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異世界でお菓子を作ってみる
作者:kappa
 最近、異世界で内政したり、料理したりする小説が増えてきた。結構面白く感じるものもあるので、中世ヨーロッパ風異世界でお菓子作りの材料について検証してみたいと思う。
 まず中世の社会の構造などから入手が困難な材料を使うものは避けたい。クッキーやパウンドケーキ、クグロフ、ゼリーなんかは実際中世のころには存在したので異世界でも作成可能に思われる。ただ、生菓子は保存の観点から異世界に魔法でも存在しない限り難しいのでとりあえず焼き菓子に使う基本材料だけにさせてもらおう。

 とりあえず小麦粉から検証してみよう。中世ヨーロッパでは小麦自体の栽培は行われているので入手に関しては問題ない。問題になるのは小麦粉の質だろう。
 現代のお菓子作りに使う薄力粉を作るには取り分け挽きが必要になる。簡単に言うと日本の大手製粉会社では軟質小麦を軽く挽いたらふるいにかけ薄力粉になる粉を取り分け、残った硬い部分をさらに挽いてふるいにかけて中力粉を作るというようなことを行って薄力粉や中力粉を作っている。この小麦粉の挽き方が取り分け挽きだ。正直、手間がかかるので機械で出来るからやれる事のように思われる。調べてみたら取り分け挽きが発明されたのは17世紀のことだった。それ以前の時代は全部単挽きということになる。
 「単挽きの小麦粉ってどんな小麦粉?」と思うだろう。いわゆる全粒粉は丸ごと全部挽いた小麦粉なのでこの単挽きの小麦粉に該当するのだが大体グルテン量が中力粉相当である。中世ヨーロッパ風異世界で簡単に手に入る小麦粉は、ほぼ中力粉で間違いないだろう。
 この中力粉で作って美味しいのはパウンドケーキやクッキー、フランスパンやうどんなどだ。スポンジケーキなど軽さが命のケーキは正直うまく作れないと思う。

 次は卵について検証してみよう。中世ヨーロッパは肉食を前提とした社会なので鶏やアヒルなどを農家が飼っているのはごく普通のことと思われる。そのため卵自体の入手は出来るだろう。
 問題はその値段である。正直言って高い。調べたところ、18世紀半ばごろのドイツの鶏卵の値段は今の日本の鶏卵の値段の6.5倍以上もする。現代と違って大規模な養鶏業など行われていないのだから当たり前か。農家でせいぜい放し飼いにしていただけだろう。放し飼いなら冬でもない限りわざわざ餌を用意する必要ないしね。ただ、その代わり放し飼いは卵を入手する効率が悪い。鶏は周りが明るいときに産卵する。小屋で産卵するとは限らないだろう。外で産卵した場合、人間が見つける前に蛇など他の動物に食べられてしまう可能性がある。下手したら親鳥が野犬などに食べられることもあるだろう。
 ちなみに大規模な養鶏をイギリスで行いだしたのは1850年台らしい。思いっきり産業革命後の話である。鉄道が走っている時代だ。近代もいいところである。(さらに日本にいたっては養鶏が盛んになって今のように入手できるようになるのは昭和30年台で現代もいいところだったりする)
 よって中世ヨーロッパ風異世界では卵を常食できるのは金持ちか鶏を飼っている農家だけだろう。主人公が貴族なら値段を気にせず卵を使えるが一般庶民だったらお祭りとか特別なときだけって考えればいいのかな。
 ついでに異世界なら別に鶏とか実在の鳥類の卵で無くともいいと思う。ただダチョウとかみたいな大きな鳥の飼育は大変だろうと思うので現実的ではないのかも。今の鶏は卵を沢山産むように品種改良されて年間300個くらい卵を産むらしいが古代エジプトですでに養鶏が行われていたときにはもう、ほぼ毎日卵を産む鶏に品種改良できていたそうなので品種改良については考慮しなくても平気そうだ。

