第一章 やられ役Lは満を持して物語に介入する
第四話:運命のファーストコンタクト・その2
「なんだよ、お前?」
「ふん、クラウン家の出来損ないがなんのつもりだ?」
うわー。レイヴはともかく、貴族男子改めジョージくんの露骨な蔑みに満ちた目!
まあ、いつものことだし気にしないけど。 貴族のプライド? そんなもの、原作でバキバキにへし折れてるよ!
それにしても……本当に命知らずだなーレイヴ。 田舎育ちで貴族というものがいまいちわかってないのは原作で知ってるけど、ここが学園じゃなかったら打ち首にされてもおかしくない無礼だ。後ろの平民たちも顔面蒼白になってるし。
「いやね。僕としては授業の前にしっかり朝食を取って置きたいし、それは皆も同じだろう? つまらない争いはそこまでにしたらどうかと思ってね」
「つまらないだと? 平民風情が私たちと同じテーブルにつくなど、これが大罪でなくなんだというんだ! それともなにか? 君は貴族として最低限の誇りさえ、母親の腹の中に忘れてきたのかい?」
うーむ。嘲笑には慣れっこなんだけど、なんだかこいつのは凄く癇に障るな。原作の自分を思い出させるから?
そんな内心はおくびにも出さず、僕は首を傾げて見せる。
「はて、おかしなことを言うね。少なくともこの学園で、貴族と平民が同じテーブルで食事を取ることにはなんの問題もないはずだよ? エレメンツ学園校則第三条、我が校に置いて――」
「『我が校に置いて生徒は全て平等である。そこに血筋や立場は一切関与しないものとする』。ここでは身分の違いなんて、なんの関係もないってことさ」
フレアも会話に加わってきた。心なしか、さっきよりも怒っているように見える。
よしよし、これでこっちの勝ちは既に決まったも同然だ。
なにせ我が校の三大美姫の一人が味方についたんだからね。
「ヴォ、ヴォルケイノくん!?」
おや? やけにジョージくんが動揺しているな。
原作の僕は、
『僕に意見しようとは上等じゃないか、ヴォルケイノ! 今日こそ長年の決着を――!』
って敵愾心剥き出しだったはずなんだけど……まあ別人なんだし、多少は反応が違っても不思議じゃないか。
「や、やあヴォルケイノくん! えっと、その、い、いいお天気だな!」
「ああ、そうだね。大事な幼馴染を侮辱されて、あたしの怒りの温度は四十度を楽々と超えてるけど」
「わ、私はただ、そこのクズに貴族の誇りのなんたるかをだね――」
「他人を侮辱しないと保てないのが貴族の誇りだっていうのかい? 笑わせるじゃないのさ」
「くう……! 出来損ないが、純粋なヴォルケイノくんを騙しおってぇ……!」
理由は知らないけど怒りでプレッシャーが倍増しなフレアを前に、ジョージくんがたじろぎながら憎々しげに僕の方を睨んできた。
ハッハッハ、今頃気づいても遅いぞジョージくん!
これこそ僕が隠し持つ一〇八の裏技の一つ、『フレアの威を借るライア』!
幼馴染という名の子分特権で成立してる技だから、近々使えなくなるけどね。 レイヴとくっついたらフレアも、たかが子分のことなんて気にも留めなくなるだろうし。
僕は駄目押しとばかりに、トドメの言葉を口にする。
「この校則を定めたのはアラフ・ケルサス学園長だよ。それとも君、学園長の決定に異議を唱えるつもり?」
ケルサス学園長は、五〇年前まで御伽噺と言われていた精霊魔法を、研究の末実用段階にまで発展させた伝説的人物だ。 貴族としても国王に意見できるほど地位が高く、ヴォルケイノ家やクラウン家でも彼に逆らうことなんてできない。
彼の名前まで持ち出されれば、ジョージくんに反論の余地なんてあるはずもなく、
「……くそ! このままじゃ済まさないぞ出来損ない!」
やられ役にピッタリの逃げ口上を吐き捨てつつ、向こう側の席へと去っていった。
「で、他にも文句があるヤツは?」
フレアの一睨みで、他の貴族たちも逃げるように席へついていく。
ちなみに食堂の席は特に指定されてないんだけど…… うん、見事に貴族グループと平民グループで真っ二つに分かれてるね。当然といえば当然か。
「お前、度胸あるな! 貴族様に盾突くなんてさ!」
「しかもあの堂々とした態度! もしかしてお前、もう精霊魔法が使えるとか!?」
「名前は!? どこの出身!? ちょっと詳しく訊かせてよ!」
「え、ちょ――」
「ごめん。ちょっといいかな?」
他の平民たちに引っ張られて行きそうなレイヴを呼び止める。
僕なんかでも貴族なので、平民たちはスススー、とレイヴから手を離して引き退がった。そんなに怖がらなくても、取って食ったりしないんだけどね?
