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第一章 やられ役Lは満を持して物語に介入する
  幕間その二:サブヒロインSは更なる波乱万丈を期待する

 どうやら私、サーヤの運気は今年、史上最高レベルに鰻登りのようです。
「ライア……本っ当に、その子とはなにもなかったんだろうね!?」
「どんだけ信用ないのさ僕!? だからこの子は地下の施設の、あのカプセルに入ってたんだって! 裸だったのもそのせいだし、やましいことはなにも――」
「私はマスターと契りを交わし、彼の永遠の奉仕者となった関係だと宣言します」
「ライアアアアアアアア!?」
「なんで誤解を招く言い方するのさ君はー!」
 洞窟の出口へ向かう道を進みながら、夫婦漫才を繰り広げるライアさんとフレアさん。
 その間に挟まれているのは、銀髪をなびかせフレアさんにも負けない美貌を持つ半裸(ライアさんの上着装備)の美少女。 ライアさんのお話が正しければ、なんと歴史上でも未確認の人型古代兵器だということではないですか!
 いやあ、入学初日からそんな歴史的発見に立ち会えるなんて、少数派に回る危険性も承知で彼らと接触した甲斐がありましたよ!
 さすがに彼女に関する公表には慎重な吟味が必要ですが、これは今から徹夜が楽しみですよウヘヘヘヘ。
 おや? 誰ですか私の肩を指で突っつくのは? って一人しかいませんけど。
 三人に続いて一緒に歩いていたレイヴさんが、ひそひそ声で私に尋ねてきます。
「なあなあ。さっきの話、本当だと思うか?」
「彼女が古代兵器だ、という話ですか? 古代兵器かどうかはともかく、まず普通の人間ではないでしょうね。地下で目にしたあの施設から考えて、間違いなく彼女は古代文明の産物ですよ」
 地上に戻る際、当たり前のように古代文明の設備(エレベーター、という名称の昇降機だそうです)を動かしてましたしね。
「……それと、これは私の直感なんですけど。彼女の声の響き、ハウンドの唸り声とどことなく似ている気がするんですよねえ。電子音声、と呼ばれる自然界にはない声の類らしいんですけど」
「そういえば、確かになんか変わった声だったな。喋ってる内容もチンプンカンプンだったし」
「それは単にレイヴさんがお馬鹿さんなだけです。それに――」
「まだなにかあるのか?」
「そっちの方がおもしろそうじゃないですか♪」
「オイッ!?」
 だってえ。美少女の姿をして実は古代兵器、なんて超美味しい特ダネじゃないですか! これを記事にしたら何百部、いや何千部売れることか! 営業範囲を学園外にまで拡大すれば、一万部以上だって夢ではありませんよ!
 まあ、さっきも言った通り、安易に公表していい話ではありませんけど。さすがに私だって良識というものはありますしね。
 それに……ライアさんに、口止めされちゃいましたし。
『この子はまだ本当の意味でなにも知らない、生まれたての子供みたいなものなんだ。だから兵器だなんだって騒ぎ立てるのは、周りのためにもこの子のためにもよくないと思う。 真実を示したい君のジャーナリスト魂もわかるけど、今は内密にして置いてくれないかな?』
 なんて、全くジャーナリストを言いくるめようとはいい度胸ですよ。
 なんですか。糸目で笑顔を絶やさないとかいかにも胡散臭い顔してるくせに、あんな真剣な声音で懇願するなんて……レイヴさんの雷から私を庇ったときといい、あの手口でフレアさんの他に何人の女性を誑し込んでいることやら。
 全く、いい度胸ですよ本当に。
「ええい! あんな得体も知れない身元不明者をヴォルケイノくんに近づけるな! 危険なバイ菌でもついていたらどうするんだ! 彼女に怪我の一つでもあれば全貴族の、いや全人類の損失だぞ!」
 あーもう、うるさいですね。
 最後尾でギャーギャー喚かないでくださいよ、マクラインさん。
 ちなみに私たちが地下に行って戻ってくるまで気絶してたことと、ライアさんの「秘密を共有する人は少ない方がバレにくい」という意向で、マクラインさんと取り巻きの皆さんは彼女を「記憶喪失で身元不明な謎の少女」として認識しているのです。
