これでいいのか精神科! 暴言・妄言が止まらない
「暴言」の反響が止まらない。このコラムで情報提供を求めて以来、電子メールで次々と寄せられる暴言・妄言例のひどさは半端ではない。被害妄想を抱きがちな患者が、精神科医の何気ない言葉を悪意に受け止めたとみられるものも一部あるが、精神科医の差別感情が露骨に表れたものがほとんどだ。要するに患者をバカにしているのだ。
アルコール依存症やうつ病、処方薬依存などを体験した女性のケースを紹介しよう。
私がアルコール依存症の専門病院に入院することになった時のことです。それまでは院長に診てもらっていましたが、入院当日は休みだったため、別の医師に診ていただくことになりました。すると、その医師はこう言ったのです。 「あなたの病気を治す事は出来ない。何故なら、アルコール依存やその他の精神疾患はあなたの性格と同じで、その性格を病院に治して欲しいと言うのは筋違いだ」。そして入院を拒否されました。 後に、その医師はアルコール依存の専門医ではないと知りましたが、あの時の衝撃は今も忘れられません。精神疾患がすべて性格の問題ならば、こんなに苦しむ事はないはずです。 その後、他のアルコール専門病院に入院し、担当医にこの話をしたところ、「精神科の医師がその様な言葉を投げつける事はあり得ない」と驚かれました。この入院で、アルコールをやめることができました。今の病院の先生方に、本当に良くして頂けたからだと思います。 もし最初の病院にすんなり入院できていたとしても、あの様な考えの医師がいる病院では、今のような回復は望めなかったと思います。 |
開いた口がふさがらない妄言医だ。「精神疾患はすべて性格のゆがみが原因」と言いたいようだが、本当に医師なのだろうか。患者を治す気がない精神科医が存在しうるこの病院自体、確かに危険だ。
自殺願望に悩む患者に首吊り自殺を煽り、やり方まで教える精神科医もいる。40歳代の女性のケースだ。寄せられたメールの文章を下敷きに、後日、直接取材した内容を加えてまとめた。過剰診断ではない本当のPTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥った時、薬物偏重の精神科では適切に対応できないことや、抑うつ症状を招く別の疾患の見落としなど、暴言以外にも様々な問題を含んでいる。
私は25歳になったばかりの時、当時お付き合いしていた男性をパラグライダーの事故で亡くしました。結婚を意識し、将来に夢を膨らませていた矢先のことです。私がいた場所からわずか数メートル先で、彼の体は岩に激しく打ち付けられ、即死しました。 火葬場で、私も一緒に燃やされていく感覚にとらわれました。それ以来、生きている実感がわかず、事故の瞬間や、霊安室の様子が頭を離れなくなりました。食事中やテレビを見ている時も、脳内に居座るスクリーンに事故の日の様子がずっと投影され続けている感じなのです。 「まだ若いからやり直せる」「彼にふられたと思えばいい」と自分で自分を励ましても、事故をひとときも忘れることができず、熟睡できなくなりました。ついには「彼のもとに行きたい」と自殺願望がわき、精神科に駆け込みました。すでに事故から2年がたっていました。 診断はPTSD(心的外傷後ストレス障害)だったと思いますが、主治医は私に「抑うつ状態」とだけ伝えました。専門的なカウンセリングはなく、抗うつ薬や抗精神病薬などが処方されました。効き目は一向に表れず、薬の一部が2週間ごとに変わりました。「私に効く薬はないのではないか?」と不安に陥ったものです。 最も多い時は、1日27錠の薬を服用しました。受診した時は身長157cm、48kgだったのに、みるみる痩せて39kgまで落ちました。快方に向かったのは通院開始から2年後、友人の言葉によってです。 久しぶりに会った高校の同級生たちが、本当に心配してくれたのです。そのうちの1人が、私の細くなった手首を握り、「こんなに痛々しくなってしまって……」と悲しんでくれました。 それまでは、落ち込んでいると「いつまでも悲劇のヒロインぶるな」などと周囲に言われ、医師にもフラッシュバックの苦しさを分かってもらえず、苦しくてたまらなかったのです。そのころはもう、ガリガリにやせても、それが危険なことだという認識もなくなっていました。でも友人の言葉で、「私にはまだ心配してくれる人がいる」と気づき、その瞬間から、心の回復力がよみがえった気がします。 フラッシュバックや離人感は薄らいでいきました。でも、慢性的な抑うつ状態は改善しませんでした。結局、抗うつ薬などを10年以上飲み続けましたが、効果は得られなかったのです。この間、睡眠薬や鎮痛剤の依存に陥ったり、自殺願望にとらわれたりしたこともありました。当時はマンションの高層階に住んでおり、発作的に飛び降りたくなることがあったため、怖くてベランダに出ることができず、洗濯物を浴室に干していたほどです。 ある時、どうしても電車に飛び込みたいという願望が消えず、予約外でしたが緊急で受診させてもらいました。この日はとても混んでいて、主治医はイライラした様子でこう言いました。 「そんなに死にたいなら勝手に死ねばいい!電車に飛び込むなんて一番迷惑だ!飛び降りだって、遺体の回収にあたる人のことを考えたことがあるのか?そんなに死にたきゃ、家で首吊って死になさい。(この後、主治医はタオルや下着を使った首の吊り方を具体的に話したが、生々しいのでここではカットする)。絶命する時に失禁するのが恥ずかしかったら、介護用のオムツをすればいい!それじゃあ、同じ薬を出しておくから」 すがりつく思いで「先生助けて!」と受診したのに、しかられた揚句、首吊りを勧められてしまいました。帰宅した時には、部屋のどこにロープをかけたらいいか、無意識に探していました。「このままでは医者の言葉に殺される」とノイローゼに陥り、受診すらできなくなってしまいました。 |
この女性は、自殺をしたかったわけでも、自殺をほのめかして医師を困らせたかったわけでもない。このままだと本当に自殺しかねない自分を恐れ、最悪の事態から逃れるための方法を示して欲しかっただけだ。ところが、主治医に突きつけられたのは首吊りの勧めだった。女性はその後、別の医療機関で検査を受けて、てんかんと分かった。抗うつ薬を減らして抗てんかん薬を飲み始めると「抑うつがウソのように消えた」。暴言主治医は神経科も標榜していたのに、抑うつを引き起こすこともあるてんかんを見落としていたのだ。面接力のない精神科医は、かくも診断力が低い。
女性はこう続ける。
私はなんとか自殺を踏みとどまれましたが、今も周囲の無理解に苦しむことがあります。家族にも友人にも見放され、最後の砦として精神科医を頼る患者さんは沢山いるはずです。それなのに邪険に扱われ、絶望して命を断とうとしている人が今もいるのではないかと思うと胸が痛みます。 私の友人にも、自殺した人が2人います。このうちの1人は精神科に通院していましたが、全く救いにはならず、私に頻繁に電話をかけてきました。彼女の落ち込みの背景には、人種差別や付き合った男性の裏切り行為など、様々なつらい体験がありました。彼女には子どももいて、何とか支えたかったのですが、私の力だけでは自殺を止めることができませんでした。 心を治せる精神科医は非常に少ないことを痛感しています。多くの精神科医は、対症療法のための薬の処方箋を書くだけの存在で、薬剤師さんのようなものだと今は思うようになりました。でも、それでは患者は救われない。つらい体験を重ね、明日まで生きていられるか分からない精神状態に陥り、それでも必死に生きようとする人達のために、精神科医の意識の改善を強く求めます。 |
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統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。 「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。 |
(2012年10月5日 読売新聞)
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