【コラム】被害者中心主義

 交際していた女子大生の前でたばこを続けざまに吸いながら別れを告げた男子学生が「性暴力」で訴えられた。通報を受けた学生会が事件の処理を先延ばしにしたとして、学生会長まで「2次加害者」として訴えられ、急きょ辞任した。その後、事件対策委員会は「被害者中心主義を歪曲(わいきょく)した方法で適用した」として謝罪の意を表した。いわゆる「ソウル大たばこ論争」だ。

 セクハラや性暴力があったかどうかを判断する第1原則は「被害者中心主義」だ。このような事件は心のショックが問題となるため物証をつかむのが難しい。相手の意志とは関係なく、被害者が「私はそのように感じた」と言えば、被害者の主張を支持すべきだ。

 しかし、機械的な被害者中心主義は「たばこ論争」のように社会の常識とは反対の結果を生む。これでは、子どもが自分を叱った母親を「名誉棄損」で、部下の業務上の過ちを指摘した上司を「人格冒涜(ぼうとく)」で訴えるという笑い話のようなことも起きる可能性がある。

 正修奨学会の財産売却事件を見ていると、これもまた「歪曲された被害者中心主義」ではないかという懸念が生じる。父親の朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領と「心理的なへその緒」を切れずにいる与党セヌリ党の大統領候補、朴槿恵(パク・クンヘ)氏が気の毒だと思う人は多い。だが、過去に対する誤った認識を持っているのは朴候補だけだろうか。

 釜山の企業家、キム・ジテ氏がいわゆる財産献納を行ったのは1962年のことだ。権力に引きずられた企業家はそれまで大勢いた。朴正熙政権は61年5月、韓国を代表する企業家13人を不正蓄財で逮捕した。罪名はさまざまだった。企業家たちは釈放された後「経済再建促進会」を設立し、産業化の先頭に立った。不正を行った企業を処罰する代わりに利用しようと決めた政権は「不正蓄財回収手続き法」をつくった。62年に逮捕されたキム・ジテ氏は不正蓄財処理法、外国換(為替)管理法、農地改革法、関税法違反など9項目の疑いがあった。キム・ジテ氏に対する処理方法も61年の事件と類似していた。

朴垠柱(パク・ウンジュ)文化部長
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