英雄達の憂鬱 平和への軌跡
クロスベル編
第五十一話 アリオスへの脅迫


<クロスベルの街 住宅街>

エステル達がタングラム門で軍事演習をしている頃、参加せずにクロスベルの街に残ったヨシュアは街の中でこなせるような細かい仕事をしていた。
クロスベルの街は中央広場・西通り・東通り・住宅街・歓楽街・行政区・港湾区・旧市街などに区分けされていて、リベール王国の首都グランセルの何倍もの規模を誇る。
ヨシュアは帝国や共和国の首都には行った事は無いが、クロスベルが世界屈指の大都市である事は納得できた。
経済的に繁栄を遂げたこの街には海を越えた向こうの大陸からも人が集まってくる。
この街なら――もし帝国と王国の外交関係が悪化しても、エステルと2人で身を隠して暮らしていけるかもしれない――とヨシュアは思った。
魔都とも呼ばれるこの街では、闇に潜むように生活している者も少なからず存在している。
しかし、ヨシュアは浮かんだその考えをすぐに馬鹿な考えだと振り払った。
エステルに陽の当らない道を歩ませるわけにはいかない。

「エステル、大丈夫かな……」

朝は遊撃士協会で大見得を切ってエステルを送り出したものの、ヨシュアはエステルの事が心配で仕方がなかった。
ヴァンツェルに苦手意識を持っていたエステルは上手くやっていけるのだろうか、試合に負けて落ち込んでしまっては居ないだろうか……。
気が付けばエステルの事ばかり考えてしまっている、自分の方がエステルに頼っているのかもしれないとヨシュアは苦笑した。
ヨシュアは目的地である、クロスベルの一角に位置する住宅街へとやって来た。
クロスベルの不動産を多数所有するイメルダ夫人から、この住宅街にある空家に何者かが入り込んで居ないか確かめて欲しいと言う依頼を受けたのだ。

「つい最近、開けられた跡がある」

無人で荒れ果ててしまっている家の門を覆っているツタのつるが、人為的にちぎられていた。
音をたてないようにそっと門を開けて塀の内側に入ると、庭には小さな靴の足跡が残っていた。
足跡はまだ新しく、侵入者はまだ家の中に居る可能性が高い。
ヨシュアは息を潜めて家の中へと足を踏み入れるが、最初の部屋には誰の姿も見当たらなかった。
玄関から小さな靴跡が奥の部屋へと続いている。
ヨシュアは足音を殺して奥の部屋へ通じるドアへと近づき様子をみると、中からは何かを漁っているような物音と、ボソボソとした話し声が聞こえた。
どうやら複数の子供達が入りこんでしまっているようだった。
子供達は足が速いので逃がさないようにしなければ、とヨシュアは気持ちを落ち着かせてドアを開いた。
すると部屋の中には見知った紫色の髪をした少女が、赤い髪の小さな少年と一緒に居た。

