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第一章 やられ役Lは満を持して物語に介入する
第五話:こう見えて妻子持ちかつ愛妻家にして親バカな先生

「よかろう、ならば決闘だ!」
「いいぜ! やってやるよ!」
 というわけで、レイヴとジョージくんが決闘することになった。
 え? 過程をすっ飛ばし過ぎだって?
 そう言われても、語って聞かせるほどのことはないんだよねー。 授業の開始早々からジョージくんが『平民なんかに精霊魔法は教えるだけ無駄』なんて主張を偉そうに語り出して、それに突っかかったレイヴと口論の末、さっきのセリフになったのだ。
「それで、勝負方法はなんだよ? 槍でも鉄砲でも持ってこいってんだ!」
「ふん、君を力で叩きのめすは簡単だ。だが、それでは優雅じゃない。貴族たるもの、駄犬を躾けるのにも優雅でなければね」
 優雅云々はともかく、ジョージくんの言葉は真実だろう。
 今の(、、)レイヴじゃ、既にある程度の精霊魔法を扱える貴族には絶対勝てない。
 だけど原作の僕と同様、ジョージくんは別の勝負方法を提案する。
「ここは一つ、度胸試しというのはどうだね?」
「度胸試し?」
「そうだ。この学園の裏山に洞窟があってね。その奥にある祠までたどり着ければそちらの勝ち。 どうだ? 駄犬にもわかる簡単なルールだろう?」
「なんだよ、そんなことでいいのか? こちとら、山の中を遊び場にして育ったんだ。洞窟探検なんて楽勝だぜ!」
 あーあー、あっさり受けちゃったよレイヴ。あのいかにも『悪いこと企んでます』ってジョージくんの顔が見えないのかな? なにを考えてるんだか――って、なにも考えてないんだろうなーきっと。
「なら決まりだね。開始時刻は放課後。僕は有能な部下を連れていくつもりだから、君も怖かったら何人でも群れを作ってくればいい。そうすれば周りに紛れて、泣いて逃げ出す無様な姿も少しは隠せるだろう?」
「けっ! 余裕ぶっこいてられるのも今のうちだぜ! 吠え面かかせてやるからな!」
 レイヴとジョージくんの視線が、バチバチを火花を散らす。
 いやー、さすがは主人公。あからさまなジョージくんのイケメンオーラに、熱血オーラで見事に拮抗している。 意地と意地の激しいぶつかり合いに、僕みたいな凡人が近づけばそれだけで粉々になっちゃいそうだ。
「――先生の授業を無視して決闘とは、青春しているな若人よ」
「「っ!?」」
 そんな雰囲気を苦もなく打ち砕いたのは、細胞がたんぱく質じゃなくて鋼鉄でできてそうな強面の巨漢。 真っ黒で巨大な愛馬がいることで有名な、我らがトーラ・オホーツク先生だ。
 先生の岩をも砕く鋼の拳が、レイヴとジョージくんの頭に乗せられている。
 わかりやすく言えば、万力が頭にセットされている状況なわけで、
「だが決闘をしたければ、まずはその前に私を倒して行くことだな!」
「ちょ、待ってく、ぎゃああああああああ!?」
「ご、ごめんなさ、ぎょああああああああ!?」
 骨が軋むというか既に砕けてそうな音と、二人の悲鳴が教室に響き渡る。
 トーラ先生の授業を邪魔するべからず――この教えが、貴族平民を問わず全ての生徒に魂の領域まで刻まれたことだろう。
 命をかけてそれを伝えてくれたレイヴとジョージくんに、敬礼!

▽○△

「おーい、生きてるかい?」
「な、なあ……? 大丈夫か? 俺の頭、変形しちゃってないか?」
 無事(尊い犠牲二人を除いて)に授業を終えて、僕は机に突っ伏したまま動かないレイヴに声をかける。
 よしよし、ピクピク痙攣してるけど生きてるな。原作でもあったことだから死なないのはわかってたけど、味わったことのある身としては、もしものことがあるからね……無事で本当によかったよ。
 レイヴに死なれると僕の未来が、ついでに世界の未来も滅亡しちゃうからね。まだまだ働いてもらわないと!