「あ、お前はさっきの……」
「僕の名前はライア・クラウン。ライアでいいよ。君の名前も聞かせてくれるかな?」
いかにもいい人装ってます感溢れる、インチキ笑顔で僕は尋ねる。
まあ本当は知ってるんだけど、相手からすれば初対面だからね。
「俺はレイヴ。えっと、よくわかんないけど助けてくれたんだよな? ありがと」
「いやいや、僕はなにも。礼なら親分に言ってよ」
「誰が親分だい!」
あてっ! きょ、今日も強烈な拳骨で……
「……フレア・ヴォルケイノだよ。あの馬鹿に関しては、同じ貴族として詫びとく」
「えっと、どうも」
おおー……っ。フレアが素っ気なくもちゃんと自己紹介した!
原作だとフレアが僕を追っ払った後、レイヴに最初に言ったセリフが、
『素人はさっさと家に帰りな』
の一言だったらしいからね。
原作だと二人が親しくなるのはまだまだ先なんだけど、今回は早くもお知り合いになれたわけだ。 これも僕があらかじめフレアの性格を丸くして置いたおかげなんだから、レイヴには感謝して欲しいよ。
具体的には今後、僕がピンチになったりしたらちゃんと守ってね(切実)!
「こうして知り合ったのもなにかの縁。よかったら相席しても構わないかな?」
「おう、別にいいぞ」
「貴族様相手にタメ口とは、本当に度胸のある方ですねえ」
唐突に会話に混ざってきたのは、レイヴの背後に立っていた平民の少女だ。
肩で切り揃えた亜麻色の髪に、好奇心を爛々と光らせた大きな瞳。首からはヒモでメモ帳とペンをぶら下げている。
この少女のことも、僕はよく知っていた。
「ぬお!? ちょ、誰だよお前!?」
「どもども。私はサーヤ。ジャーナリスト志望の平民少女でーす」
キラーン! と横向きのピースサインでポーズを決める。
レイヴのリアクションに満足げな笑みを浮かべながら、少女はそう名乗った。
「あ、私もご一緒して構いませんか?」
「構わないよ。フレアもいいでしょ?」
「別にいいけど、なんで同い年なのに敬語なのさ?」
「いくら同級生でも、貴族様相手にタメ口で話す度胸はありませんよ。 それにジャーナリストとして、取材相手には礼儀を持って接さないといけませんから。いっそのこと敬語をデフォルトにしてるんです」
名乗りの通りジャーナリストを目指すこの少女は、やがてレイヴを巡ってフレアと対峙することとなる、いわゆるサブヒロインの一人。
初日から貴族に喧嘩を売ったレイヴに注目し、早速インタビューをと接触したのが二人の馴れ初めというわけだ。 原作で直接見たわけじゃなくて、人づてに聞いた話から知ったんだけどね。
「それにしても、本当に命知らずだよねあんた。それともただの猪突猛進?」
「だってあいつ、同じ人間なのにまるで違う生き物みたいに……そりゃ貴族の方がずっと偉いとは聞いてたけど、あんな言い方されたら怒らない方がおかしいだろ」
「いえいえ、実際別の生き物みたいなものですよ? 本気でそれがわからないって、どこの異世界から来たんですかあなた」
まあとりあえずは腹ごしらえしようと、僕、フレア、レイヴ、サーヤの四人でテーブルについた。料理は厨房の入口で、強面のおばちゃんから受け取っている。
貴族からすれば質素で文句を言いたくなるような量だけど、さすがにあのおばちゃんに文句言える度胸の持ち主はいなかったらしい。 実際に食べて見ればわかるけど、これだけあれば十分な量だし美味しいんだけどね。ほら、貴族は実利より体面気にするから。
