豊原客運

路線:台中〜梨山

乗車区間:東勢→梨山

(2009年10月乗車)


 台湾で高速バスとか拠点間を少ない停留所で結ぶようなものを除いた一般の路線バスのうち最も長距離の路線というと台中〜梨山の豊原客運バスで、台中から山間部に入り延々6時間走るというものです。

 しかも最長であるだけでなく途中台湾バス最高地点を走るというツワモノ路線ですからそそられる要素に満ちています。ここではこの最長路線の途中にある東勢というところから梨山まで乗ってみたときの様子を紹介します。

 ところで「最長と言うからには途中からでなく全線通しで乗らなきゃダメだろ。」という声も聞こえてきそうですが、私は「完乗派」ではなく「乗り継ぎ派」なのでそこはご勘弁を。

 例えば日本の最長一般路線バスと言えば五条〜新宮間の奈良交通が有名ですが、私はその路線に乗るとき山の中で乗り継ぎがしたくて完乗はせず、新宮から乗って途中今は無きすずかけラインで高野山に出た、と言えば(バス好きの方には)どういう好みかなんとなくでもおわかりいただけるかと思います。

 

 では台湾に話を戻します。台中県の東勢バスターミナルやってきたのは6時間走る路線にしてはいささか頼りない小さなバス。台中を8:00に出てここ東勢には9:20分着と既に1時間以上も走ってきているわけです。この路線は1日1往復だけなので逃すわけにはいきません。

 ターミナルで梨山までの切符を買おうとしたらなぜか車内で買えと言われ、乗車時料金箱に455元入れてレシートの切符を売ってもらいました。まずは小銭で済むことがほとんどの台湾路線バスの料金箱に100元札を4枚も押し込むことにはちょっと面白さを感じます。なお台湾の路線バスでは車内で切符を買ってお釣りがもらえることはあまりありませんが、高額のこのバスでもやはりお釣りは出ませんでした。 

 さて東勢の発車は定時の9:20から少々遅れ9:27。東勢に着く前からバスに乗って来ていた乗客は4人で、3人は東勢の町中で降りたため結局東勢を跨いでずっと乗り続けていたのはおばあさん1人だけでした。

 町中を抜けたところでは突然路肩で停車中の配送トラックの後ろに停まり段ボールがいくつか積み込まれます。物資の輸送も行っているというわけ。

 

 東勢から走り出した省道8号線は東勢から温泉で有名な谷関を通って梨山まで東西に長い台中市(元台中県)の山間部を貫き、花蓮県の有名観光地太魯閣渓谷を下って東海岸の新城まで山越えをする「中部横貫公路」と呼ばれる道です。

 しかし谷関〜梨山付近が長期にわたり通行止めになっているため、台中と梨山は同じ県にありながら南投県と花蓮県を迂回しないと車ではたどり着けません。すなわち梨山は台中市の飛び地みたいな状況になっているというわけ。なのでこのバスは省道8号線から大きく南側を迂回して南投県経由で梨山をめざします。まずは台中市から出る省道21号線に入って峠越えをしました。


 この峠越え、一般路線バスとしてみればなかなかのルートでしたが、この長距離バスにとってはまだマクラのようなもの。さっさと越えて長福橋を越えた大坪の集落から台中県から台湾唯一の海無し県南投県に入り、バスの営業テリトリーが南投客運エリアになりました。これでこのバスはしばらくよそ者です。

 南投県に入ってからは県道133号から省道14号を順調に走りこの辺りの拠点になっている埔里の町に入ります。ただしこのバスは南投客運など各社のバスターミナルがある中心部は通らずバイパスの14号で町の端を抜けるだけ。事業者のテリトリーの問題なのか、あくまで台中市内を結ぶためのバスという位置づけでもあるのか興味深いところです。

 

 埔里では10:47に大成国民小学の前(画像右)で停車し、運転手さんは携帯電話でどこかと連絡をとりイライラしている様子。間もなく乗客が3人息せききって走り込んできて運賃箱にお金を入れます。電話で路線バスを待たせるとはすごいね…。