「全く、授業中にくだらない言い合いなんかしてるからだよ」
 フレアの呆れたような言葉に、顔を上げたレイヴがふくれっ面になる。そんな表情も愛嬌がある辺り、主人公って色々反則だと思うね僕は。
「なんだよ。平民はクズだの劣等人種だの、あんな好き放題に言われて黙ってろっていうのか?」
「放って置けば、あいつだけトーラ先生のお仕置きを受けてたんだよ。あの人は元軍人で、甘ったれて育った貴族にこそ厳しいことで有名なんだからね。あんたは無駄に突っかかって、無駄にお仕置きの巻き添えをくっただけさ」
「要約すると、『心配したんだから! 無茶しないでよね! プンプン!』ってことだね――あたっ!?」
「なんでそうなんのさ! つーか気色悪い翻訳するんじゃないよ!」
 酷いなー。人がせっかく恋の手助けをしてあげようとしたのに。
 レイヴは鈍感馬鹿だから、もっとストレートに好意ぶつけないと伝わらないよ?
「そ、それとも、あれかい? やっぱり、そういう可愛げのある喋り方のほうがいいのかい?」
「いや、僕は今のままのフレアが好きだけど?」
 そのままの口調でレイヴとくっつくんだし、別に問題はないだろう。
 僕の好み的にも……ってそれはどうでもいいか。
「な、ならいいんだよ」
 いや、なにがさ?
 急に怒ったと思えば、今度は頬が若干緩んでる。
 別にレイヴが無自覚口説き文句を言ったわけでもないのに……うーん、女心は複雑怪奇だね。
「それにしても、初日から二回連続でトラブルの中心人物とは。どうやらレイヴさんはトラブルを引き寄せる体質の持ち主のようですね。ジャーナリストとして、これほど美味しい人材はいませんよ」
「なんというか、これっぽっちも羨ましくならない体質だねー、それは」
 いつの間にか、音もなく背後に立っていたサーヤの言葉に僕はそう返す。
 レイヴのこれは、いわば主人公の宿命といったところだろう。その引き換えに美少女は選り取り見取りだけどね! まあ平穏な暮らしを夢見る僕としては、そこ代われとは思わない。でも爆発はして欲しいかな!
「というか、背後から唐突に現れないでくれないかな」
「気配遮断スキルはジャーナリストの基本ですから」
 それはジャーナリストじゃなくて、スパイとかアサシンのスキルだと思う。
「ライアさんこそ、スキルを発動していた私の気配に気づくとはやりますね」
 いやいや、全く気づいてなかったよ?
 動じなかったのは、原作で散々驚かされてその神出鬼没さに慣れたってだけだし。
「精霊使いにとって、第六感を研ぎ澄ますのは基本中の基本だからね」
「なるほど。噂通りの落ちこぼれなどと侮っていると、痛い目を見るわけですか」
 すいません、適当なこと言いました! ちょっとかっこつけたくなっただけです!
「ところでレイヴさん。洞窟探検のメンバー、三十人ほど集めて置きましたよ」
「多っ!? てかなに勝手に集めてんだよ!?」
「いやー、探検は大人数の方が記事としても盛り上がりますから。そして一人、また一人と減っていけばよりドラマチックな記事に――」
「サラッと恐ろしいこと言うなよ!?」
「記事のために死人出す気かあんたは!」
 盛り上がってるねー。三人のやり取りを、僕は傍観者の立ち位置で眺める。
 この洞窟探検も物語の重大なイベントだから、三人には是非とも頑張って欲しい。
 なにせこのイベントでレイヴの覚醒と、もう一人のメインヒロインとの出会いが発生するのだ。
 戦闘もあるし危ないから、今回僕は静観するつもりでいる。 だって僕が行ったってなんの役にも立てないし、死んじゃったりしたら元も子もない。命は大事にしないとね!
