住民が腐敗幹部を追放して民主選挙を行った中国広東省陸豊市烏坎(うかん)村。住民蜂起から一年以上たったが、前幹部が不正売却した村の共有財産の土地の奪還は進まず、農民の権利を守る先進例として期待された「烏坎モデル」も広がりを見せていない。中国の農村にはびこる腐敗問題は、八日開幕の共産党大会で決まる次期指導部に先送りされる。 (広東省陸豊市烏坎村で、今村太郎、写真も)
洋風の三階建て別荘が並ぶ大通りを抜けると白亜のホテルが現れた。烏坎村の海岸沿いにあるリゾート地「南海庄園」。腐敗幹部が開発業者に使用権を売り飛ばした土地。だが、別荘は買い手が付かずホテルも閑古鳥が鳴く。使用権が村に戻る見通しもない。
千五百万平方メートルの漁村で、村トップだった前書記らが不正売却したのは、約三分の一の四百三十万平方メートル。売却益は前書記らが横領し、村民の農地や共有地には、工場やホテルが建設された。
三月の民主選挙で選ばれた村民委員会(執行部)が使用権の奪還を進めるが、揚色茂・副主任は「地権者が協議に応じないなど難題も多い」と表情を曇らせる。奪還した土地はわずかで、村民への再分配はいまだゼロ。九月下旬には、不満を募らせた村民が村役場を囲む騒動も起きた。
二月、温家宝首相は烏坎村の動きを受けて「農民の権利を保護すべきだ」と発言。次期指導部入りを目指して実績をアピールしたい広東省トップの汪洋・党委書記は、三月の全国人民代表大会(国会)で烏坎モデルを「省内の村に広める」と宣言した。
だが、「烏坎に続け」と近隣の村で起きた抗議行動はことごとく制圧された。土地の不正取引は、中国で年間十万件近く発生する抗議行動の大半を占めるとされ各地の農村には不満が渦巻く。喫緊の課題だが、烏坎村では「一時的なガス抜きのために利用されただけ。共産党は、本心では烏坎のような民主的な活動が広がることを恐れている」と失望の声も漏れる。
<烏坎モデル> 広東省北東部の烏坎村で、村の共有財産である土地の使用権を勝手に売却して私腹を肥やしていた幹部の追放を目指し、昨年9月に村民が蜂起。自治組織を結成し、省政府への陳情や激しいデモの末に幹部を追放。今年3月には民主選挙で新幹部を選出し、土地の奪還を目指している。
この記事を印刷する