「レン、君の仕業だったのか」
「あらヨシュア、今日はエステルと一緒じゃないの?」

ヨシュアが声を掛けると、レンは振り返ってそう答えた。

「エステルは別の依頼でタングラム門まで行っているんだよ」
「ふーん、だからヨシュアは寂しそうな顔をしてるのね」

レンに図星を突かれたヨシュアだが、グッとこらえてヨシュアはレンに言い聞かせる。

「話を反らそうとしてもダメだよ、勝手に他人の家の中に入るのはいけない事だって、君も分かっているだろう?」
「レンはね、事件の調査に来たのよ」

ヨシュアに注意されても、レンは悪びれる様子もなく反論した。

「調査?」
「そう、弟のコリンがね、この家に綺麗なお姉さんが住んでいるって」
「でも、誰も居ないみたいだけど」

所有者のイメルダ夫人からこの家には長らく誰も住んで居ないと聞いていたし、先ほどの部屋にも人が生活していた様子がまるで感じられなかった。

「そんな事無いよ、僕はお姉ちゃんとたくさんお話をしたんだもん!」

ヨシュアの言葉に、今までレンの側で話を聞いていた赤い髪の小さな少年が言い返した。

「コリンは絶対にウソを付くような子だとは思えないの、だからきっとその綺麗なお姉さんを見たんだわ」

レンは自信たっぷりにそう言い切った。
しかしヨシュアはここに人が住んでいる可能性を否定する。

「きっとその時に同じようにこの家に忍び込んだ子が居たんじゃないかな?」
「それも考えたけど、コリンは何回もそのお姉さんに会っているのよ。だからこの家に住んでいるって可能性は否定できないわ」
「だけど、生きている人間が生活していればそれなりの跡が残っていたりするものなんだよ」

ヨシュアは理論的にレンを言い聞かせようとするが、レンは自分の考えを曲げない様子だった。

「じゃあ、生きていない人間ならどう? 例えば幽霊とか」
「幽霊だって?」

レンの意見を聞いたヨシュアは驚いた。
常識的な考えを持ってしまった自分には出来ない発想だ。

「もし幽霊なら、エステルが居たら大騒ぎになっていたね」
「へえ、エステルって幽霊が苦手なのね」

ヨシュアの話を聞いてレンは楽しそうに笑った。
しかしエステルを知らないコリンは不思議そうな顔をして、レンの腕を引っ張った。
コリンに気が付いたレンは真剣な表情になってヨシュアに説明を始める。

「コリンが会ったお姉さんは生き別れになってしまった双子の妹を探しているらしいのよ。それでコリンにも、そのお姉さんに似た子を見かけなかったかって聞いたみたいよ」
「僕、そのお姉ちゃんの話を聞いて街を歩き回って探してみたんだけど、なかなか見つからないからレンお姉ちゃんに相談したんだ」

コリンは残念そうに肩を落としてそうつぶやいた。
そして、レンはヨシュアの腕を引っ張り部屋のさらに奥へと案内した。
目の前の豪華な棚には少女の人形が1体置かれている。
その人形はまるで生きているかのように精巧に作られていた。

「まさか、この人形が幽霊?」
「うん、僕が話したお姉ちゃんにそっくりなんだ」

ヨシュアが疑問の声を上げると、コリンはうなずいた。

「ほら、あの人形の隣を見て。もう1体人形が置けそうなスペースが空いているでしょう?」

レンが指差した棚を見ると、確かに人形が2体入りそうな広さだった。

「きっともう1体の人形は売られるか、ここから盗まれるかしてしまったのよ。だからあの人形が幽霊になって探しているんだわ」
「人形には魂が宿るって話は聞いた事があるけど……本当にそんな事が起こるのかな」

ヨシュアは幽霊を目撃していないので、実感がわかずに信じ切れない様子だった。
何かを思い付いたような顔になったレンは態度の煮え切らないヨシュアに話しかける。

「そうだ、遊撃士って人探しもするんでしょう? だったらこのお人形さんの妹も探してあげてくれないかしら?」
「でもまだ幽霊が居るって確証を得たわけじゃないからね」
「ヨシュアはこのお人形さんの気持ちが解らないの!? ヨシュアだって、エステルと離れ離れになったままじゃ嫌でしょう!」

渋るヨシュアに、レンは目に涙を浮かべて訴えかけた。
これは一本取られてしまったとヨシュアは苦笑する。

「解った、僕が責任を持って人形探しを引き受けるよ。この家の持ち主のイメルダさんにも人形の話を聞いてみるよ」
「やったわ!」

レンとコリンはお互いにハイタッチをして喜んだ。
2人が本気だと知って、ヨシュアは無茶をさせないためにも引き受けたのだ。
そして、ヨシュアがレンとコリンと一緒に家を出ようとした所で、道を通りかかった母娘(おやこ)連れと出会った。
コリンは嬉しそうに黒髪の少女に声を掛ける。