「どこって、ワシートだけど」
「うわあ……ウエストリア王国の、一番端っこにあるド田舎じゃないですか」
「確かにあそこ、自立してて貴族が治めてないとは聞いたことあったけどさ……本当に田舎者だったんだね、あんた」
「な、なんだよ二人してその呆れ返った顔は! 田舎舐めんな!」
「まーまー、落ち着いて」
現在はそれぞれ朝食を取りつつ雑談中。
さっきの騒ぎのせいもあってか、僕たちのテーブルには他に誰もいない。ちょうど真ん中辺りの席に座ってるから、周りから視線が突き刺さること突き刺さること。
特に貴族グループから僕に向けられた殺意がやばい。 向こうからすれば、僕が無理やりフレアを平民のいるテーブルに引き込んだと思ってるんだろうなー。半分は正解なんだけどね。
「それなら知らないのも無理ないけどさ、貴族と平民には絶対的な壁があるんだよ。 簡単に言えば、貴族は平民より遥かに偉いし、平民が貴族に逆らうなんてあり得ない。少なくともこの国ではそうなってる。隣国のイーストリアじゃ、そういう身分の区別が存在しないっていう話だけどね」
「なんでだよ!? 髪の色が多少違うくらいで、同じ人間だろ!」
「なんでもなにも常識なんですけどねえ……」
フレアの解説で憤るレイヴに、サーヤは奇妙な生き物でも見るような目をする。
原作でワシートには一度訪れたことがあるけど、本当にド田舎だから常識が根本的に違ってるんだよね。 まさかあそこに、世界の存亡に関わるあんな秘密があるとは……と、これは今関係ないか。
「まあその常識も、精霊魔法の普及で崩れつつあるんだけどね」
精霊魔法――世界の森羅万象を構成する物質、精霊を操ることで神秘の力を行使する超自然的技術。 才能に左右される部分こそ大きいけど、その才能に血筋は関係ない。
平民でも強大な力を持つことができるようになって、貴族と平民の上下関係は危うくなりつつある。 当然ながら貴族は精霊魔法を独占しようとしたんだけど……近年ある止むを得ない事情から、平民にもこの技術を公開する必要ができた。
その結果が、今年度からのエレメンツ学園に置ける平民・貴族の共学化。
僕も原作では散々、『なんで平民風情にまで精霊魔法を!』なんて思ってたけど……本当に切羽詰まった事情があるんだよねー。
「まあレイヴさんの行動が、ド田舎者の無知故だというのはわかりましたが」
「ド田舎者ってなんだよオイ!」
「私としては、あなた方にも興味があるんですよねえ。フレア・ヴォルケイノさんにライア・クラウンさん」
「あたし?」
「へ、僕?」
両手の人差し指と親指で作った四角形の中から、サーヤの瞳が僕たちを覗き込んでくる。 そこには小さな子供みたいな好奇心と、獲物を狙う猛禽類のような鋭さがあった。
でもフレアはともかく、僕に興味ってどういうこと?
「貴族でありながら、しかも他の貴族の方々を敵に回すのも承知で平民を庇う。校則で定められてるとはいえ、平民に対等な態度で接する。 そんなことができる貴族の方がいるなんて、私としては非常に驚きなんですよねえ。特にクラウン家といったら、名門中の名門じゃないですか? 一体どうしてなんですか?」
「うーん、どうしてと言われても……」
これってアレだよね、疑われてるよね? 『なにか裏で企んでんじゃねえのか? あん?』って思われてるよね?
