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第一章 やられ役Lは満を持して物語に介入する
第六話:告白を予告すると死んじゃうというお約束
 えーと、そういうわけで、僕も洞窟探検に参加することになりました♪
 ……いや、本当になんでこうなったの!?
 僕は心の中で皆にエールを送りつつ、穏やかなティータイムを過ごす予定だったのに!
「め、滅茶苦茶暗いなここ……壁に松明の灯りはあるけど、ほとんど先が見えないじゃないか」
「なにさ、もう怖気づいたのかい?」
「だ、誰が!」
「いやあ、いかにもなにか出てきそうな洞窟ですね。わくわくしてきます」
 現在、僕はレイヴたちと一緒に洞窟の奥へと進んでいる。 レイヴの言う通り、松明の火でかろうじて照らされているけど、洞窟の中は薄暗くて先がよく見えない。ちょっとでも気を抜いたら、先頭を歩くジョージくんたちを見失いそうだ。
 なんか断れる空気じゃなくてついて来ちゃったけど……どうしよう!?
 このままじゃ、僕まで戦闘に巻き込まれるじゃないか! 貴族グループ(ジョージくんとその取り巻き数人)と平民グループ(サーヤの集めた約三十人)の間に挟まれてるから、こっそり離脱することもできないし!
「それにしても、意外でした。てっきりフレアさんは、こういうイベントは『くだらない』の一言で済ませるタイプだと思ってたんですけど」
「くだらないとは思ってるよ。実家の家庭教師なんかで前もって精霊魔法を学んでる貴族だけなら、あたしも放って置いたさ。 だけどロクに戦いも知らない平民が参加してるとなると、万が一のときに殿を務めるヤツが必要だからね。あの馬鹿どもがそれをやるとは思えないし」
 確かにジョージくんなら万が一のとき、殿どころか平民たちを囮にして自分だけ逃げるだろうね。
 ん? ということは――
「もしかしてフレア、いざというとき俺たちを守るためについて来てくれたのか?」
「べ、別にそんなんじゃないよ! ただあたしは、ライアはきっとそうするだろうから、それならあたしも手を貸そうかと思っただけで!」
 おやおやー? なるほどそういうことだったのか。
 レイヴのことが心配で、だけど素直に言えないから僕をダシにしたと。
 原作だったらこのとき、

