「韓国孤児の母」田内千鶴子さん、生誕100年

韓国の孤児3000人を育てた朝鮮総督府官吏の娘

 「共生が21世紀の人類のテーマとなっていることを考えると、『乞食の大将』と呼ばれた父・尹致浩(ユン・チホ)と、共に一つの道を歩んだ母はより一層尊敬に値する。親のいない子どもは世界に900万人いるという。病弱だった私の母が3000人の孤児を育てたのだから、世界の非政府組織(NGO)が力を合わせれば、900万人の孤児を救うことができる」

 今月29日、ソウル市銅雀区大方洞の女性プラザで「国連世界孤児の日」の制定を求める大会の開会式とシンポジウムが行われた。故・田内千鶴子さん(韓国名:尹鶴子〈ユン・ハクチャ〉)=1912-68=の生誕100周年を記念して行われたこの日の行事で、息子で崇実共生福祉財団名誉会長の尹基(ユン・ギ)さん(70)=日本名:田内基=は上記のように述べた。千鶴子さんは朝鮮総督府の官吏の娘として全羅南道木浦市に来て、孤児の面倒を見ていたプロテスタントの伝道師と結婚、3000人を超える孤児たちを世話し「韓国孤児の母」と呼ばれた。千鶴子さんの遺志を受け継ぐため行われた今回の行事には、韓日両国から1000人余りの人々が集まった。そのうち半数は日本のプロテスタント教会や民間団体の関係者だった。

 会場は、韓日両国の人々が歳月を乗り越え、一人の女性の愛と犠牲を通じ一つになる場となった。「田内千鶴子生誕100周年記念事業会」の日本側会長を務める阿部志郎・神奈川県立保健福祉大名誉学長は「韓国から宗教や芸術、文化、慣習などを学んだ日本の『答礼』は、武力による侵略や創氏改名など厚顔無恥な『無礼』だった。しかし、田内千鶴子は愛の力をもって韓国の孤児たちのために身をささげた。その遺志を受け継ぐことが、韓国に対する真の答礼だ」と述べた。また、鳩山由紀夫・元首相をはじめとする日本側の要人は「田内千鶴子さんの生誕100周年を記念し、『国連世界孤児の日』の制定を求める方々に対し、心から敬意を表する」というビデオメッセージを寄せた。一方、韓国側からは記念事業会を代表して朴鍾淳(パク・チョンスン)崇実大理事長が祝辞を述べたほか、故・金大中(キム・デジュン)元大統領夫人の李姫鎬(イ・ヒホ)さんや、俳優アン・ソンギさんなど各界の関係者たちがビデオメッセージを寄せた。

■木浦の「乞食の大将」と結婚した日本人

 「あの方は私が必要だと言った。私は何もできなかったが、あの方の求婚を受け入れようと思う。日本が犯した多くの罪を少しでも償おう。たとえ苦難の道だとしても、共生園の子どもたちを私の子どもだと思い、育てていくために私の命をささげよう」。1938年、26歳の田内千鶴子さんが木浦の「乞食の大将」尹致浩さんからのプロポーズを受け入れる決心をしたときのことを、日本の著名な牧師で学者の森山サトシ氏は著書『真珠の歌』(ホンソン社)にこうつづった。当時、木浦には親に捨てられた子どもたちがあふれていた。ピアソン神学校を卒業したプロテスタントの伝道師の尹致浩さんは「共生園」を設立し、その子どもたちを育てた。プロテスタントの信者だった千鶴子さんはここでボランティア活動に従事し、尹致浩さんの献身的な姿勢に共感して、生涯を共にする決心をした。千鶴子さんと尹致浩さんは共生園の創立10周年を迎えた38年10月15日に結婚式を挙げ、その日から千鶴子さんは「尹鶴子」という韓国名を名乗った。

■日本には在日韓国人向けの老人ホームを設立

 韓国での千鶴子さんの生涯は苦難の連続だった。夫の尹致浩さんは日本の警察に48回も逮捕され、6・25戦争(朝鮮戦争)のときには北朝鮮軍と韓国軍の両方に逮捕された。51年2月、尹致浩さんが食糧を求めて出掛けたまま行方不明になった後も、千鶴子さんは木浦に残り、孤児たちを育てた。孤児たちは千鶴子さんを「お母さん」と呼んで成長し、68年に千鶴子さんが死去すると、木浦市は初の市民葬として葬儀を行った。息子の尹基さんは、千鶴子さんが死去した26歳のときから子どもたちを育て、共生園を土台に、児童養護施設や職業訓練学校など17の機関を有する「崇実共生福祉財団」に発展させた。89年からは、大阪や神戸、京都などに、日本の国籍がないため国民年金の恩恵を受けられない在日韓国人のための老人ホーム「故郷の家」を4カ所設立した。

 尹基さんは「父と母が一生歩み続けた道を追う中で、国籍が違っても、共感さえすれば不可能なことはない、ということを知った。母の誕生日であり命日でもある10月31日を『国連世界孤児の日』として制定することが願いだ」と語った。韓日両国の「田内千鶴子生誕100周年記念事業会」の参加者たちは、30日の前夜祭に続き、31日に「『国連世界孤児の日』制定を願う決議文」を採択する。

李泰勲(イ・テフン)記者
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