名誉毀損とは

民事と刑事の両方がある

 もともと、名誉毀損というのは、他人の悪口を言いふらしてはいけない、という道徳的な要請があって、法律でも定められているものである。理由もなく悪口を言いふらされて、社会的な評判が落ちた場合は、刑事と民事の両方で責任を追求できる。

 わかりやすいのは、具体的な条文のある刑法だろう。何をすると処罰するかあらかじめ国民に知らせておかなければならないので、具体的に「やってはいけないこと」が定められている。

     第三十四章 名誉に対する罪

(名誉毀損)
第二百三十条  公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2  死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二  前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2  前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3  前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

(侮辱)
第二百三十一条  事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

 230条が、他人の悪口を言いふらしてはいけない、という内容にあたる。しかし、結果的に誰かの悪口になってしまっていたとしても、「真実を広く世の中に伝える」ことも大切である。だから、230条の2がある。内容が公共の利害に関することである場合は、結果として誰かの評判を落とすことになっても、それを知ることの利益を確保しましょう、ということである。

 民法には、名誉毀損に関して個別に決められた条文はない。もっと広く、他人に損害を与えたら賠償金を支払え、という内容として定められた条文を使うことになる。

    第五章 不法行為

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

 民事上の責任を問う場合も、基準は刑法と同じである。つまり、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められれば、名誉毀損の責任は問われず、賠償金を支払う必用はない。

 法律上の「名誉」には三種類ある。自己や他人が自身に対して下す評価から離れて、客観的にその人の内部に備わっている価値そのものである「内部的名誉」、人に対して社会が与える評価である「外部的名誉」、自分が自分の価値について有している意識や感情である「名誉感情(主観的名誉)」の三つである(「名誉毀損の法律実務」佃克彦)。
 名誉毀損でいう「名誉」とは、外部的名誉を意味する。名誉毀損が成立するには、他人の社会的評価が低下することが必用である。「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉を違法に侵害」すること、となっている。

 名誉毀損で争う場合は、「これこれの内容をこんな形で原告が公表した」ということが訴状で示され、「この部分が原告の社会的評価を低下させた」という主張がなされる(特定の表現ではなく「文書全体から受けるニュアンス」で判断される場合もあるが)。
 名誉毀損とされた行為そのものについては、原告と被告の間に争いが無いのが普通である。争いは、具体的に示された事実が名誉毀損にあたるかどうかという形で起きる。訴えられた側は、「公共の利害に関わる事実で公益目的だから名誉毀損に該当しない」とか、「単に意見を述べただけだから社会的評価とは関係ない」といった形で争っていくことになる。

 ともかく、 名誉毀損が成立するには、社会的評価が変わらなければならないわけだから、原告にだけ理解できるがそれ以外の人にはまったく理解できない方法で名誉を毀損した、という場合は名誉毀損が成立しなくなる。

 

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