2010年10月21日

<渋谷シビック法律事務所 大胡田 誠先生>

ogoda大胡田先生にインタビューをさせて頂きました。

Q1.弁護士になろうと思ったきっかけを教えて下さい。
A1. 私は、生まれつき目が不自由で、弱視でした。そして、小学校6年の頃から、病気が進行し全盲となりました。ですから、中学に入った直後は自暴自棄にもなりました。しかし、そんな時、読書感想文で読んだ「ぶつかって、ぶつかって。」という本に出会ったのがきっかけとなりました。この本の著者は私と同様、目に障害を抱えた竹下義樹という弁護士の方で、日本で初めて点字による司法試験に合格した方でした。この本を読んで、目が不自由でも弁護士に成れると知り、希望を持つことができました。当時の私ですら、司法試験は最難関の試験であるということは、何となく分かっていましたが、自分も弁護士になろうと強く思いました。



Q2.弁護士になって特に印象に残っている案件(事件)を教えて下さい。
A2. 弁護士という仕事の特性上、個人個人の人生観に深く立ち入るため、全ての事件が印象的です。その中でも印象深い事件を紹介させていただきますと、現在進行中の事件なのですが、知的障害者の施設での虐待事件の代理人に就任しまして、まだ裁判までには至っていませんが、人権救済の申し立てをしようと尽力しております。知的障害者の方々にとって、なかなか自分から声を上げることが難しいこともあり、マスコミからも取り上げられることも少ないので、こういった事件を社会問題化したいという気持ちが強いです。障害を持っている方の、声なき声をくみ上げて、弁護士が社会正義を実現していくということが大切なのではと思います。
最終的には、訴訟を起こすことも考えられますし、マスコミ等に記者会見をして、人権の尊重を訴えようと考えております。

Q3.弁護士のお仕事の中で嬉しかったことは何ですか。
A3. 弁護士になる前は、目の見えない弁護士だから、他の方に変えてくれと言われるのではないかと思い、不安でした。しかし、幸いにも事件が解決した際に、「障害と闘いながら頑張っている先生を見て、自分も頑張ろうと思いました。勇気をもらえました。」というお言葉を依頼者の方から頂けて、とても嬉しく思いました。
この仕事は辛いこともありますが、それは言い換えれば依頼者の方のための辛さや努力であるので、振り返って、冷静に考えてみると、日々嬉しさを実感する仕事なのだと思います。

Q4.弁護士になって一番大変だなと感じることは何ですか。
A4. 一般に目に障害を持っておられる方は、読む、書く、移動する、ということが大変だと言われていますが、確かにそういった部分での大変さはありますね。弁護士という仕事の特性上、資料を探したり、書面を読んだりすることが難しいです。スキャナで電子データ・テキストデータに返還し、音声変換して読むという、ワンクッションを置かねばなりませんから。

Q5.休日はどのようにお過ごしですか。
A5. マラソンが好きなので、土日のうちの一日は走るようにしています。走り始めてもう3年になるので15キロ〜20キロは走って、体力づくりに励んでいます。
後は、仕事柄、睡眠不足になりがちなので、しっかりとした睡眠を取っています。

Q6.弁護士としてお仕事をする上での信条・ポリシーを教えて下さい。
A6.一つは事前の準備を怠らないということです。相手と交渉する際には、将棋の騎士が何手も先を読むように、私もパターンを先読みして交渉に臨むようにしています。
相談の際にも、事前に要点を聞き取っておいて、相談に乗るということを常に心がけています。
もう一つは、事件の着手を早くするということです。やはり、一旦脇に置いてしまうとズルズルと先延ばしにしてしまうものなので、訴状の頭出しや、見出しだけでも作ってしまうだけでも、違いますね。ロースクール時代の先生に「着手8割」という教えをいただきましたが、本当にその通りで、着手さえしてしまえば段々と形になります。「0」のものを「1」にするエネルギーはとても大きく、労力を使うものなので、事件に早く着手するということは、とても大切だと思います。

Q7.ご依頼者様に対して、特に気をつけていることは何ですか。
A7. 依頼者の方にお話をきちんと共感を持って聞くということです。破産したり、刑事被告人になった経験はありませんし、依頼者の方と同じ立場に立つということはできませんが、誰しもが持っている感覚で理解しようと努めています。また、それと相反するようですが、依頼者の方に流されすぎず、事件を客観的に見るという、プロとしてのクールな一面も同時に持ち合わせていないといけません。その両方のバランスが難しいところではあります。
本当にご苦労されてかわいそうだなと思ってしまう方も来られますので、プロ意識と温かい気持ちの両方を常にもっていようと心がけています。