「あっ、シズクちゃん!」
「コリン君、おはよう」

シズクの方も穏やかな笑顔で答えてから、荒れ果てた家から出て来たコリン達を見て、不思議そうに尋ねる。

「あの、コリン君達はここで何をしていたの?」
「うんとね、遊撃士のお兄ちゃんに、この家に住んでいるお姉ちゃんの妹を探すように頼んだんだよ!」

コリンはヨシュアが人形捜索の依頼を引き受けてくれた事がかなり嬉しいようで、まくし立てる様にシズクに話していた。

「もしかして、あなたはリベール王国から来られた遊撃士の方ですか?」

シズクを連れていた母親が穏やかな笑顔を浮かべて側に立っていたヨシュアに話し掛けた。
長い黒髪の着物が良く似合う落ち着いた女性だ、おそらく東方の出身なのだろう。

「どうして僕の事を?」

ヨシュアが驚いた顔で尋ねると、黒髪の女性はアリオスの妻、サヤ・マクレインと名乗った。
サヤからアリオスがヨシュア達に大きな期待を寄せていると聞かされたヨシュアは照れ臭くなって視線を反らした。
するとサヤの背中越しに、角から姿を現した導力車が飛び込んで来るのが見えた。

「危ない!」

ヨシュアは通りに立っていたサヤとシズクの手を引いて、家の門の中へと引きずり込んだ。
その直後に猛スピードで導力車がヨシュア達の目の前を通り過ぎて行った。
ヨシュアがサヤとシズクを家の庭に引き込んでいなかったら2人は大変な事になっていたに違いない。
とても怖かったのだろう、コリンが泣き出してしまった。
レンとシズクがもう大丈夫だとコリンをなだめながら、ヨシュア達はまずレンとコリンを同じ住宅街にあるヘイワーズ邸へ送り届けた。
人形捜索の件を改めてヨシュアに念を押したレンと別れたヨシュアは、次にサヤとシズクの母娘と連れ立ってアリオスの家へ行った。
アリオスの家はエステルとヨシュアが下宿しているアカシア荘の近くにあったので、ヨシュアもサヤもお互いに驚いた。
サヤから家にあがらないかと誘いを受けて、今度またエステルと一緒にお邪魔させて頂きますと答えてヨシュアはアリオスの家を後にした。
車にひかれそうになったサヤとシズクがそれほど大きなショックを受けていないようでヨシュアは一安心した。



<クロスベルの街 遊撃士協会>

ヨシュアが遊撃士協会に戻り、ミシェルに暴走した導力車の事を報告すると、ミシェルは深刻な顔になる。

「そんな危険な車が街中に現れるなんて、放っては置けないわね」

ミシェルはすぐにクロスベル警察に連絡し、暴走車の取り締まりをするように依頼をした。
ヨシュアも真剣な顔になって気になる事をミシェルに尋ねる。

「僕はアリオスさんに対する脅迫じゃないかと思うんですけど……」
「そうねえ、『特別任務支援係』の事を知っている人は限られるけど、それ以外の事でも日頃からアリオスを疎ましく感じている犯罪組織はあるかもしれないわね」

ヨシュアの意見を聞いて、ミシェルは考え込む仕草をしながらも肯定した。
2人が難しい顔をしている所に、タングラム門へ行っていたエステル達が帰って来た。

「どうした、そんな顔をして? そんなにあいつの事が心配だったのか?」
「えっと……」

ヴェンツェルに声を掛けられて、ヨシュアは返事に困ってしまった。
そこへエステルがやって来て少し沈んだ様子のヨシュアに声を掛ける。

「どうかしたの、元気が無さそうだけど?」
「別になんでもないよ、それよりもエステル達の方は大丈夫だった?」
「あたしは平気だよ、試合には負けちゃったけど勉強になったし」
「それは良かったね」

