1 はじめに(報道内容)
平成24年4月18日、東京高等裁判所は、「ある男性に対する名誉毀損的な内容を含むウェブページへのリンクを、その男性の実名や職業とともに2ちゃんねるに投稿する」という行為につき、第1審判断を覆し、名誉毀損に該当するとして、プロバイダに対する発信者情報開示請求(※)を認める判断を下しました。
事案・判断の詳細などは公開されておらず、不明ですが、「リンクを貼っただけでは名誉毀損に該当しない」という第1審の東京地裁の判断を覆した点で、さらには、総務省が開催する「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の提言内容とも相反するといわざるを得ない点で、重要と思われましたので、以下、若干の考察を加えたいと思います。
2 今回の争点(名誉毀損行為の主体が誰か)
そもそも、ある者が民法第723条にいう名誉毀損行為を行ったと結論付けるためには、その者が、「他人の社会的評価を低下させるような事実の流布をした」との法的評価が下される必要があります。
ですから、上記の東京高等裁判所の判断には、単なる英数字の羅列であるウェブページのアドレス(例えば、http://www.foresight-law.gr.jp/)を示しただけで「事実の流布をした」といえるのか、名誉毀損行為を行っているのは、リンク先のウェブページの開設者であるはずなのに、本件の発信者も名誉毀損行為をした者と法的に評価してよいのか、という疑問が生まれます。
3 「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の提言
このような疑問を反映してか、総務省が開催する「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」も、プロバイダ責任制限法に関する提言の中で、リンクを貼っただけでは、「現状では、これを(筆者注:発信者情報開示の対象となる)『情報の流通』に含めることは困難」と、その解釈を示しています。
また、同研究会は、リンク情報自体を送信防止措置(削除請求)の対象とすべきかという点についても、「リンク先の情報の流通行為とリンク情報の流通行為とが関連共同性を有する一体のものと評価される場合には、リンク情報の流通がリンク先の権利侵害行為との間で(広義の)共同不法行為と評価されうる」との一定の留保はつけつつも、「送信防止措置の対象とはならない可能性が高い」としています。
4 第1審の判断について
第1審である東京地方裁判所は、これと同様の考え方のもと(だと思われます)、「リンクを貼っただけでは名誉毀損に該当しない」と判断しています。
確かに、リンク先のウェブページは「他人の社会的評価を低下させるような事実」を記載していたのでしょうけれども、単なる英数字の羅列を示し、他人のウェブページのアドレス(インターネット上の住所)を示しただけで、そのアドレスを示した人自身が、「他人の社会的評価を低下させるような『事実の流布』をした」のだとすることには、感覚的には違和感をもたれるのではないでしょうか。
検索サイトにおけるスニペット(※)のように、名誉を侵害する情報そのものが記載されている訳ではないですから、リンクを貼る行為自体について、「名誉毀損に該当しない」との判断は十分成り立ち得ると思います。
5 東京高等裁判所の判断について若干の考察
これに対し、東京高等裁判所は、「名誉毀損的な内容を含むウェブページへのリンクを貼ることにより、そのリンク先の内容を自分の書込みに取り込む意図がある」という判断のもと、この判断を覆し、「名誉毀損に該当する」と判断したとの報道がなされています。
この報道によれば、東京高等裁判所は、リンクを貼る行為について、そこにリンク先のウェブページを引用したり、コピーアンドペーストで貼り付けたのと同視できるという結論をとったものと思われます。
しかし、単に氏名や職業とともに、脈絡なくリンクを貼っただけだと仮定すれば、果たしてこのような結論が正当か、という点には、疑問なしとはしません。
名誉毀損情報をインターネット上に掲載したのは、あくまでリンク先のウェブページ作成者であり、リンクを貼った者は、「リンクと共に記載された氏名・職業の者に関連する情報が存在する(かもしれない)ウェブページはここですよ。」との情報を掲載したに過ぎないと思われるからです。
「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の提言からすれば、第1審のように「名誉毀損には該当しない」との判断が正当、ということになると思われますし、被害救済の必要性を考慮したとしても、名誉毀損情報の拡散に寄与したとして、幇助(※)責任を認めれば足りたとも思われます。
6 最後に
とはいえ、インターネット掲示板における前後の文脈・話題や、リンクと共に記載された文章・単語、リンク先の違法性の強度によっては、東京高等裁判所のような結論となることも十分考えられると思います。
また、いずれにせよ、本件の東京高等裁判所の判断は、インターネット上で情報を発信しようとする方にとっても、インターネット上の情報により権利を侵害された被害者の方にとっても、リンクを貼る行為について名誉毀損該当性を肯定した事例として、重要な意義をもつものだと思われます。
さらに、掲示板等のCGMサイトを運営する企業・プロバイダはもちろん、クローラーなどを用いて、自社サイトにコンテンツの関連情報URL等を掲載している企業にとっても、規約やリンクの掲載方法について、改めて(最終的に故意・過失の要件で責任を否定する余地はありますが)リスクを検討する契機とすべき事例と思われます。
最高裁判所の判断がまたれるところですが、あくまで個別の事件の事情をもとに判断せざるを得ない性質の事件であり、具体的事例を踏まえた判断が欠かせませんから、その判断に迷われた際などには、専門家のアドバイスを聞くことをお勧めいたします。