 盆地の埔里を11:00に出るとどんどん山の中に入っていきます。11:25に霧社の集落の手前にある「農特産物展示中心」に停車し、20分ほどの長めの休憩時間。ここではお茶を売っているので試飲コーナーがあり、そこで運転士さんも乗客も並んでお茶をご馳走になります。路線バスの乗客相手ではムダだからか店員さんも商売っ気を見せず、この付近の名物香りたかい高山茶をゆったり楽しむ休憩時間でした。

 

 霧社で廬山温泉に向かう省道14号と分かれ、省道14甲号に入ります。11:55に霧社の集落を通過すると勾配がきつくなり、景色もぐっとよくなります。ダムの萬大水庫がよく見えました。この付近をテリトリーに持つ南投客運の路線は途中の翠峰(12:22通過)までなので、あとはしばらくこの豊原客運バスの一人舞台になります。もともと通行止めによる長い迂回路ですから豊原客運の「臨時」飛び地テリトリーという感じでしょうか。


 徐々に道幅が狭くはなるものの車両が小型なのでさほど幅に不足はありません。羊腸のグニャグニャ道が延々と続きます。景色はどんどんよくなりますが乗客はみんな気分が悪くなってしまったようでぐったりした様子。バスはひたすら高度を上げ、ついには3000mを超えます。

 

 標高3275m、最高地点の武嶺に12:47到着しました。ここで幸い5分ほどのトイレ休憩があったので高原の空気を吸えます。日本の路線バス最高地点はたぶん乗鞍辺りだと思いますが、それよりだいぶ高い地点ということに。面積はさほど大きくないのに標高の高い地点が多い台湾の険しさにあらためて感心しました。

 


 

 武嶺を出ると花蓮県と南投県の県境にあたる景色の良い尾根筋をしばらく走った後、徐々に花蓮県側に高度を落としていきます。ところどころ狭隘区間があり、小さな車体なので大体はスイスイ走るものの対向車が来ると少々すれ違いに引っかかりました。

 13:13、省道14号甲の終点にあたるT字路(画像右)にぶつかり、東勢でも少し走った省道8号線に入ります。ここからは花蓮から登ってくる花蓮客運バスの花蓮〜梨山間の路線も走る区間なので独占はおしまいということになります。左に曲がるとすぐ対面のすれ違いが出来ない細い合歓山隧道を抜け、また南投県側に入りさらにぐにゃぐにゃと高度を落としていきます。 


 

 標高2000m程度まで下りて県・市境を越え、久しぶりに本来の(?)豊原客運のテリトリー台中市内に戻ったら間もなく梨山の集落です。集落の端にある中華中華した派手な梨山賓館(休業中)と蒋介石像の前が終点の梨山バス停でした。14:14の到着で東勢から5時間弱、夜行じゃないし大したことないとタカをくくっていましたが、小型車両で山登りというのは大型の乗りバスに比べ疲れるものです。

 ここ梨山には本数はごく少ないものの花蓮からの花蓮客運(下左)、宜蘭・羅東からの国光客運(下右)も来ていて3社の境界になっています。どれも長時間の山道を登ってくるので運転士さんも乗客も大変。

 なお豊原客運はこの梨山からさらに奥の武陵農場まで路線を延ばしていて、車両はこの台中からのものをそのまま使っていました。(梨山〜武陵農場の乗りバスはこちら。)

 

 

 梨山周辺は険しい斜面を拓いた畑で冷涼な気候を活かし高原野菜や梨、リンゴ、お茶などが生産されています。停留所の周りはその農産物やお弁当などを売る屋台が出ているほか日本の農協にあたる農会の売店や郵便局もありとりあえず買い物には困らないところでした。


【乗り換えリンク】

■南投客運:草屯〜大坪(大坪乗り換え)

■豊原客運:梨山〜武陵農場(梨山乗り換え)

■豊原客運:台中〜卓蘭(東勢乗り換え)

■国光客運:宜蘭〜梨山(梨山乗り換え)


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