『戦う力も意志もないヤツは田舎に帰れ』

 って平民を助ける気は皆無だったのに、もうすっかりレイヴにメロメロなんだねー。 ちょっとガードが甘くなったぐらいのはずだけど、そこから心の門をこじ開けちゃうのが主人公補正といったところか。さすがはレイヴ。
 ……そう考えると、ダシで巻き込まれた僕って完全にとばっちりだよね!?
「ほほう? つまり私たちではなく、ライアさんが心配でついて来たということですか?」
「わ、悪いかよ! あいつ、昔から他人のために無茶するっていうか、自分を蔑にしてるとこあるからさ……放って置けないんだよ」
「そうして世話を焼くうち、切なく温かな感情が芽生えていった、と」
「ち、ちちち違うよ! ただの幼馴染の腐れ縁で、そんなんじゃないからね!」
 いや、いやいや待つんだ僕。クールになれ、ライア・クラウン。ここでヤケになったら負けだ。 考え方を変えよう。これはピンチじゃなくてチャンスだと!
 そうだ! ここでレイヴとフレアに恩を売って、よりコネを強固なものして置こう!
 さすがは僕! ピンチさえチャンスに変える男!
 ふは、ははは、ハーッハッハッハッハ!
「さっきから黙ったままだけど、どうかしたのか?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考えごとをね」
 セーフ! 危うく悪党笑いを見られるところだった!
 即座にいつものポーカーフェイスを取り戻して、僕はレイヴの会話に応じる。
「フレアが殿がどうこう言ってたけど、この洞窟ってそんなに危険なのか?」
「あくまで噂話なんだけどね……なんでもこの洞窟、古代兵器(アーチファクト)が出るらしいんだ」
「古代兵器!?」
 レイヴが驚くのも無理はない。
 古代兵器――それは現代に置ける人類最大の天敵だ。
 機械技術で繁栄したと言われる、古代文明が残した負の遺産。かつて無数に存在したとされる国々が、たった四つの島国を除いて滅んだ元凶。 大陸共々海の底に沈んだと思われたんだけど、八十年ほど前を境に海底から現れて、人間を襲うようになった。
 そう。精霊魔法は、古代兵器に対抗するために生み出された。 そして近年の急激な古代兵器増加による圧倒的な人員不足から、平民からも精霊使いを収集する必要に駆られたのだ。
「でも、古代兵器は海から出てくるはずだろ!? なんでこんな山奥の洞窟で!」
「海からやってきたのが知らない間に住みついたのか、あるいは洞窟のどこかが海に繋がっているのか……まあ、単なる噂話だから鵜呑みにするのもどうかと思うけど」
「ですが、それが本当なら面白い記事が書けそうですね」
「ぬわああああ!? だから脅かすなって!」
 気配もなく会話に加わったサーヤに、レイヴ一人だけが絶叫する。
 それにしても、五感と六感を鍛え上げた精霊使いでも気づけないなんて……本当に何者なんだろうかこの子は? 原作でも、僕は結局知ることができなかったしなー。
「言っとくけど、本当に古代兵器が出たらあんたも逃げなよ? あたし、誰かを庇いながら戦えるほど器用じゃないんだからね」
「ご心配なく。自力で危機を切り抜けてこそのジャーナリストですから」
「それ、逃げないって言ってるようなものだよね……」
 ドヤ顔でサムズアップするサーヤに、そのジャーナリスト根性を知りつつも呆れる。
「いざというときは、俺も力を貸すぜ! これでも村一番の力持ちなんだからな!」
「ふん。威勢がいいのは結構だけど、勝手に突っ走ったりしないでおくれよ? 勝手な行動してピンチになっても、あたしは助けないからね」
 おお、早くも主人公&ヒロインタッグの結成か!
 よしよし。連携やフォローを繰り返して、どんどん絆を深めていって欲しいものだね。主に僕の幸福と、ついでに世界のために。
「ま、今のあたしが安心して背中を任せられるのは、ライアぐらいのもんだよ」
 ってそこで子分へのフォローはいらないからね!?
 洞窟に入ってからずっと、チラチラこっちを振り返るジョージくんの目が怖いんだよ! というかさすがの僕もいい加減気づいたけど、ジョージくんフレアにラブだよねこれ!? 徒労に終わる恋だけど、まあ恋するのは人の自由だしそれはいいとして。
 なんでレイヴじゃなくて僕を睨むのさジョージくん!? 僕みたいな落ちこぼれは路傍の石ころと思って放って置いてくれない!?
「おのれ出来損ないが、ヴォルケイノくんを駄犬どもと同列に並ばせるなど……」
「お、落ち着いてくださいジョージさん! イケメンフェイスが崩れ落ちそうです!」
「大丈夫ですよ! この 『度胸試しでライアをビビらせ、その情けない姿でヴォルケイノさんの目を覚まさせ、最後に私のイケメンっぷりでヴォルケイノさんのハートを射止めてハッピーエンド大作戦』 が成功すれば、全て解決ですから!」
「そ、そうだな。この作戦が成功した暁に、私は彼女へぷ、ぷ、プロポーズを……!」
 ジョージくん。かろうじて聞こえてるけどそれ、死亡フラグだから。
 だってこの洞窟――
『GAAAAAAAAAAAAAAAA!』
「きゃああああ!」
「な、なんだよこの唸り声!?」
「うろたえるな平民どもが。単なる風の――ってなんだああああ!?」
 本当に古代兵器の住処だからね♪

次回はいよいよ戦闘回。
元やられ役Lのビミョーな実力が、ついに明らかに……!
まあ、いかんせんビミョーなので活躍はしませんが。


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