみたいだな、ライア。やっぱり、ジュリーのことか?」
「やあやあレイヴくん。英雄様は朝から皆にチヤホヤされてご機嫌みたいだね。僕なんか朝から流れ星になったっていうのに」
ヒソヒソ声で話しかけてくるレイヴに、僕もヒソヒソ声で皮肉を返す。
サーヤが徹夜で作った新聞で、雷の精霊使いとして目覚めたことは半日とかからず学園中に広まり、レイヴは一躍英雄となっていた。 平民からは貴族に正面から喧嘩を売った度胸も買われて、期待の新星としてグループのリーダーに祭り上げられている。
……ちなみに新聞ではなぜか僕のことも、『冷静沈着に戦況を見極め、的確なサポートでチームを勝利に導いた指揮官』なんて書かれていた。
やれやれ。いくら話題つくりのためでも、捏造はよくないと思うよサーヤ? ジョージくんの取り巻きたちが『ライアさんが的確にサポートしてくれたおかげで、初めての戦闘でも戦い抜くことができました!』なんて証言するわけないだろうに。
「英雄とか言われてもなあ……使える属性が雷ってだけなのに、皆騒ぎ過ぎだろ。そんなに凄いことなのかよ?」
「精霊魔法が実用化されてからの五十年間、雷の精霊を操れたなんて事象は一度も確認されてないからね。理論上ありとあらゆる物質に精霊が宿っているとされているけど、実際に人間が干渉できたのは火・水・土・風の四属性だけ。少なくとも、これまではね」
僕の解説を聞いても、レイヴは釈然としない顔だ。
「つまり、俺は凄く珍しいから騒がれてるってことか?」
「物珍しさもあるけど、君は言わば人類の天敵である古代兵器の天敵だよ? なにせあれだけのハウンドを一発で全滅させたんだ。古代文明の書物にもそれらしい記述はあったけど、これで古代兵器に雷が最も効果的であることが実証されたわけだからね。君は人類の切り札、いずれ人類の命運を背負う存在になるだろう」
「じ、人類の命運を背負うって、そんな大袈裟な……」
いやいや。君が世界を救う英雄になるのは確定した未来だから、諦めて頑張ってね♪
僕は君の分も、平凡で平穏な幸せを手にするからさ! 存分に栄華と危険と波乱に満ちた人生を謳歌するがいい!
「おやおや、これからフレアの隣に並び立とうっていう人が、そんな弱気でいてもらったら困るよ? もっとシャキッとしてもらわなくちゃ、幼馴染の僕が安心して任せられないじゃないか」
「な、なんでそこでフレアの名前が出てくるんだよ!? そ、それに任せるってなんの話だ!?」
「さてさて、なんの話だろうねー?」
ハッハッハ、照れてる照れてる。もう名前で呼び合う仲になってるくせにー。
どうせ両想いになるんだから、もっと押せ押せで行けばいいのにね。まあ、色々悩んで戸惑って、すれ違ったりもしていくのが青春ってものか。僕の青春はドブ色だったけどね!
「第一、フレアはお前のことを……」
「ん? なにか言った?」
「そうだな。授業も聞かずになにを話していたのか、先生も気になるところだ」
あ。
鋼鉄の手が、僕とレイヴの頭をガッチリホールドする。
しまった、今はトーラ先生の授業だったああああ! この人、精霊魔法の基礎と歴史、両方の科目を受け持ってるんだよ!
「さすがは次世代の英雄。私の授業など聞くまでもないというわけか」
「あ、いえ……」
「違っ、違うんです……」
「ならば先生もかつては英雄と呼ばれた身、新旧の英雄対決と洒落込もうか!」
なんでそうなるんですかああああ!?
レイヴはまだしも、僕はただのわき役ですよ!? モブキャラですよ!?
かつて戦場で『二本足の白虎』と恐れられたトーラ先生相手じゃ、デコピン一発であの世行き確定じゃないですかああああ! 現に原作で先生のデコピンを受けた僕は、僕は……うわあああああああ!
「ちょ、先生! ここ教室! ここ教室ですから!」
「教室だろうと病室だろうと、敵は戦場を選んではくれないのだ! いざ尋常に――!」
いやああああああああ! 殺されるうううううううう!
ドゴオオオオオオオオンッッ!
「のわああああ!」
「と、扉が吹き飛んだああああ!?」
「一体なんだというのだ! あと少しであの出来損ないが――ぶべあ!?」
な、なんだ!? 僕の体が爆散した音、じゃないみたいだけど。
爆散したのは、教室の扉!? なんか端っこで、ジョージくんが大きめの破片を喰らってひっくり返ってる。 というかこのシチュエーション、確か原作でもあったような――!
「殲滅対象を確認。マスターに害する敵を排除します」
「むうん!!」
ガキイイイイン!
金属同士がぶつかり合うような音と共に、衝撃波が生徒たちの肌を打つ。
いつの間にか僕の前に現れた銀髪の少女が、トーラ先生に拳を叩きつけていた。トーラ先生は両腕をクロスしてガードしたけど、僅かに足が後退している。
「ジュリー!?」
「ご無事ですか? マスター」
今度はちゃんとスカートも穿いた姿で、ジュリーは僕を背に庇って立っている。
なにやってんのこの子!? 部屋で待機してるように言ったのに!
マスターである僕の危機を察知して、飛んできたのか?
確かに命拾いしたけど、この状況は……!
「と、トーラ先生を拳で後退させやがっただと!?」
「何者なんだあいつ!?」
「一目惚れだ! 結婚してくれええええ!」
いや、むしろ驚くべきなのは、人型とはいえ古代兵器の拳を正面から受け切った先生の方だと思う。まあ見た目は完璧美少女だから、そう思うのも無理はないけどね。
後、いきなりプロポーズかました誰かさんは表に出ろ。
「ふむ……見覚えのない生徒だな。ライア、お前の知り合いか?」
さすがはトーラ先生。生徒(の格好をした古代兵器だけど)の拳で退けられたっていうのに、まるで動じていない。
思い出した。これは原作でもあった、一日目にしてジュリーの存在が学園にバレちゃうイベントだ。レイヴと僕のポジションがまるっきり逆になっちゃってるけど…… いやもう、本当にチェンジプリーズ。
実はピクシヴにて本作の宣伝も兼ねて、ライアとフレアの過去がちょびっと明らかとなる短編を投稿しました!
本当は理想郷の方に投稿する予定だったのですが、なぜかエラーとしか出なくて投稿できず……できるようになったらあちらには投稿しようかと思います。
もしよろしければそちらも読んで頂き、ついでにこの作品をまだ知らない方々に広めちゃってください!(懇願)
追記:申し訳ありません! 肝心な短編のタイトルを忘れていました!
『獅子は道化師に恋をした』になります。
これだけ見ると、なんて純愛物だよという(笑
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