空の軌跡エヴァハルヒ短編集
第七十二話 2012年11月1日計量の日記念LAS短編 アスカのハンバーグ禁止令!


その日もいつものように葛城家の台所に立ったシンジは、夕食のハンバーグを作っていた。
牛ひき肉と豚ひき肉、パン粉と卵をこねて混ぜて、下準備していた玉ねぎのみじん切りを加える。
ここまでは普通のハンバーグなのだが、シンジは隠し味に牛乳などの様々な調味料を入れた。

「きっとアスカも満足してくれるかな」

シンジは最近、アスカの元気が無い事を心配していた。
別にシンクロ率が落ちているとか、勉強の事で悩んでいるとか、そう言った様子は無い。
憂鬱そうな顔でため息をつくアスカを見て、シンジは大人しくなったと喜んでいたのだが、やっぱり元気なアスカが好きなのだと改めて思ったのだ。
だから今日の夕食は腕によりをかけたハンバーグを作り、アスカへのサプライズプレゼントにするつもりだ。
肉の焼ける香ばしい匂いが漂って来た所で、アスカが家へと帰って来た。

「何よ、今日の夕食はハンバーグなの!?」
「うん、そうだよ」

シンジは驚いたアスカに笑顔で答えた。

「アタシ、ハンバーグ食べたくない」

アスカの言葉を聞いたシンジは驚いてフライパンを持つ手が固まった。

「どうしたのアスカ、体の調子でも悪いの?」
「どうしたもこうしたもないわ、これからハンバーグは一切禁止よ!」
「ええっ、どうして?」
「シンジがハンバーグなんか食べさせるから、アタシの体重が増えたんじゃないの!」

怒ったアスカはシンジに人差し指を突き付けてそう言い放った。

「そんな、言いがかりだよ」
「とにかく、アタシに肉を食べさせるなんてもっての外よ、いいわね!」

アスカに宣言されてしまったシンジは落ち込んでしまった。
シンジは初めからハンバーグを作るのが好きで得意と言うわけではなかった。
葛城家にアスカが同居する事になり、アスカが駄々をこねるので仕方なくシンジはハンバーグをこね始めたのだ。
エヴァンゲリオンのパイロットと言う慣れない環境もあって、シンジはそれまで手の掛からない簡単な料理しかしてこなかったので、上手く作れるはずも無くアスカに文句ばかり言われていた。
それでもシンジはいつかアスカに認めてもらおうと努力を重ねて、やっと満足の行くハンバーグを作れるようになった。
その頃からアスカにハンバーグをねだって貰える事は、シンジにとって嬉しいものに変化していたのだ。

「分かったよ、それじゃあ別の物を作るから」

そう答えたシンジはアスカの分のハンバーグにラップをかけて、別の料理を作り始めた。
アスカは満足して自分の部屋へと入って行った。

「くそっ……!」

アスカが立ち去った後、シンジは悔しさから歯をくいしばるのだった。



「あれシンちゃん、アスカだけハンバーグじゃないの?」

夕食の直前に帰って来たミサトは、アスカの席を見て尋ねた。

「はい、何でもダイエットするからだって」

シンジが答えると、ミサトはお腹を抱えて大笑いを始める。

「あははっ、アスカってば本当に解りやすい性格しているわね!」
「う、うるさいっ!」

ミサトの声を聞きつけたアスカが部屋から出て来て叫んだ。

「どういう事ですか?」
「アスカってば、この前の身体測定で、レイのデータを見ちゃったのよ」

シンジの質問にミサトが答えると、アスカの顔は真っ赤になった。

「なるほど、だから元気が無かったんだ」
「とにかく、ファーストの方がアタシより軽いなんて屈辱だわ!」
「でも全く肉を食べないって事は無いんじゃない? それに肉よりも炭水化物の摂り過ぎの方が問題なのよ」