 今度はバターだ。バターは乳から作ることが出来る。乳を採取する動物は牛でなくてもかまわないのだ。ヤギとか羊とかからも乳は取れる。ついでに異世界独自の動物でもかまわない。
 育て方は放牧がやはり基本だろう。冬の餌の確保が別途必要にはなるだろうけれど。
 話は変わるが牛乳などの乳は日持ちしない。冷蔵庫が無い世界では乳をチーズやバターに加工するのが当たり前だろう。紀元前のいわゆる古代からバターは作られているので作り方自体は中世ヨーロッパレベルの文化で十分作成可能だ。
 具体的な作成方法なのだが、乳は放っておけば上のほうに脂肪を含むクリームが浮かんで分離してくるのでクリームをすくって手回しで出来たチャーンという攪拌器にいれて攪拌する。攪拌し続けていると水分と固形物に分かれてくるので、固形物のほうを冷たい水で洗ってきれいにしてバターのできあがり。ついでに加工したバターにはしっかり塩をきかせないといけない。中世ヨーロッパにはまだ冷蔵庫がないので塩入れないと日持ちしないからね。
 ちなみに現在日本で市販されている牛乳のほとんどはホモゲナイズ加工(成分の均質化のこと)がされていてそれらの牛乳からクリームやバターは分離できない。今の日本で牛乳からクリームやバターを作るなら昔の絞ったまんまのノンホモ牛乳を使わないとね。

 材料の最後は砂糖。砂糖が取れる植物で思い浮かぶものといったらなんでしょう? サトウキビ、テンサイ、サトウカエデ、サトウヤシとかでしょうか。
 この中でヨーロッパのような気候で作れるのはテンサイとサトウカエデになるので中世ヨーロッパ風異世界も栽培を考えるとしたらこの二つになってくるように思う。ただ、樹木は成長に時間がかかるのですぐ作りたい場合はテンサイ一択かな。でも異世界なんだから現実と同じ植物じゃなくていいはずだ。例えば甘い蜜が取れる異世界独自の花から砂糖を作っているとかでもOKだと思う。ちなみにサトウヤシは花柄を切って出てくる蜜からパームシュガーを作るのでこれに近い。
 砂糖自体の作り方はどれもこれも糖分の含まれる液体を絞ったり、糖分の含まれる液体を集めたり、刻んだテンサイをお湯で煮て糖分が抽出した液体を作った後は、ほぼ一緒だし。手間はかかるけど作れないことは無いでしょう。たぶん輸入するよりは安くつくでしょう? 手作業だと大量生産できないからやっぱり高いだろうけど。

 さて、これで材料がそろったわけだけど結論に入る前に少し調理器具について述べたい。これがまた、調べたけどよくわからないことだらけだった。現在使われているような調理器具の原型は中世の時代にほぼ出来上がっていたらしいのだがどんな道具をどんな風に使っていたかが調べてもさっぱりわからない。
 生クリームをあわ立てたデザートとかが中世のメニューにあるから泡だて器はあったんだろうけど、どんな形かいまいち分からなかったり……。中世のメニューに豆のスープを漉したとかあるけど何で漉したんだか分からないし……。シノワで漉したの? それとも漉す面が平たい裏漉し器? 言葉を濁して表現すればいいんだろうけどさ。
 でもこれは貴族みたいなお金持ちや料理店が料理やお菓子を作る場合に気にしなきゃいけないことで庶民の登場人物なら関係ないけどね。庶民の調理道具の基本はシチューポットと木べらとナイフ位だし。庶民の家には基本的にオーブン無いし。共同のオーブンにパンとかパイとか焼きに行くんだしね。

 最後に、中世ヨーロッパではまずお菓子なんか普段から食べられるのはお貴族様とかのお金持ちだけです。何しろ卵や砂糖がばか高いですから。
 しかもかの有名な名台詞の「パンが無かったらお菓子を食べたらいいじゃない」で言われているお菓子ってブリオッシュのことらしいのですが、ブリオッシュって現代日本人からしたら卵やバター等がリッチに使われただけのパンですから……。ブリオッシュって全然甘くないし、バターロールとかとたいして変わらないんだよね。結構ショック。
 なので是非とも異世界でおいしいお菓子を出すお話を書いてくれる人が増えるとうれしいです。食べ物の話っておいしそうでわくわくする。はっきりいって大好きだ。
 以上で何とか中世ヨーロッパ風異世界で作れるお菓子の材料を主に紹介兼考察したつもりなんだけど、ずばりお勧めのお菓子は、道具を考慮して登場人物がお金持ちならパウンドケーキ、庶民ならバタークッキーかな。どっちも転生主人公が作り方を覚えていてもおかしくない位、材料の配合が分かりやすくて手順が簡単だから。




 

 
※2/25と3/11に続編を書きました。
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