エステルの晴れ晴れとした笑顔を見て、ヨシュアも表情を緩めた。

「これから私達も、もっと仲良くしなくちゃいけないって思ったから、仕事が終わったら一緒にお酒を飲みに行こうって話になったんだけど、ヨシュア君も賛成だよね?」

アネラスに尋ねられて、ヨシュアが迷って困った顔でミシェルに視線を送った。

「構わないわ、その件はこちらからアリオスに連絡して引き継いでもらうから、行ってらっしゃい」
「ありがとうございます」

ヨシュアはミシェルに笑顔でお礼を言うのだった。
そしてその日の夜、エステル達は裏通りにあるジャズバー『ガランテ』で飲み会を行った。
アリオスの家族を襲った暴走車の事件があったので、取り止めようかとも話し合ったが、アリオス本人が気にしないでくれと言っていたので、その言葉に甘える事にした。
暴走者の事件の捜査は、アリオスがクロスベル警察の交通課やガイ達と協力して行うらしい。
酒の席でエステル達は様々な事を話したが、特に話題の中心になったのはエステル達がタングラム門の試合で戦った赤毛の警備隊員、ランディの事だった。
演習試合に大遅刻をしてしまう破天荒な行動、勝利のためにプライドを捨てる奇襲作戦、突出した戦闘能力。
実際に顔を合わせていないヨシュアも興味を持って、ランディの人物像を推測する話に参加した。

「だけど、演習試合に遅れてやって来るなんて、大した度胸よね。それとも何か大事な用でもあったのかな?」
「大方、任務をサボって遊び歩いていたのだろう。あの戦闘能力を買われているから警備隊をクビにならないでいるのではないかと思うが」

エステルの言葉に、ヴェンツェルはそう推測を述べた。
すると、エステル達の席の背後で大きな拍手が上がる。
拍手をしているのは、ウワサの当人であるランディだった。

「いやあ、そこの兄さんは鋭いね。あの時はカジノのスロットが当たりして、つい集合時間に間に合わなくなっちまってさ。ミレイユのやつがカジノまで追いかけて来て大変だったぜ」

ぼう然としているエステル達の前で、ランディは陽気な笑顔でそうまくし立てた。

「どうしてあんたがこんな所に居るのよ?」
「負けた私達をからかいに来たのか?」

エオリアとリンがランディを警戒して問い掛けると、ランディは手を振って否定し、軽い調子を変えずに言葉を続ける。

「いや、司令から臨時ボーナスを貰って、いろいろな飲み屋を回っていたら、偶然あんた達が居たから声を掛けたんだ」 

そしてランディは1人で飲むのは寂しいからと、エステル達の飲み会に参加したいと言い出した。
エステル達は困惑した様子でお互いの顔を見合わせた後、ランディの同席を認めた。
本来は遊撃士同士の親睦を深めるための飲み会だったが、ランディに対する興味に逆らえなかったのだ。)
エステル達は探るようにランディに様々な質問を浴びせる。

「ねえ、警備隊に入る前は何をしていたの?」
「当てもなく大陸中をブラブラ旅してた」
「あんたは何でそんなに強いんだ、誰かに弟子入りしたのかい?」
「トラブルに巻き込まれているうちに自然と鍛えられたのさ」
「お前はどうしてあんな奇襲戦法を思い付いた?」
「まあ、あれはまぐれだな」
「あのー、アイスは好きですか?」
「おう、大好きだぜ」

ランディはそれらの質問に明確に答えずに、のらりくらりとかわしてしまう。
そしてエステル達の質問攻めが終わると、ランディは自分の番だとばかりにアネラスに質問を返す。

「ところで、お前さんだけ紋章が違うみたいだな」
「えっと、私は見習いの準遊撃士なんです」
「へえ、どこの出身だい?」
「リベール王国のボースの街ですよ」

さらにアネラスはランディに自分の祖父が八葉一刀流の師匠である事、そしてエステルとヨシュアがカシウスの家族である事まで話してしまった。

「なるほど、それじゃあ親父さん達はあんた達を修行の旅に送り出したってわけか」
「父さん達が側に居ると、あたし達も頼っちゃって良くないだろうって」
「立派な親父さん達じゃないか」

