ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第二章 やられ役Lは人間教室を開催する
第九話:新しいー朝が来たー(棒読み)

「――という夢だったのさ!」
 ガバリ! と飛び上がるような勢いで僕は起床した。
 いつもの天井。いつもの部屋。…………うん。やっぱり夢か。
 そうだよねー! まさかレイヴに代わって僕があの子と契約しちゃうなんて、そんな《マンガ》みたいにベタベタな展開があるわけ――
 むにゅ。
 …………え、なに? この手に伝わる、非常に柔らかくて温かい素敵な感触は。
 全身が硬直して動かず、僕は視線だけを手の方へと向ける。そこには、天使がいた。
 腰まで届く長い銀髪をベッド一面に広げて、天使は僕の下半身に覆い被さっている。下着とシャツだけを身に纏ったその姿は、ある意味全裸よりも刺激的だ。 主に剥き出しの脚線美とか、ボタンが二個も外れた胸元から覗く谷間とかカカカカカカカカカカカカ。
 まずい。これはまずい。相手が人間じゃないとわかっていても、理性が持たない!
「お目覚めですか、マスター」
 そんな僕の葛藤を知ってか知らずか、天使は僕の体にもたれかかりながらこちらを見上げてくる。 その目にも表情にも、人間らしい感情は欠片も見受けられない。今の彼女は、まさしくただの人形なのだ。
 それがわかっていても、僕は彼女に見惚れてしまう。原作の僕がそうだったように、彼女から目を離すことができない。
「おはよう、だよ。一日が始まったら、まずはその挨拶からだ」
「……おはようございます、マスター」
「おはよう、ジュリー」
 おそるおそる、僕は鋼鉄の天使――ジュリーの頭を撫でた。
 それが神に唾を吐きかけるような所業に思えて、手がガクガクと震える。だけど、これは必要な行いなのだ。彼女を、僕から解放するために。 まあ起きた際の手がやんごとなきたわわな果実に触れちゃってた時点で、僕の電撃or焼却による極刑は確定済みだけどね!
「ところで、どうしてジュリーはフレアの部屋じゃなくてここにいるの?」
「常にマスターの傍にお仕えするのが、私の役目です」
「どうしてジュリーは僕に覆い被さっているの?」
「マスターの護衛と奉仕を両立するのに、最も効果的な体勢と判断しました」
「どうしてジュリーはスカートを穿いていないの?」
「入室する際に、ドアと挟まって脱げました。再装備方法がわからず、また奉仕の上でこのままの姿の方が効果的というデータが算出されたので放置しました」
 ……うん。こんな状況になってる経緯は大体把握した。
 でもここまで淡々と応じられると、さすがに萎えるわー。いやらしい気持ちなんて湧いて来ないわー。
「マスターの下半身から感知される熱量から、このデータが現代に置いても通用することが実証されています」
 ごめんなさい嘘つきました! これはこれでとか思いましたああああ!
「それでは、性欲処理を開始いたしますか?」
「しなくていいから!」
 お腹からさらに下へ移動しようとするジュリーの頭を、慌てて押さえる。
 今の状況でさえやばいのに、手を出したりしたら僕はレイヴに殺されちゃうって!
 バゴオオオオン!
 って、部屋のドアが吹き飛んでこっちに襲いかかってきたぁぁぁぁ!?
「マスターに対する攻撃を確認。排除します」
 驚きのあまり避けることもできない僕に代わって、ジュリーが動く。
 バキィ!
 スプーンより重い物も持てなさそうな細い腕が、砲丸のような勢いで飛んできたドアを粉々に砕いた!
 さ、さすがは天使の姿でも古代兵器……素手でも途轍もないパワーだ。
「ラーイーアー……!」
 ああ、僕を殺しにきたのは雷神じゃなくて鬼神でしたか。
 ドアを失った部屋の入り口から現れたのは、紅蓮の炎を纏う赤鬼だった。
「えっと、フレア、さん?」
「どうしたんだいライア? さん付けなんて、幼馴染のあたしに対して随分と他人行儀じゃないのさ? ……まあ、そんな美少女が隣にいたら、あたしのことなんてどうでもよくなるのも無理ないかもねええええ!?」
 ぎゃああああ!? 牙を剥き出した笑顔が超怖いぃぃぃぃ!
 まずいぞ! 今のフレアには、僕が美少女を無理やりベッドに連れ込んでる変態下衆野郎にしか見えてないんだ! このままじゃ灰も残さずに焼却されちゃう!
「ちょ、待ってよフレア。これは誤解――」
「あんたもあんただよジュリー! 朝起きたら姿が見えないから、まさかと思って来て見れば……! せ、せ、せい……処理とかなに言ってんのさ!?」
「私はマスターの盾であり、剣であり、奴隷であり、愛玩道具でもあります。従ってマスターの性欲処理をするのも私の役目です。妻でも恋人でもない貴女に、口を挟む権利は皆無だと判断します」
「い、言ってくれるじゃないのさ、この機械人形……!」
「あの、落ち着いてフレア。ジュリーもちょっとお口にチャックしててくれないかな」
 僕が無垢な天使によからぬことを吹き込んだと誤解するのもわかるけど、床が燃えるのを通り越して溶けそうな熱量の炎を出さなくてもいいんじゃないかな!? そのままだと床をぶち抜いて地面まで潜り込んじゃいそうだよ!?
 ジュリーももっと自分の体を大事にして! いずれレイヴのパートナーとしてあんなことやこんなことする体なんだから! 僕みたいなわき役で汚しちゃ駄目でしょうが!
「ライアの……馬鹿ああああああああ!」
「びゃああああああああ!?」
 次の瞬間、僕の部屋は爆発した。
 後で聞いた話によると、窓から大砲みたいな勢いで飛び出して、林の向こう側へと消えていく僕の姿が目撃されたらしい。 たぶん、ジュリーが僕を逃がすために投げ飛ばしたんだろう。
 流れ星になったような感覚、薄れていく意識の中で僕は思った。
 ――本当に、どうしてこうなった。
 ――こういうのって主人公の、レイヴの役目だろうに……



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。