まさか素直に『僕は未来を知ってるからね。貴族とか身分の違いなんてものが、いずれ無意味になるのはわかってるのさHAHAHA』なーんて言えるわけないし、言っても医者を紹介されるだけだろうし。
うーむ、困ったな……。
「なんか勘ぐってるみたいだけど、疑うだけ無駄だよ。ライアは昔からこうなのさ。 立場や血筋の違いとか、そういう壁を鼻歌うたいながら飛び越えるようなヤツだからね。それこそライアにとっては、あたしもあんたたちも同じ人間なんだよ」
と思ってたら、フレアから助け船が入った。
しかしこの言い方だと、まるで僕が聖人君子かなにかみたいだなー。そんなに僕を持ち上げたってなにも出ないよ?
「ほほう? つまりライアさんは、生来から分け隔てのない優しさの持ち主だったと?」
「なにもわかってない馬鹿どもは、平民相手に媚を売ってるなんて言うけどね。ライアは誰にでも、仲のいい友達みたいに笑いかけるんだよ。 相手が作ってる壁なんて簡単に飛び越えちゃって、いつの間にか一緒にいるのが楽しくなってきて、本当に友達になっちゃってるのさ」
それとも子分をフォローすることでいい親分アピールでも――ハッ!?
まさかフレアは既にレイヴを好きになっていて、少しでも気を引こうと僕のフォローを!?
あり得ない話じゃない。なにせ今回のフレアは僕の尽力で性格が多少丸くなってる分、鉄壁のガードもベニヤ板ぐらいになっているはず。 レイヴの隠れイケメンに気づいて一目惚れという展開もあり得る……!
「なるほどなるほど。もしかしてフレアさんも、壁を飛び越えられちゃったんですか?」
「まあ、ね。あたし、昔から短気っていうか、口より先に手が出ちゃうタイプでさ。そのせいで周りからは敬遠されて、遠巻きにされてた。 だけどライアだけは、あたしが殴ったり蹴飛ばしたりしても、離れないで一緒にいてくれて……気がついたらその、大事な幼馴染になってたんだよね」
おのれレイヴゥゥゥゥッ!
計画的にはむしろ好ましい展開だけど、爆発するがいいイケメンめ!
せいぜい、五角形にも六角形にも増えていく女性関係に悩み苦しむがいいさ!
「へえ、いい話じゃんか」
「確かにそうですね。ですが……果たして本当にそうでしょうかねえ?」
「な、なんだい。どういう意味さそれは?」
あれ? 人がちょっと考えごとしてる間に、なにやら話の雲行きが怪しくなってるような……
「これはあくまで想像のお話なんですけどね? ライアさんはフレアさんのドメスティック・バイオレンスに耐えかねた結果、平民の素朴で純粋なお嬢さん方に目を向けたのではないですかねえ?」
「なあ!? な、なな、なにを根拠にそんなことを――」
「先程ライアさんは、フレアさんのことを『親分』と呼んでいましたよね? つまり、お二人の間にはそういった上下関係が成立していたと。そしてその呼び方からして、フレアさんはライアさんを子分のようにこき使いまくっていたのではないですか?」
サーヤ、丁寧なの言葉遣いだけで結構言ってること失礼だよ?
まあ僕も原作では、散々彼女の慇懃無礼さに歯軋りさせられたものだけどねー。 純粋に相手の反応を面白がっての行動とはいえ……否、だからこそ性質が悪い。
「いや、あれは、子供の頃のお遊びみたいなもんで……」
「昔からそんな関係が続いていたわけですね? だとすればライアさんが、上から力に物を言わせて命令してくる貴族のフレアさんより、平民の女の子に魅力を感じるのは当然の流れなんじゃないですか?」
「うぐ……っ」
原作の僕ほどじゃないけど悪者っぽい笑みを浮かべながら、サーヤはフレアを追い詰めていく。 腕っ節は強くても口は達者じゃないフレアは、返す言葉もなくたじろぐばかりだ。
まあ気になってる男子の前で、自分の印象が悪くなるような話をされれば動揺して当然だよね。 気になってる男子? そりゃ、レイヴ以外の誰がいるっていうのさ。
「それで、実際のところはどうなんですかライアさん? 真実を追求するジャーナリストとしては、是非とも正直なお気持ちを聞かせて頂きたいんですが」
「ど、どうなんだいライア!? こ、この際正直に言ってみなよ!」
「えっと……」
女子二人から詰め寄られるこの状況、ちょっと嬉しいけどそれ以上に妙なプレッシャーを感じる。 原作の僕は、何十人もの女子に囲まれてさも当然みたいな顔してたんだよねー……レイヴに負かされてからは男子さえ寄りつかなくなったけど。
それにしても、サーヤのちょっと後ろから突き刺さるフレアの視線……。
わかってます。わかってますとも。『変なこと言ってレイヴのあたしに対する印象悪くしたらぶちのめす』と言いたいんですね!