Q8.弁護士として特に関心のある分野は何ですか。
A8. 自分が障害を持っているということもあり、労働法の分野には関心があります。障害の有無に関わらず、誰しもが社会の中で尊厳をもって生活できる人生を送るためには、労働というのは重要なファクターであると思うのです。
また、障害者に対する差別を禁止する立法活動やロビー活動もしております。

Q9.今後の弁護士業界の動向はどうなるとお考えでしょうか。
A9. 自分のこととしても、切実な問題でしょうね。このまま、商売としてやっていけるのかという不安は当然あります。しかし、弁護士という職業は特権階級でもなんでもないので、今までが守られすぎていたのではないでしょうか。学校の先生、警察官や、店の店主のような、身近で普通の仕事になっていくのではないかと思います。おいしいパンを作れるパン屋さんが繁盛するのと同じように、きちんとした弁護士が食べていけるという業界に変わっていくと思います。その意味で、この業界にも良い競争が図られるのではないかと考えております。確かに、急激な変化がなされてしまうと、好い弁護士でも仕事がなくなってしまうという事態を招きかねないので、注意が必要ですが、弁護士としての倫理観やスキルが蔑ろにならず、良い状態を維持したまま、きちんとした段階を踏んだ変化であれば、庶民目線での仕事を実現できると思います。
また、未開拓の仕事はきっとあるはずです。例えば、生活保護を受給できるのに、受給していない人のための仕事があってもいいはずですし、もっと足元を見た、身近な仕事を開拓する余地も残されていると思うのです。

Q10.先生の今後のビジョンを教えて下さい。
A10.弁護士になって3年目なので、まだまだ、未熟者ですから、法的な知識やスキルを貪欲に吸収しそれと同時に人間性も高めて行きたいと思っております。それが、依頼者の方を法的にも人間的にも支えるということに繋がると思います。そして、先ほども申し上げた、どんな人でも尊厳をもって生活できる社会を目指して行きたいと思います。

Q11.ページを見ている方々に対してメッセージをお願い致します。
A11. もうだめだと思っても、必ずどこかに道はあるものです。ですから、借金やトラブルに巻き込まれても、見方を変えれば、何とかなることもあります。しかし、お1人で悩まれていると、それに気づくことができないと思います。そんな時に、良い相談役として、弁護士を使ってみてはいかがでしょうか。諦めずに弁護士に相談してみてください。

Q12.ページを見ている法曹界を目指している方に向けてのメッセージをお願いします。
A12. 法律家は全ての人間性が問われる仕事です。人生においてもそうですが、無駄なことというのは一切ありません。試験に落ちた経験であったり、勉強とは関係の無い本を読んだり、色々な人と会ったりすること等が、全て法律家としての財産になります。ですから、色々な経験をして、深みのある人間になってほしいですね。そして、決して諦めないで下さい。
かくいう私も、司法試験には4回落ちています。ですが、あの時代があったから今があると思えます。もうだめだと思ってからが本当の勝負です。病気で勉強ができない時期があっても、それは一つの財産です。経済的に苦しくて、アルバイトに時間を割かなくてはいけないため、勉強の時間が取れないということも、それも一つの財産です。
ですから、どんな逆境でも、諦めずに、前向きに、常に希望を持って頑張ってください。

<取材学生からのコメント>
大胡田先生は、幼い頃から目が不自由で、大変なご苦労をなさったことと思います。弱視であった目が、急に光を失ったというショックは私には想像できません。ですが、全盲という障害と闘いながら、弁護士になられて、常に依頼者の方のために尽力され、そして、どんな人でも尊厳を持って生活できる社会を作って生きたいというお言葉には心を打たれました。
取材中、目に涙がこみ上げてしまった私に、大胡田先生は気づいておられないかもしれませんが、先生の強さ、そして、優しさを言葉の節々に感じ、私も頑張ろうという勇気とパワーをいただけたと思います。
今回の取材で、人はいつも自分の限界を自分で決めているのだなと感じました。目が不自由だから、弁護士にはなれない。足が不自由だから、スポーツ選手は無理だ。そんな風に、自分の限界のラインを自分で引いてしまうことがいかに情けないことかと痛感しました。現に大胡田先生は、全盲という障害を抱えながらも、立派に弁護士として活躍しておられています。足が不自由な方や目の不自由な方でも、パラリンピックで活躍なさっています。
挑戦することの勇気、諦めないことの強さを、今回の取材で学ぶことができました。この記事を読んだ方が少しでも「頑張ろう」という気持ちを持ってくれれば幸いでございます。
最後になりましたが、今回の取材は私にとって忘れることのできない大変貴重な経験となりました。大胡田先生の今後の更なるご活躍をお祈り申し上げ、取材学生からのコメントの結びに代えさせていただきます。

早稲田大学法学部3年 葛巻瑞貴

 



bengoshiretsuden at 11:00│Comments(0)TrackBack(0)インタビュー 

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