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序章 やられ役Lはみじめな末路をたどって
第一話:死んで、生き返って……?
「さようなら、やられ役くん。運命の導きがあれば物語の果て、輪廻の先でまた巡り会いましょう。そのときは、今回とは違う形であなたとの物語を……凡俗が夢見るような御伽噺を紡ぎたいわね」
 そんなふざけてるとしか思えないセリフを告げて、彼女は僕の胸から手を引き抜いた。
 赤黒く染まった手に、赤黒い物体を掴んで、こっちには一瞥もくれずに去っていく。
 呼び止めるために叫ぼうとして、声の代わりに赤黒い液体が僕の口から零れた。
 追いかけようとした足がもつれて、地面に倒れる。 胸に空いた穴から流れる赤黒い液体と一緒に、体からどんどん力が抜けていく。 指先から感覚も失われていって、まるで自分という存在そのものが欠けていくみたいだ。
 ああ、死ぬのか僕は。
「ぅ、あ……!」
 なんで。 なんでなんでなんでなんで!?  なんで僕がこんな目に遭う!?
 僕は名門貴族、クラウン家の長男ライア・クラウンだぞ!
 天才精霊使いで、成績優秀な優等生で、誰よりも優れた貴族!
 この世の栄誉と名声、それと美女! 全てを手にするはずの僕がなんで!?
「ぁ……っ」
 思い返してみれば、僕の人生はロクなことがなかった。
 宿敵ヴォルケイノ家の脳筋娘に見下され、卑しい平民の小僧に手も足も出ず、鉄クズ人形には憐れみの目を向けられて……!  こんなはずじゃない。こんなはずじゃなかったのに。なにを、どこで間違ったっていうんだ!
 あれ? というか、これってもしかして走馬灯?
「…………」
 駄目だ。もう目も霞んできた。
 苦しみも痛みを薄らいでいく。だけど一緒に、僕の魂も消えてしまう。
「――――」
 ああ、嫌だ。死にたくない。
 だって僕は、僕は――

▽○△

「僕の名前はライア・クラウン。名門クラウン家の長男に生まれた貴族だ。 エリート街道まっしぐらのはずが、学園で平民の小僧に負けてから、その名声は地の底まで真っ逆さま。周りから見放されて、見返そうとしては醜態を晒し続けて、挙句の果てにわけもわからないまま殺された。 そうして僕の十七年の短い人生は、実に呆気なく幕を閉じた……はず、だよねー?」
 他人に聞かれたら、間違いなく医者を紹介されるであろう独り言を呟きつつ、僕は部屋の大きな姿見に映る自分の姿を凝視する。
 夕焼けの色に似た、赤みがかった髪。好意的に表現してもカミソリみたいに鋭く、まあ要するにいかにも悪者っぽい目つき。それ以外は貴族らしく、そこそこに整った造形。 うん。間違いなく僕の顔だ。
 ……五、六歳児並みの幼い顔と背丈さえしていなければ。
 こうして見ると、小さい頃から嫌なヤツっぽい顔だったんだねー、僕って。 さすがはやられ役。逆に感心してしまうよ。
「いや、本当になんだっていうのさこれは!? 生まれ変わり? それとも未来の記憶?」
 どう見ても僕は幼い子供だ。それなのに十七歳までの……殺されるまでの記憶が、ハッキリと頭に残っている。 意識が風に吹かれた煙みたいに消えていくのを感じて、気がついたらここにいたんだ。
 夢や妄想で済ませるには、記憶があまりに生々しすぎる。
 それに、この記憶が事実だという根拠はもう一つあるのだ。
「ライア、早く着替えなさーい! 今日は重大な用事があるのですからね!」
「は、はい! お母様!」
 部屋の外から大声で呼びかけてくるお母様。
 重大な用事……その内容は、教えてもらわずともわかっている。
 なぜなら同じ出来事を前に――つまり、前回(、、)の五歳の頃に経験しているからだ。
 十中八九、僕はこれから前回と同じ人生を経験することになるだろう。
 いわば僕は、自分の未来を既に知っているわけだ。
 転生か、それとも未来予知か……わからないことだらけだけど、ハッキリとわかっていることが一つだけある。
「僕の人生、お先真っ暗じゃないか……」
 深々と憂鬱なため息が、口から漏れる。
 一度死んだせいか、不思議と自分の人生を冷静に振り返ることができた。
 なんというか、うん。実に最悪な人生だった。
 僕を殺したあの子が言ってた通り、物語のやられ役そのものだ。
 主人公たちの魅力を引き立てるため、ひたすら醜態を晒して踏み台となるだけの人生。
 見下されて、笑い者にされて、誰にも認められないまま一人ぼっちで死んでいく人生。
 そりゃーため息ついて頭抱えたくもなるさ。
 あんな人生を、もう一度僕に送れっていうのか?
「ふ、ふふふ、ふふふふ……」
 冗っ談じゃない!
 誰が好きこのんで、あんな負け犬人生を二度も送るもんか!
 僕は自分の運命を、未来を変えてやる!
 そうだ! 過去に戻って生き直すなんて、古代文明の遺産《マンガ》でもよくある話じゃないか!  これは僕に相応しい人生をやり直せという、大宇宙の意志的ななにかのメッセージに違いない!
 僕は今度こそ、幸福な人生を掴んで見せるぞ!
「ふは、ははは、ハーッハッハッハッハ!」
「なんですかライア! その品のない笑い方は!」
 怒られました。
 初めまして。千羽鴉と申します。
 中学生の頃から小説を書き続けて早十年ほど。
 こちらでの投稿は初めてで、なにかと至らぬ点はあると思いますが、気軽に読んで頂けると有り難く思います。感想やご指摘を頂ければ、よりよい作品への励みや参考になるので嬉しいです。
 色々と拙い名前負けの若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします。


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