でも原作より性格が丸くなってるとはいえ、脅すならもっと目に殺意を込めてくれないかな? そんな捨てられた意地っ張りの子犬みたいな目されても、正直可愛いだけですから!
コホン。
しょうがない。ここは一つ、子分としての株を上げて置きますか。
「まあ小さい頃、親分子分の関係だったのは本当だよ。色々な場所に連れ回されたし、こき使われたこともあったけど、それも含めて楽しかった思い出だからね」
「ときに暴力を振るわれることもあったようですけど、それを理不尽に感じたことは?」
「うーん。意外とないかな。それも含めてフレアとの付き合いだったし、その関係を僕も僕なりに楽しんでたしね」
努めて笑顔を浮かべながらそう言うけど、これは半分嘘だ。『どうしてこんな女につき合わなくちゃならないんだ!』と思ったのは一度や二度じゃない。
それでも計画のため、僕が幸福な人生を掴むためだからこそ耐えられた。
「その関係が原因で、次期党首の座を失ったのにですか?」
「――っ」
む。別に隠していないとはいえ、登校初日でその情報を掴んでいるとは…… さすがこの先、物語に関わる重大な情報の数々を嗅ぎつけるだけはあるか。
「両親の期待に応えられなかったのは、申し訳ないと思ってるけどね。それでも僕はフレアと仲良くなったことに、微塵も後悔はないよ。 いくら両親からの命令でも、フレアとの友情を捨てるなんてことはできない。だって……」
これも半分は嘘。
両親の失望と侮蔑に満ちた目は、原作でも経験している。だけど一度体験してるからって、平気なのかと言われれば答えはノーだ。
家族の縁を切られるのも覚悟でフレアとの関係を続けているのは、計画のため。
友情なんてありもしないもので覆い隠した、自分が幸せになるための打算でしかない。
ただ――
「だって、なんですか?」
「だってフレアは……強くてかっこよくて可愛くて、貴族の身分を失っても傍にいたいぐらいに、魅力的な女の子だから」
これは本当。嘘偽りのない、僕の正直な気持ちだ。
フレアはとんでもなく強いしかっこいいし、近くにいないと気づきにくいけど凄く可愛い。 それは原作の頃から知っていたし、今回は原作よりも近い距離にいたからより強く実感した。
これから先の未来でも数々の活躍をして、人々からたくさんの称賛を受けて、世界を救う勇者と添い遂げる……まさに選ばれた物語のヒロインだ。
全く、僕にとっては星よりも遠い存在だよ。アハハ。
「はええ……」
「言い切りましたね……」
「~~~~っ!」
レイヴとサーヤが感心したようにため息を漏らし、フレアは湯気が出そうな勢いで顔を真っ赤にする。
怒ってる怒ってる。さしずめ『子分の分際であたしを口説こうなんざ百万年早いんだよ!』ってところかな? レイヴとサーヤの感心も、『子分のくせに度胸あるなあ』という感じだろうね。
よしよし。ここで程良く、あるかないかの好感度を削って置くのも計画のうちだ。
「レイヴも、フレアは可愛いと思うだろう?」
「へ!? いや、俺は――」
そして主人公のサポートも忘れずに、っと。
レイヴは僕とフレアの間で何度か視線を行ったり来たりさせた後、
「ま、まあ……可愛いんじゃ、ないか?」
ボソボソとした声でそう呟いた。
あーもうじれったいな! そこは主人公らしく、『可愛いよ、フレア』とでも囁けば一発だろうに!
