介護ロボットの現状や問題点を探るシンポジウムが開催
神奈川県から介護ロボットの普及モデル事業を委託された社団法人かながわ福祉サービス振興会による「介護ロボット普及モデル事業 事例発表シンポジウム」が、2012年2月2日に神奈川県横浜市で開催された。同振興会は介護ロボットによる先進的な介護サービスの導入や普及に取り組んでおり、今回のシンポジウムでは、介護ロボットの現状や試験導入した施設からの結果報告が行われた。
冒頭に、神奈川県商工労働局産業部産業技術課長の飯田篤史氏が登壇。「介護ロボット産業は成長が期待できる分野だが、まだまだ小さい。今後の発展のために、企業とユーザーの関係をどのように構築していくべきなのか。普及や産業化の課題を考え、これから進むべき方向性を確認する機会としてほしい」と挨拶し、今回のシンポジウムに対する期待や意義の深さを示した。
身体動作支援用ロボットなどをデモンストレーション
試験導入した施設からの結果報告に先立ち、各メーカーによる介護ロボットの概要説明とデモンストレーションを実施。以下の4製品が紹介された。
・身体動作支援用ロボットスーツ「HAL」(CYBERDYNE)は、筋肉を動かそうとするときに人間が発する信号を検出してリハビリ運動をサポートする
・愛らしいアザラシ型のメンタルコミットロボット「パロ」(産業技術総合研究所)は、人の心を癒すアニマルセラピーと同じ効果を目指した
・睡眠管理システム「眠りSCAN」(パラマウントベッド)は、睡眠と覚醒のリズムを検出、記録することで睡眠障害などの治療に役立てる
・おむつタイプの尿吸水ロボ「ヒューマニー」(ヒューマンケア)は、夜間の排尿を自動吸引することで睡眠不足を解決する
「歩行能力の改善効果あり」「導入方法の確立が必要」など、ユーザーが利点や課題を発表
各メーカーの講演終了後、横浜国立大学大学院工学研究院の高田一教授がコーディネートする、ユーザー参加のパネルディスカッションを実施。「介護ロボットを試験導入してみて」をテーマに、実際に介護ロボットを導入した施設関係者から導入経緯や結果などが報告された。
まず初めに講演したのは、身体動作支援用ロボットスーツ「HAL」を導入した介護老人保健施設「老健リハビリよこはま」のリハビリ部長・舘正成氏。歩行能力の向上・改善を目的として、2名の男性に約2カ月間(週1回、20〜30分/回)HALを試用。歩行能力の改善効果に加え、モチベーションの向上、歩行時の重心位置をパソコンで視認できるシステムの有益性を利点として挙げた。一方で、着脱などの準備に手間取ったことや、HALの重みでバランスを崩した場合の介護が大変なこと、アシスト量のパワー調整の難しさを苦労した点として紹介。「介護者が慣れることで改善できる可能性はある」としながらも、予想を超えるマンパワーの必要性を課題として指摘し、利便性や軽量化などの改善を期待するとした。また、「ロボットに抵抗感を持つ人はいるのか?」という質問に、「なかには自分の足で歩きたいとおっしゃる方も結構いた」と述べ、介護ロボット導入における課題を示した。
次に報告したのはメンタルコミットロボット「パロ」を試験導入した特別養護老人ホーム「ゆとりあ」の小菅直子氏。説明会での映像からパロの有効性を感じ、入所者のコミュニケーション活動の向上と職員のスキルアップを目的として導入したという。実際導入してみると、1カ月後には他の利用者へパロを勧めるシーンも見られるなど、会話の量と質にいい変化が出たと説明。また、「利用者はロボットと認識して接しているのか?」という質問には、「はじめは本物の動物と感じていたようだ」という現場の印象を紹介。1カ月ほどで「どうもこれは動物ではない」と認識し始めるそうだが、そこから「いくらするの?」「お金があれば買うのに」といった話に発展したというエピソードを披露した。導入後の問題点としては、職員のコミュニケーションスキルの差、確立されていない導入方法、介護士の負担増などを挙げ、「効果的な導入には、これらの問題を解決するシステムや方法が必要に感じる」と語った。
続いて、睡眠管理システム「眠りSCAN」を導入した特別養護老人ホーム「横浜敬寿園」の副施設長・渡邉正文氏が講演。利用者の睡眠状況を完全には把握できていない不安から、睡眠改善と職員の負担軽減を期待して導入したという。導入後、まずは男女6名に2カ月間試用して睡眠状況のデータを収集。その後、収集したデータをパラマウントベッド睡眠研究所が分析し、結果に基づくケアプランを施設側に提案した。そのケアプランによる睡眠改善に取り組んだところ、6名中4名で改善が見られたという結果が示された。この改善により睡眠薬を使う必要がなくなったなど、健康管理の面でもよい結果が得られたという。また、眠りSCANをネットワークにつなぐことで、スタッフルームにあるパソコンからリアルタイムに利用者の起床状況を確認できるシステムについても報告。利用者が起きて離床するとアラームを鳴らす機能なども備えることから、夜勤時の巡回の手間が軽減されたという利点を挙げた。さらに、眠りSCANはマットレスの下に置いて利用することから、利用者が気づかずに運用できる点を評価。意図的に利用者が除けてしまうケースが報告されている従来のセンサーマットにはない、眠りSCANの有用性を説明した。
最後の報告は、尿吸水ロボ「ヒューマニー」を導入した川崎ナーシングヴィラ「春の風」の施設長・鷲谷真氏。排尿による不快感の軽減と睡眠の確保に期待し、2名の女性に試験導入を行った。その結果、1名は排尿の不快感による睡眠不足解消に効果があり、約2カ月間の試用で期待通りの結果を得たという。逆に、もう1名については吸水能力を上回る排尿量から水漏れを起こすというケースが発生。かなりレアなケースとのことだが、状況が改善できないことから約2週間で試用を断念する結果となった。対照的な結果ではあったが、当初の目的とした安眠の確保に加え、紙おむつと比較したゴミの減少や職員の負担軽減を利点として挙げた。また、紙おむつと違い排尿の量が確認できることから、「水分補給を促す目安にもなる」という利点を語った。改善点としては、操作性の向上やモーター音の対処などを指摘。夜間使用という点から、モーター音を気にするケースがあったことを付け加えた。
本格導入には、「費用」の壁あり
そのほか、どの介護ロボットも従来の介護製品よりは割高になってしまうことから、価格を導入の問題点として指摘する施設が多かった。普及を目指すうえでは、行政による補助金などの支援が不可欠という状況が浮き彫りとなった。一方で、社団法人かながわ福祉サービス振興会 介護ロボット推進室 室長の関口史郎氏によれば、同振興会は今後の取り組みとして「寄付事業の創設よる民間資金の活用を考えている」と語った。このような動きが、価格面での問題解決にもつながることに期待したい。
最後に、主催である社団法人かながわ福祉サービス振興会の専務理事・瀬戸恒彦氏が挨拶。「課題はたくさんあるが、これを乗り越えたところに介護の未来がある。日本の素晴らしい先端技術を介護の現場で実際に使ってもらい、介護ロボットの普及をよりいっそう図りたい」と述べ、情報発信や情報交換の重要性、試験導入の必要性を提言した。
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