アスカがリビングに寝転がってポテトチップスやアイスを食べている事を指摘すると、アスカは反論できなかった。

「だからハンバーグを我慢する事はないのよ」
「わ、分かったわよ……」

ミサトに言われたアスカはハンバーグに手を伸ばした。
それを見たシンジはホッと胸をなでおろす。

「そうだ、ダイエットするなら運動する方が良いじゃないかな?」
「えーっ、そんな面倒くさいの嫌よ」

シンジの提案にアスカは不満そうな声を上げた。
そんなアスカをなだめるようにミサトは声を掛ける。

「毎日走れば痩せるって言うし、頑張ってみなさい」
「何を他人事みたいに言ってるのよ、ウェストがヤバいのはアタシよりミサトじゃないの」
「えっ、あたしも!?」

ミサトは驚いた顔で自分を指差しアスカに尋ねた。

「それじゃ、明日5時にアスカとミサトさんを起こしますよ」
「何でそんな朝早く起きなくちゃいけないのよ?」

シンジの発言を聞いたアスカはそう言ってシンジをにらみつけた。

「ミサトさんは仕事があるんだから、朝しか時間が無いじゃないか」
「いいのよ、あたしは仕事の合間にちょっと走ったりするから」
「ダメです、こう言うのはしっかり時間を取って毎日続けないと効果がありません」

キッパリとシンジが言い放つと、ミサトはガックリと肩を落とすのだった。



次の日の朝、気合を入れたシンジはアスカとミサトを起こそうとするが、案の定アスカとミサトは起きようとしなかった。
ご飯を抜きにすると脅してみても、コンビニで買うからと答えて効果が無い。

「全くアスカもミサトさんも僕を甘く見ているんだから」

シンジは頬を膨れさせながら早朝のニュース番組を見ていた。
しばらくすると番組は健康情報を取り扱ったコーナーになる。

「……これだ」

目を輝かせたシンジは、加持の携帯に電話を掛ける。
朝にもかかわらず加持はすぐに電話に出てくれた。

「こんな朝早くにすみません、加持さんに頼みたい事があるんです」
「構わないさ。それで何だい、話って?」

シンジは父親のゲンドウに提案したい事があるので、援護をしてほしいと話した。
話を聞いた加持は楽しそうに笑ってシンジの頼みを快諾した。
放課後、シンジは加持と一緒に司令室のゲンドウに面会を申し込んだ。

「私は忙しい、話があるのなら早くしろ」

尊大なゲンドウの態度に、シンジは思わず威圧されてしまいそうになる。

「実は父さんと一緒に早朝ランニングをしたいと思って誘いに来たんだ」
「何だと?」

シンジの言葉にゲンドウは驚いて聞き返した。
加持がすかさずフォローを入れる。

「健康を気遣ってくれるなんて、素晴らしい息子さんじゃないですか」
「私の健康状態に問題は無い」
「座ってばかりの仕事では、メタボが心配でしょう」
「はは、これは一本取られたな、碇」

加持の言葉を聞いた冬月が愉快そうに笑った。

「副司令は毎朝ランニングをされているそうですね」
「ああ、おかげで風邪も引かないよ」
「ふん、年寄りは早く目が覚めるからな」
「お前もいい加減に中年だと言う事を自覚しておけ」
「父さん、僕と一緒に走ろうよ!」

最後にシンジがそう訴えると、ゲンドウは首を縦に振る。

「だが私がやるからには、ネルフ全員参加だ」
「うん」

ゲンドウの言葉を聞いたシンジは心の中でガッツポーズを決めた。



そして次の日の早朝から、ネルフの職員も巻き込んだジョギング大会が開かれる事になる。

「どうして私まで……」

とばっちりを受けたリツコは迷惑顔だ。

「でも走るのは気持ち良いですよ、先輩!」

まだ20代前半のマヤは朝から元気いっぱいだった。
ミサトとアスカもブツブツ文句を言いながらもネルフ総司令の招集に遅刻するわけにはいかず、起きてジョギングに参加した。
ジョギングはゆっくり走るランニングなので、今まで本格的に走った事のなかったシンジ達も脱落せずに続ける事が出来た。
慣れてくると走る事に楽しさを感じ始めたシンジ達だったが、シンジにとって一番嬉しい事はハンバーグ禁止令が解かれた事だ。
シンジはアスカの舌をうならせるハンバーグを作るために努力を重ねたが、ハンバーグ以外の料理も頼まれて少し凹んでしまうのはまた別の話。

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