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第一章 やられ役Lは満を持して物語に介入する
  幕間その一:主人公Rは愉快な学園生活を予感する
 俺はレイヴ。故郷を離れて、このエレメンツ学園に通うことになった平民だ。
 なんかよくわかんないけど精霊魔法? とかいうのを使える素質が俺にあるらしい。
 それが使えれば皆のためになる仕事ができる、っていう話だったから通うことにしたんだ。 昔から誰かの手伝いとかするの好きだったし、魔法とかいうのにも興味があったしな。……体が炎上するような魔法は御免だけど。
 そういえば俺、貴族ってヤツには学園に来てから初めて会ったんだよ。
 人のことを犬呼ばわりするわ、いちいち見下した目で見てくるわで嫌なヤツらだと思ってたんだけど……同じ貴族のヤツらに助けられた。
 ライア・クラウンにフレア・ヴォルケイノ……ファミリーネーム、だっけ? 貴族だけが持ってる家族共通の名前らしいけど、なんか長ったらしくて覚えづらいな。 とりあえず、貴族にもいいヤツがいるみたいで安心した。
「なあなあ、ライアって有名なのか? なんか詳しそうだったけど」
 ライアが文字通りに炎上中のフレアを宥めている間、暇だったんで俺はサーヤにそう訊いてみた。 ジャーナリスト目指してるって話だし、前もって色々と調べてあるらしい。
 だけど同い年の女の子に敬語使われるって、なんか妙な気分だよな……
「まあ、有名といえば有名ですね。そもそも彼のご家族、クラウン家が貴族の中でも名門として名高い家系なんですよ。ただしライアさんの場合、おちこぼれの出来損ないとして有名なんですけどね」
「おちこぼれ?」
「そう言われている原因の大半はフレアさん……本来なら宿敵であるヴォルケイノ家の子女と懇意にしていることなんです」
「こんい?」
「……仲良くするって意味です」
「はあ!? なんだよそれ、仲良くするのがいけないっていうのか!?」
 意味がわからない。
 確かに幼馴染というだけあって、ライアとフレアは凄く仲が良さそうだ。
 でも、それのなにがいけないっていうんだよ!
「だから、本来クラウン家とヴォルケイノ家は犬猿の仲なんですよ。謀略……他人を蹴落とす悪巧みが得意なクラウン家と、軍人の家系でバリバリの武闘派なヴォルケイノ家。 どちらも相手のやり方を心底見下していまして、昔はそれこそ隙あらば戦争起こして殺し合うほどの険悪さだったそうです」
 戦争までするって、どんだけ仲悪いんだよ!?
 それが代々続いてるって、どっちの家もなんか呪われてんじゃないのか?
「しかし今回、長男であるライアさんがフレアさんと仲良くなってしまいました。しかも扱いは子分のようなもので、これを見た周囲がどんな印象を受けると思います?」
「……クラウン家の長男が、ヴォルケイノ家の娘に尻尾を振って降参した?」
「ザッツライト、です。命より名誉を重んじる貴族にしてみれば、これは自分の顔面に泥を塗りたくるような行い。 ライアさんは一族の恥晒しとして周囲から笑い者にされ、ご両親に何度もフレアさんと縁を切るよう迫られました」
「…………」
「それを頑なに拒んだ結果、ライアさんは次期当主の座を弟に奪われ、ほとんど勘当同然の扱いで学園に放り込まれたそうです。 大方、後から来る弟さんの引き立て役にでも利用するつもりなんじゃないですかね」
「なんだよ、それ」
 正直、貴族の事情なんて俺には難しすぎてわかんない。
 だけど、やっぱりそんなのおかしいだろ! なんで親同士の仲が悪いからって、子供同士が仲良くしてそんなに責められなくちゃいけないんだよ!?
「私としてはなにか裏があるか、さもなければ平民に八つ当たりして鬱憤を晴らす小物なんじゃないかと睨んでいたんですけど……」
「けど?」
「正直、ライアさんがクラウン家の悪名にそぐわない好人物で拍子抜けしましたよ。これでも上辺だけの世辞や詭弁を見抜く目には自信があるんですけど、彼の目はこれっぽっちも私たちを見下していませんでしたし」
 あれで嘘なら超一流の詐欺師ですね、とサーヤは冗談めかして笑う。
 そうだ。ライアはあのジョージとかいう嫌なヤツと違って、俺たちに対等な態度で接してきた。 きっと自分も色々嫌な思いをしてきたのに、それを億尾にも出さず笑顔で接してくれた。
 だから、出会って一時間も経ってないけどわかる。
 あいつはきっといいヤツだ。
「ほらほら、フレアの好きなアップル味の飴だよー」
「こ、子供じゃないんだから、飴で宥めようとするんじゃないよ!」
「いらない?」
「……いる」
「おやおや。ライアさんの前じゃ、三大美姫もただの可愛い女の子みたいですね」
「だな」
 本当に仲良しなライアとフレアの様子に、なんだか見てるこっちが微笑ましくなる。
 可愛いというより、かっこいいとか勇ましいって言葉が似合う孤高の獅子。
 最初にフレアに抱いたのは、そんな印象だった。
 だけどライアといるときは年相応の表情を見せて、獅子がまるで子猫みたいで。きっとライアにとってのフレアは、それこそただの可愛い女の子なんだろう。 そこに幼馴染以上の固い絆が見えて、ほんの少し羨ましいと思った。
「いやあ、入学初日から波乱万丈の予感で、私としては非常に美味しい限りですよ。手強い恋のライバル出現ですが、今後の意気込みをどうぞ」
「こ、恋のライバルってなんだよ!? 俺は別に……っ」
「えー? だって可愛いと思ったんでしょう? フレアさんのこと」
 そりゃ、可愛いと思ったのは本当だけど!
 出会ったばかりだし、まだお互いのこと全然知らないし、そもそも可愛いと思った顔はライアが引き出した顔だし…… つーか、あの二人の間に割って入れる気がまるでしない。本当にあれで付き合ってないのかあいつら?
 サーヤの言う通り、初日から波乱万丈の予感だ。 いきなり貴族に絡まれるわ、なんか同じ平民の皆からリーダー扱いされるわ。
 ただ、あの二人と知り合えたのは間違いなく今日一番のラッキーだな。
 実は色々不安もあったんだけど、あの二人のおかげで全部ふっ飛んだ。
「まあ……とりあえず、退屈はしなさそうだな」
 この学園生活、あの二人も一緒なら絶対に楽しいことになる。
 そんな、予感がした。




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