米大学 入学者が減る5つの理由
配信元:ブルームバーグ
2012.11.3 05:00更新
わが子を一流の大学に入れようと努力している親にとっては信じられない話だろうが、今秋の米国の大学の入学者数は前年よりも減少しているようだ。いくつかの大学では大幅に減少している可能性がある。
全国的なデータはしばらく発表されないだろうが、各州のデータをみると、コミュニティー・カレッジを中心に、4年制大学の一部でも入学者数が減少していることがうかがわれる。オハイオ州の大学制度評議員会 の予備的データによると、オハイオ州の入学者数は5.9%減少。同州のコミュニティー・カレッジの一つのホッキング大学では入学者数が20%以上も減り、職員を解雇せざるを得なくなった。
中西部では、ほかにもミシガン州やウィスコンシン州で一部の大学の入学者数が減少。またアリゾナ州では、トゥーソン地区の大規模校であるピマ・コミュニティー・カレッジの入学者数が11%減少している。入学者数が過去最高を記録したアリゾナ大学など、いくつかの主要州立大学で入学者数が増える一方、コロラド大学などでは入学者数が前年より減っている。州からの補助金の減少が入学者数の減少をまねいているケースもあるが、理由はそれだけではない。
◆補助金減小 授業料上昇
入学者数の減少について、考えられる理由は5つある。
1つ目は、新入生の中心となる18歳人口の減少である。ただ、昨年の18歳人口の減少率は2%程度であり、これだけでは大学入学者数の大幅な減少を説明するには不十分だ。
2つ目は、入学担当者らが論じているように、景気の回復が入学者数の減少に影響しているというものだ。確かに大学の入学者数と景気との間には負の相関関係がある。景気が悪いと就職が難しいため、若者だけでなく上の世代を含めて大学に通おうとする人が増える。そして景気が回復すると逆に就職へと向かうのだ。しかし米国の雇用は前年と比べて大して伸びてはおらず、大学入学者数の大幅な減少を引き起こすほどのものではない。
3つ目は、連邦政府による補助金の支給条件の厳格化である。例えば奨学金制度の一つであるペル・グラントでは、奨学金の支給期間が従来の9年間から6年間に短縮された。今まで奨学金を受け取っていた学生の相当数が支給対象外となり、大学を辞めざるを得なくなる可能性がある。民間非営利団体(NPO)インスティテュート・フォー・カレッジ・アクセス・アンド・サクセスのポーリーン・アバナシー氏によると、その数は10万人を超えるという。経済的に不利な立場にある学生を多く抱える大学では、それなりに大きな影響を受けるだろう。
4つ目は、大学の授業料の上昇ペースが市場の状況を反映していないことである。授業料の上昇を示す完全なデータは入手できないが、この秋の授業料がインフレ率を上回る率で引き上げられていることは確実と言ってよいだろう。例えば全米独立大学協会(NAICU)の発表によると、加盟大学の2012-13年度の授業料の平均値上げ率は3.9%だった。消費者物価指数の上昇率は2%であり、およそ2倍のペースである。ここ最近、公立校の授業料はさらに大幅に上昇している。これは主に州の補助金の減少が理由であり、この流れが今年も続いているとすれば、公立校の授業料の値上げ率は5%近く(インフレ調整後で約3%)になるだろう。
◆人は皆平等ではない
最後に--これが最も重要だと思われるが--大学進学に金をかける意義に懸念が生じていることだ。ある試算によると、最近の大学卒業生の53%が失業状態あるいは比較的低賃金・低スキルの仕事に就いているという。学生と親は長い目で大学進学を決断する必要があり、その大学で学位を取ることによって期待できる生涯賃金の多寡を検討しなければならない。
私が思うに、そこに長期的な課題があることは単純な計算をしてみれば分かる。成人米国人の40%ほどが短期大学卒業以上の学位を持っているが、実際の職業のうち技術職、専門職、管理職が占める割合はそれより低いのである。
さらに、大卒人口の増加率は高賃金の仕事の増加率を上回っている。米労働統計局が今後10年で最も成長すると予測する上位30職種の大半は、正式な高等教育を必要としない職種である。われわれの予測では、20年までに必要とされる生物医学分野のエンジニアは1万人ほどだが、カスタマーセールスの担当者は34万人ほど必要だ。
基本的な数学の問題だが、全員が平均以上になれることはあり得ない。一部の州ではこの問題を認識しており、例えばミシガン州のスナイダー知事は最近、4年制大学の学位よりも職業教育に重きを置くことを求めている。
このまま高学歴を求める流れが続き、成人の半分以上が大卒の学位を持つようになれば、当然のことながらその中には平均以下の賃金しか得られない人も出てくる。そうすれば高等教育機関は、今度は「この複雑な世の中では、大学院修了以上の学歴が不可欠だ」とアピールするようになるだろう。このような証明書偏重主義は、貴重な人材資源の浪費につながるのではないだろうか?(ブルームバーグ Richard Vedder)