社説:運転免許と病状 北風ばかりではなく

毎日新聞 2012年11月04日 02時30分

 運転に支障を及ぼす可能性のある病気を持った人の免許制度の見直しが検討されている。警察庁は、病状の虚偽報告に罰則を新設し、担当医が運転を危険と判断した患者の情報を公安委員会に届け出られる仕組みを設ける方針だ。事故の重大性を考えれば社会全体でリスク管理に取り組むのは当然である。ただ、罰則を強化する北風政策だけではリスクを潜在化させかねないことも指摘しておきたい。

 見直し案は、運転手のてんかん発作でクレーン車が暴走し小学生6人が死亡した栃木県鹿沼(かぬま)市の事故(昨年4月)を受けた警察庁の有識者検討会が提言した。

 てんかんは脳の損傷や神経の異常のために脳細胞が一時的に過剰な信号を出すことで起きる慢性疾患で、国内に約100万人の患者がいるとされる。以前はてんかんの診断を受けると運転免許が取得できなかったが、02年の法改正で過去5年以内に発作がないなどの条件下で免許が取得できるようになった。病気や障害をひとくくりにして排除する「絶対的欠格条項」への反省からである。

 しかし、てんかん発作が原因とみられる事故が起きるたび、免許更新の際に適性相談を受けるよう指導が強化され、結果的に免許を取り消される人が増えているのが実情だ。

 てんかんの7割以上は原因が不明で、誰もが発病する可能性のある病気だ。5割が薬物治療で完治し、服薬を続ければ発作を抑えられる人も2割を占める。意識喪失やけいれんを起こす場合もあるが症状はさまざまで、周囲が発作に気付かないケースもある。

 運転中の急病や発作による事故は昨年254件起きているが、てんかん以外のものが7割を超える。高齢による判断や運動能力の衰えが原因の事故はさらに多い。病気や加齢自体を危険視するのではなく、そのようなリスクをどうやって管理できるかを考えるべきなのだ。

 若年層の雇用難は深刻だ。運転免許がないと働けない職場もある。罰則を強化することで、持病のある人が不利になることを恐れ、ますます病気を隠すようになることが懸念される。医師による申告制度を設ければ、治療の場から足が遠ざかる人が増えはしないだろうか。

 被害者感情を考慮すると厳罰化は国民の支持を得やすいが、それだけで社会の安全は実現できるだろうか。てんかんなどの持病がある人に自己管理を促すためには、病気に対する社会の理解や職場での配慮が不可欠だ。また、高血圧や糖尿病など運転中の意識障害の原因となる病気を持っている人は大勢いる。てんかんだけの問題ではない。

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