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第一章 やられ役Lは満を持して物語に介入する
第八話:詰んだ。
「それにしても、雷の精霊魔法なんて初めて聞いたよ」
「ライア、話を誤魔化そうとしてないかい?」
 滅相もありません、親分。
 昔から慣れてるとはいえ、怒ったフレアの拳骨は強烈だよ。頭が砕けるかと思った。
 そりゃ、婦女暴行を働いてると誤解されるような体勢だった僕も悪いけどさー……
「な、なにはともあれ、なんとか無事にハウンドを撃退できてよかったよ」
 ハウンドたちは煙を上げて、一匹残らず停止していた。 あまり知られてない事実だけど、古代兵器は雷が大敵なのだ。実際、自然の落雷を受けて機能を停止した事例も少ないながら確認されている。まあ、ウエストリア王国での発見じゃないんだけどね。
「正確には、無事じゃない人が数名ほどいますけど」
「ま、まだシビビビビレレ……」
 ハウンドたちの横で、レイヴやジョージくんたちが小刻みに痙攣していた。レイヴだけ気絶しないで済んでるのは、雷の精霊使いとして耐性ができているからだろう。
「ま、初陣としては上出来ってとこかもね。……さっきの雷については、後でじっくり聞かせてもらうよ? レイヴ」
「い、いや。俺にもなにがなんだかサッパリで……あれ? 今、名前――」
「それにしてもこの古代兵器たち、一体どこから現れたんでしょうねえ?」
「さすがにこれ以上の調査は、学園に任せた方がいいと思うよ。皆もうくたくただし、今日のところは引き返そう」
 本当に疲れた。糖分補給に甘い物でも食べて、お風呂でサッパリ汗を流したいなー。
 命をかけた戦闘なんて、もう二度とごめんだよ。あ、でも二週間後にもう一度だけ戦闘に参加しないといけないんだった……
 とにかく、これでミッションコンプリート! 雷の精霊使いとして目覚めたレイヴには今後、僕の平和とついでに世界の平和のためにどんどん頑張ってもらわないとね!
 後はレイヴが地下遺跡に繋がる穴に落っこちて、その先でもう一人のメインヒロインとの出会いを果たすだけだ! 原作だと、僕が闇雲に放った魔法でひび割れた地面からレイヴが落っこちるんだよね。
 バキバキバキッ。
 そうそう、こんな風に地面が砕けて――
「え?」
「へ?」
「は?」
「なっ!?」
 僕に代わってジョージくんが放った魔法で、地面に亀裂が入っていたらしい。
 足場を失い、吸い込まれるようにして落下していく。

 レイヴじゃなくて、僕が。

 もう一度言おう。レイヴじゃなくて僕が、だ。

「ぬああああああああああああああああ!?」
「ら、ライアアアア!」
 え、なんで!? なんで僕が落ちてるの!? これはレイヴの役目でしょ!?
 内心の驚愕や混乱を置いてけぼりにするような勢いで、僕の体は下へ下へと管のような空間を滑り落ちていく。 グニャグニャした道になってるらしく、上下左右に体が揺さぶられて、は、吐き気が…………うえ。
 というか、やばいやばいやばい! こんな勢いで下に着いたら、僕の体は地面との摩擦で削れてすりリンゴみたいになっちゃうよ! 原作のレイヴはどうやって生き残ったのさ!?
 なにか、なにか手は……あ!
「そうだ! 古代文明の書物を元に僕が作った工芸品の一つ、《ローラー・スケート》!」
 僕はなんとか体勢を立て直すと靴の横、くるぶしの部分に拳を叩きつけた。
 すると、靴底から車輪が出現する!
 この車輪で、着地の衝撃を上手い具合に受け流せば……!
 なんてやってる間に、出口の光が!
「ぬお……おおおおおおおお!?」
 ギャリギャリギャリギャリギャリッッ!
 正直、僕の計算は甘かったとしか言いようがなかった。
 車輪で衝撃を受け流したところで、勢いそのものは止まらない。それどころか車輪のおかげで加速した結果、
「へぼあ!?」
 ドガッ!
 馬車にも匹敵するスピードで、壁に激突する羽目になった。
 くおおおお……! 潰れて壁と同化しちゃうんじゃないかと思ったよ。
「いたたたた…………あ?」
 壁から顔を剥がして、僕は呼吸が止まった。
 壁だと思ったのはぶ厚い透明な円柱――巨大なガラスのカプセルだ。人間一人は詰め込めそうなカプセルの中に、本当に人が入っていた。 いや、違う。これは人間じゃない。兵器だ。僕はそれを知っている。
 それなのに僕は、目の前のそれが天使にしか見えなかった。
 色素の抜けた白髪ではなく、月光のごとく輝く銀色――貴族にも存在しない髪色をした少女。未だ笑うことも泣くことも知らない無垢な顔立ちは、人間の手で創り上げられたとは到底信じ難い。
 緑色の液体の中に浮かぶその裸身は、ただただ美しいとしか形容する言葉が見つからなかった。いやらしい気持ちなんて湧き上がる余地もない。
「う、あ……」
 間違いない、この子だ。
 この子が物語の、世界の鍵を握るもう一人のメインヒロイン。
 愛らしい姿の内に恐ろしい兵器の数々を宿し、それでも人間となんら変わらない心を持っている人型古代兵器。
 レイヴによって名前と心を与えられ、人類の味方となって戦う鋼鉄の天使だ。
「……………………ハッ! 暢気に見惚れてる場合じゃない!」
 なんの手違いかレイヴの代わりに僕が落ちてしまったけど、この子を見つけられたのは幸いだ。なんとかレイヴをここに連れてきて、彼女と《契約》させないと!
 問題ない。きっと僕を探して皆も下りて……来て、くれるよね? 「まあライアだし、別に見捨てていっかー」なんて言って先に帰っちゃったりしてないよね!? どうしよう、ちょっと自信持てないんだけど僕!
 ピシ。
「え?」
 なに、今の音?
 なにかがひび割れるような音が――
 ピシシッ。
「って、カプセルにヒビがああああああああ!?」
 なんで!? もしかしてさっき、僕が激突したせい!?
 まずい、早くレイヴを呼ばないと! 早く来てよレイヴ! 間に合わなくなる!
 いや、その前にどこかに隠れるべきか!? でもここ、怪しげな機械が並んでるばかりで隠れられるような場所がない! 緊急脱出ボタンとか用意しといてよ! 自爆ボタンは勘弁だけど! ああもう、早く隠れなきゃ取り返しのつかないことに――
 バキバキバキバキバキバキバキバキッッ!!
 あ。
「…………」
「…………」
 カプセルが砕け、緑色の液体が床一杯に広がる。
 鋼鉄の天使が小さく身震いして、濡れた銀髪がキラキラと光の粒を散らす。
 そして真っ白な肌の瞼がゆっくり開かれ、深い黒の瞳に映る僕の間抜けな顔。
「…………『動力部、異常無し』『運動回路、異常無し』『感情回路、異常無し』『安全装置、正常稼働』『起動開始』『マスター対象確認』『登録開始』『登録完了』……私は貴方の忠実なしもべです。なんなりとご命令ください、マイ・マスター」
 常人にはよくわからない単語をツラツラ並べた後、鋼鉄の天使は僕の足元に跪いた。
 ――ああ、駄目だこりゃ。
 僕の僕による僕のための物語は、初日からデッドエンドが確定した。

 深刻な原作乖離が発生し、物語が大きく動き出す……!
 前に、次回は幕間をば。


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