エステルもすっかりランディに馴染んでしまっていたのを見て、ランディは一筋縄ではいかない人物だとヨシュアは内心思うのだった。



<クロスベルの街 港湾区>

エステル達がバーで飲んでいる頃、夜のクロスベルの街をアリオスは思い詰めた顔で歩いていた。
彼が目指しているのは港湾区にある『黒月貿易公司』。
カルバード共和国の東方人系勢力である黒月ヘイユエのクロスベルにおける拠点だ。
アリオスが東区画にある自宅へと帰った時、待っているはずの妻と娘の姿が無かった。
そして夕食の用意が半分ほどされたテーブルの上に手紙が置かれていた。
お前の妻と娘は預かった――『(イン)』。
クロスベル警察の刑事だった時からアリオスは脅迫状を受ける事はあったが、そのほとんどがイタズラに近いものだった。
だが今日は妻と娘が危険にさらされ、こうして姿を消している。
銀とは、共和国の東方人の間で伝説となっている暗殺者と呼ばれる人物だとアリオスは耳にしていた。
そして最近、ルバーチェ商会の用心棒に対抗するために黒月貿易公司が銀を雇ったらしいと言う情報をつかんでいた。
黒月貿易公司に到着したアリオスは、あっさりと支社長の部屋へと通された。

「これはアリオス殿、よくぞおいで下さいました」

支社長のデスクに着いていたツァオは、穏やかな物腰でやって来たアリオスに応対した。
だがアリオスの表情は固い物となっている。

「……妻と娘をどうした」
「手紙に書いた通り、お預かりしていますよ」
「お前達の要求は何だ」
「さすが飲み込みが早い。ですがその前にまず私の話を聞いてくれませんか?」

アリオスは何も答えなかった。
それを肯定と受け取ったツァオはさらに話を続ける。

「貴方のご細君とご息女を車で狙った犯人についてですが、アリオス殿はどう思われます?」
「まずルバーチェ商会が思い付くが、やつらの仕業と断定する証拠は無い」
「さすがアリオス殿、私も同意見です。もしルバーチェ商会が首謀者ならば彼らの動きを見張っていれば問題はありません。しかし、そうでは無かったら……」

ツァオはそう言って皮肉めいた笑いを浮かべた。

「……何が言いたい」
「ルバーチェ商会やクロスベル議会の帝国派議員を失脚させる事で我々は利害が一致している、ここは協力関係を組むべきだとは思いませんか?」
「妻と娘を窮地から救ってくれた事にはとりあえず礼を言う、だがこれ以上お前達の手を借りるつもりは無い」

ツァオの提案を、アリオスは厳しい表情で断った。

「協力が難しいならば、我々の商行為を黙認してくれるだけでも構わないのですが」
「くどいぞ、妻と娘を返してもらおうか」
「やれやれ、交渉は不成立ですか……いいでしょう、我々としても貴方がルバーチェ商会を潰してくれれば、それで十分な対価です」

諦めたツァオはあっさりとアリオスの要求に応じ、サヤとシズクを解放した。
2人を連れて黒月貿易公司を出ようとしたアリオスは、入口に黒装束で体を覆った人影が立っている事に気が付いた。
サヤとシズクがその人影に向かってお礼を言うのを見て、アリオスも声を掛ける。

「お前が銀か」

銀は一言も答えず、そのまま立っていた。

「妻と娘の命を助けてくれて感謝する」

アリオスは銀に向かって深く頭を下げてから、サヤとシズクを連れて黒月貿易公司を去った。
先ほどツァオと話した内容が重くアリオスに圧し掛かる。
サヤとシズクをこのままクロスベルの街に帰すのは危険だとアリオスは思った。
外国に逃がすとしても、匿ってくれる人達に迷惑をかけるわけにはいかない。
思案に暮れるアリオスの元へ、飲み会を終えたエステルとヨシュアが声を掛ける。

「アリオスさん!」
「ミシェルさんから黒月の所へ向かったって聞きましたけど」
「心配を掛けたな、みんな無事だ」

サヤとシズクの姿を見て、エステルとヨシュアは安心した笑顔になった。
そんなエステル達の姿を見て、アリオスは何かを思いついた表情でエステルに尋ねる。

「そうだ、お前達に頼みがある」
「はい、あたし達にできる事なら良いですけど」

エステルは少し驚いた顔で、アリオスにそう答えるのだった。 

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