 やられ役はジョージくんがこなしてくれるし、レイヴの覚醒はフレアに任せればいい。
 僕は学園で皆の無事を祈りつつ、声援を送らせてもらおう。
 頑張れ頑張れレ・イ・ヴ! ファイトだファイトだフ・レ・ア! あ、サーヤも頑張れ。
「ライアさんとフレアさんはどうするんですか? この度胸試し、貴族グループと平民グループに分かれて対決する流れになってますけど」
「あたしとライアも、参加はするよ」
「へ?」
 タイム。ちょっとタイム。
 フレアが行くのはいい。レイヴの覚醒のためにも、フレアの参戦は必要不可欠だ。
 でも、なんで僕も一緒に行くのが決まってるのさ!? 僕は戦力外なんだから、謹んで辞退させてもらうからね!
「待っ――」
「ちょ、ちょっといいかね!」
 誰だ人の抗議を遮るヤツは!?
 って、ジョージくんじゃないか。取り巻きを引き連れてなんの用だろう?
「なんだよ、まだなんか言うことがあんのか!?」
「自惚れるな平民が。貴様などに用はない」
 身構えるレイヴにそう吐き捨てて、ジョージくんはフレアの方に向き直る。
 すると突然、それまでの余裕ぶった笑みがビシリと強張った。錆びついたブリキ人形みたいに直立不動のまま、右手だけが謎の動きをしている。なんだろアレ、印でも結んでるのかな?
「や、やあヴォルケイノくん。今日も赤い髪と瞳が素敵だね。もちろん君は外見だけでなく内面も含めて全てが美しいのだが。 ところで君も聞いていただろうけど、僕は放課後平民どもに貴族の威光を示すため裏山の洞窟に向かうんだ。そ、それで、よかったらき、君も参加してくれないか? 愚劣で矮小な平民どもに貴族の偉大さを思い知らせるため、ぼ、ぼぼぼぼ、僕のパートナーとして……!」
 呪文みたいに長ったらしいセリフだけど、要するにフレアを洞窟探検のチームに勧誘してるらしい。
 これも原作の僕とは違うアクションだ。僕の場合は、
『あたしも入るよ』
『そ、そうかい。まあ好きにすればいいさ。い、言って置くけど、リーダーは僕なんだからな!』
 って、フレアの方から参加の意志を表明してきたのに内心ビビってた。
 まあ僕と違って家の確執があるわけじゃないし、普通に同じ貴族として優秀なフレアを戦力に加えようとしてるのかな?
 さて、フレアはどう返事をするのか。
 原作では一応貴族グループに入ってたし、どっちのグループでも物語に支障はないはずだけど……
「…………放課後の洞窟探検、参加はさせてもらうよ」
「おお、それはつまり――!」
「だけど、あたしはどっちの味方もしない。貴族だからとか、平民だからとか、そんなことで争うなんてくだらないしね」
「なっ!?」
 フレアの言葉がそんなに意外だったのか、ジョージくんが絶句する。
 まあ貴族としてはあり得ないセリフかもしれないけど、原作を知る僕としてはそこまで驚くことじゃない。 僕が干渉する前から元々、フレアは身分や立場の違いに頓着するような性格をしていないのだ。
「き、君は貴族でありながら、そこの平民どもにつくというのか!?」
「だから言ってるだろ? あたしはどっちの味方もしない。まあ、強いて言うなら――」
 そうそう、フレアは愛するレイヴの味方……
 あ、あれ? なんで僕の肩に手を回すの? レイヴはあっちだよ?
 これじゃまるで、
「あたしは、ライアの味方なんだよ」
 ……………………いや、なんでそうなるのさ。



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