「そう思うなら、自分でフレアに言えばいいじゃないか」
「私が言ったらグーで殴られたんだよ君らも見てただろ!? あと平民の分際でヴォルケイノくんを気安く名前で呼ぶな!」
 はいはい、確かにバッチリ見てましたよ。フレアさんの実に見事な右ストレートで、マクラインさんの体が捻じれるように三回転した後、「ぷぎゃん!」と潰れるような悲鳴を上げつつ壁にへばりつく様を。
 そりゃ気になる男子が他の女子とくっついてるのを黙って見ていろ、なんて言われたら、怒るのも当然だと思いますけど。
「頬に拳の痕がクッキリと残ってますしねえ。いっそ記念に型でも取ったらいかがですか?」
「……はっ!」
「いやなに、その『その手があったか!』って顔!?」
 じょ、冗談だったんですけど……貴族様が考えることはわかりません。
 取り巻きの人たちがドン引きしてるのを見て慌てて「べ、別に額縁に入れて飾ろうなどとは思っていないぞ!」なんて否定してますけど、どう見ても語るに落ちてます。
「くそう、それもこれもあの出来損ないのせいで……!」
 取り巻きさんからの生温い視線から顔を逸らしつつ、忌々しげにライアさんを睨むマクラインさん。
 やれやれ、男の嫉妬は見苦しいですよ? 乙女の嫉妬は時々陰惨ですけど。
「つーか、そもそも他人を出来損ない呼ばわりするようなヤツに、フレアが靡くとは思えないけどな」
「黙れ平民! 不測の事態が起きずに私の完璧な計画さえ成功していれば、今頃はヴォルケイノくんとヴァージンロードを歩いていたはずなんだ!」
 ヴァージンロードを花嫁と歩くのは父親の役目ですよ?
 それに計画って、洞窟探検でライアさんをビビらせてフレアさんの目を覚まさせる、とか話してたアレのことですか? まあ悪巧みとしてはお約束な感じですけど、相手が悪かったとしか言いようがありませんね。
「でも結局、ジョージさんの完敗だったよな」
「逆に俺たちが情けない姿を晒しちまったし……」
「な、なにを言ってるんだ!? あの出来損ないを庇うつもりか!?」
「いや、庇うもなにも……」
「ライアさんに助けてもらわなかったら、僕ら死んでましたし」
「全くです。マクラインさんは一体なにを見ていたのですか?」
 古代兵器に急襲されて、戦いの経験なんて皆無だった私たちは、だけど一人の犠牲も出さずに生き残れた。それはフレアさんやレイヴさんもそうですが、なによりライアさんの活躍があったからこそです。
「あ、あいつはハウンドを一体も倒していないではないか!」
「直接的には、確かにそうですね。ですがライアさんが冷静に状況を見極め、的確にサポートしてくれたからこそ、私たちはこうして一人も欠けることなく戦いぬけたのではないですか」
「ライアは『皆が頑張った結果だ』って言ってたけどな」
 全員が協力して力を合わせたからこそ、初陣を勝利で飾れました。
 だけど戸惑うばかりだった私たちを落ち着かせ、魔法やアドバイスでサポートし、勝利へ導いてくれたのは間違いなくライアさんの功績です。
 真実を伝えるジャーナリストとして、これは本人が否定したって譲れませんよ。
「き、貴様ら平民の力など借りずとも、私たちだけで――」
「泣き喚きながら魔法乱発してたヤツが言うなよ」
「一番情けない姿晒してましたからね」
「~~~~っ!」
 まさにぐうの音も出ないといった顔ですね。ざまあないです。
 まあ、彼が乱発したおかげでおもしろそうな特ダネげふんげふん。興味深い調査対象が見つかったわけですし、そこだけは感謝しなくもないですけど。
 ライアさんも、きっとなにか考えがあってあの子を連れていくことにしたんでしょう。
 人型古代兵器の到来が私たちの学園生活、特にライアさんとフレアさんの関係になにをもたらすことやら……いやはや、楽しみですねえ。
 両手の指で作った四角形に三人を収めながら、私の心は期待に溢れていました。

 幕間パートツー。
 ちなみにパートスリーはヒロインFの予定です。


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