「な、ななな……二人揃ってなに言ってんだこの馬鹿ああああああああ!」
「ちょ、なんかリアルに体が炎上してるんだけどこの人ぉぉぉぉ!?」
「おおー、これが精霊魔法というヤツですか?」
「フレアの羞恥とか怒りに精霊が反応して発火しただけだから、魔法って言っていいのかは微妙だけどねー」
主人公からの『可愛い』がよっぽど効いたみたいで、フレアの体から炎が噴き出す。
いやー、さすがだね。 たった一言でこうもヒロインの心をかき乱すレイヴも、ここまで動揺してるのに周りには被害一つ出してないフレアも、この状況下で暢気にメモを取ってるサーヤも。
しかもここから、レイヴを中心に個性的な登場人物がどんどん増えていくわけだからねー。僕みたいに家柄しか取り柄のない凡人じゃ、とてもついては行けないよ。
「あ、あんたは昔からそうやって思わせぶりなセリフをおおおお!」
「ああああ! 俺のハンバーグがウェルダン通り越して炭にぃぃぃぃ!?」
「あのう、これ放って置いたら食堂が全焼しませんか?」
「ちょ、本格的に暴走し始めてる!? ああもう、こういうときは秘蔵の飴ちゃんで――」
でもまあ一応はフレアの子分として、頑張って喰らいついていくとしますか。
……どうせ、一ヶ月と続かない関係だし、ね。
▽○△
さて。フレアのおまけとしてまんまと主役メンバーと接触できたところで、そろそろ僕の崇高な計画について語るべきだろう。
最初に断って置くと、僕は別に主役メンバーの一員に加わろう、なーんてことはこれっぽっちも考えていない。 というか、原作ではそれを散々試みて失敗した挙句、僕は殺されてしまったのだ。身の程というものは、十分過ぎるくらい思い知っている。
地位や名誉を追い求めるなんて、原作でもう懲り懲りだ。
だから僕が目指すのは主役へのレベルアップではなく、わき役へのジョブチェンジ。
平凡上等、平和最高! 今度は分相応に生きて、幸せになる! 最終的にはどこかの田舎町で小さなお店を開いて、のんびりと暮らすのが今の僕の目標だ。
そして原作でレイヴたちに付き纏っていたのも、あながち無駄ではなかった。これから先この世界で起きる、重大な事件の多くを僕は知っている。この知識は大きなアドバンテージだ。
今から二週間後に起きる一つの事件、それを解決することで得られる報酬こそが僕の狙い。 その報酬さえ得られれば、後は巻き込まれない程度の距離でレイヴたちとの付き合いを続けていけばいい。
そのために両親から見放されてまで得た、『フレアの子分』ポジションだ。
ついて来るなら別に止めないけど、いてもいなくてもどうでもいい存在。 この立ち位置なら厄介事に巻き込まれる心配もなく、美味しいところだけおすそ分けを頂けるという算段である。それに子分程度の付き合いでも、いずれ相当な地位につくレイヴたちとのコネはなにかと役立つだろう。
いやー、我ながら完璧な作戦だ! 自分の利益と保身だけ考えてる辺りに、原作と変わらないクズっぷりを感じるけど!
まあ、そこはしょうがない。やられ役からわき役に変わったところで、僕はクズのままだしね。レイヴたちと一緒に世界を救う――なんて分不相応にも程がある。
クズはクズらしく小賢しく、自分の幸福を掴ませてもらうよ。
ふは、ははは、ハーッハッハッハッハッハ!
あ、ちなみに頂いた感想への返信は次回更新時にします。
それと次回やそれ以降で他のキャラ視点の幕間をちょいちょい挟もうと思っているのですが、もし「他のキャラ視点とかマジありえねーし!」という意見がありましたら教えてください。
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